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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

強者のルール(2)

 経済には、強いものが弱いものを呑み込んではさらに強くなる、という部分があります。また、人間には、利益を得るためには何だってする、という性質もあります。これらを野放しにしておくのは有害であることが経験値として知られているので、たとえば独占禁止法や証券取引法などの法律をつくり、ある程度規制をかけているわけです。

 ところで、お金を媒介として、モノやサービスのやりとりをするという行為は万国共通です。したがって経済の成長に伴い、その活動は国境を越えて行われるようになります。そうすると競争の場が国内だけではなく、国際的になっていき、これに勝ち残るだけの競争力を身につけることが求められていきます。このこと自体は論理的に正しいので、異存のあるかたはいらっしゃらないと思います。
 ところが、この単純な論理をふりかざして、社会をミスリードする動きがあるように思います。
 現在でもときどき聞くのは、日本の農業も国際協力をつける必要がある、という主張です。外国産の安い農産物に対抗するには、それが不可欠であり、そうでなければ日本の農業はダメになっていく、というものです。
 ご存じのように、日本の食糧自給率(カロリーベース)は全体で39%しかありません。ただし、米や野菜などのようにほぼ国内産でまかなっているものもあれば、小麦などのように輸入品が大部分を占めているものもあり、品目によってばらつきがあります。

http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/report18/pdf/p03.pdf

 大豆の自給率が5%しかないのは、かつてアメリカ産の安い大豆が輸入されたことで、日本産が価格で対抗できなかったために、このようなことになったという経緯があります。経済の原則からすれば、これは仕方のないことであり、そうなりたくなければ価格を引き下げる努力をするか、品質を高める努力をするべきである、ということになります。
 世の中に流通する商品(食料も含む)には、それを購入しなくても何とかなるものとそれがないとすまされないものとがあります。
 前回は、買う立場の方が強いということを述べましたが、それは代替え品がいくらでも調達できるという場合に成り立つ原則なのです。世の中にそれしかない、ということになれば、人は争ってでもそれを買うことになります。
 ガソリン価格の高騰に伴って、小麦や大豆などの輸入価格が上がっています。食品の相次ぐ値上げについては、新聞やテレビでしつこいくらい報道してくれたので、皆様よくご存じのことと思います。
 なぜ、こんなことになるかというと、代替え品がないからです。国産小麦や大豆の生産量では、国内の需要をカバーできないので、外国産小麦や大豆が値上げされたら、おとなしくそれに従う以外に選択肢はありません。
 これが、自由競争のもたらした結果です。
 自由競争経済の信奉者(あるいは原理主義者)は、文句があるならば、国際競争力をつけるよう努力するべきで、それを怠ったのは農家自身の責任である、というかもしれません。
 しかし、そんなに単純な問題であるならば、WTO(世界貿易機関)の多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が7月29日に意見の一致をみずに決裂ルることはなかったはずです。
 自由競争というのは、工業製品のように、どこでも、いくらでも生産ができる(増産や減産も弾力的に可能)という製品については有効に機能しますが、農産物や海産物のように生産量が限られていて、そうおいそれとは変化させることができないという分野にはなじまないのです。
 だから、各国の政府は自国の農業を保護する政策を打ち出しているのであり、優先順位の付け方ははっきりしています。自国の産業も守れないで、何が自由貿易だというのが政策担当者の本音であろうと思います。

 なぜ農業が特別扱いされるかというと、それが基幹産業だからです。しかし、日本では農業が基幹産業であるという意識はあまりありません。したがって、日本は世界の工場となり、食料は他の国が生産する、という国際分業論が説得力を持つのもやむを得ないと思います。
 しかし、食料を輸入に頼るというのは、食品の安全性、安定供給という点で不安が解消されません。さらに農業の衰退は国土を荒廃させます。日本中をコンクリートやアスファルトで固めるならばともかく、現在の日本の自然環境の保全に農業従事者が大きな役割を果たしていることを、指摘する人はあまりいません。

 自由競争・自由貿易というのは、論理的には正しいと思います。
 けれども、それを適用してはならない分野もある、というのもまた事実なのです。
by T_am | 2008-08-22 07:13 | 社会との関わり

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