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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

安倍政権は民主主義システムのバグの産物なのか?

 安倍政権のこれまでの歩みを振り返って、「様々な法律や規則に定めている手続きに則って安保法制案の衆議院での強行採決ということまでやってのけた。これを許したのは、日本の民主主義のシステムのバグによるものだと思う。」と述べた友人がいます。以来、「日本の民主主義のシステムのバグ」という言葉が頭の片隅から離れません。

 システムのバグというのは、普段は潜伏期のウィルスのようにじっと身を潜めていますが、一定の条件が満たされたときに突如として発動し、場合によっては深刻な状況をもたらします。たしかに今の日本の状況にそっくりですよね。

 では、「一定の条件」というのはなんなのでしょうか? そのことを考えると、私は、安倍政権というのは、日本の民主主義の制度疲労が進行する中で生まれるべくして生まれた鬼胎のようなものではないかと思っています。鬼胎というのは、これまでの制度を守りたいという人たちの目には、安倍政権がそのように映っているという意味です。その一方で、安倍晋三を支持する人たちからは英雄のように思われている状況があります。これは安倍晋三および安倍政権をどちらの側に立って眺めるかという違いであって、どちらが正しいというものではありません。

 それでは安倍政権をつくり出したバグとは何でしょうか? それを明らかにするために現行の制度についておさらいしてみましょう。

・小選挙区制
 中選挙区制に比べると選挙区が狭くなるおかげで選挙にかかる費用が低く抑えられる効果があるともともいわれている。デメリットとしては、死に票が多く、投票率によっては3割程度の得票率でも政権党となることができる。また、少数政党ではまず当選者を出すことができない。政権党にとって大勝・大敗が起こりやすい制度。
・政党交付金制度
 派閥の求心力を弱める効果がある反面、金を握るものの権力が強くなる。
・比例代表制
 死に票の発生を抑えることができ、少数政党でも当選者を出すことができる。比例区の名簿の上位に位置できるかどうかで当落が左右される。名簿の決定権を持つ者の権力が強くなる。

 日本で小選挙区比例代表並立制度が導入されたのが1996年ですが、これまで安倍政権のような政権は登場しませんでした。では、これまでとの違いはどこにあるのでしょうか?

1.民主党の失敗をきっかけに、自分の一票を託したいと思える政治家が見当たらないとして政治に対する無関心が急速に広まったこと。
2.自民党の内部で派閥の力が弱まり、さらに党の実力者達が高齢により揃って引退影響力を失った結果、党執行部(総裁)に権力が集中するようになったこと。
3.マスコミに対する干渉と締め付け、そして懐柔を執拗に行ってきていること。
4.領土問題をめぐり国民の間に隣国に対する反感や憎悪という感情がエスカレートしてきていること。
5.前項に関して、ナショナリズムを煽るような言動を繰り返していること。
6.日銀総裁やNHK会長、内閣法制局長官などの要職の人事を徹頭徹尾自分に味方する人物で固めたこと。
7.安倍晋三とその周囲が、自分の考えが法律やルールに反した場合法律やルールを蔑ろにしても構わないと本気で思っている(その代わり結果に対する責任感は皆無である)こと。ときに国会の質問をを軽視する姿勢を見せたというのは小泉純一郎に顕著でした。そして、それ以降小泉を真似る政治家が増えたのも事実です。


 このうち、1と3は外的な要因であり、偶然の産物であるといってよいかもしれません。一方、2、4、5、6は安倍晋三という政治家が意図的に行ってきたことです。これが意味するのは、安倍晋三のような政治家は今後も登場する可能性があるということです。このことの重みを私たちは忘れない方がいいと思います。

 小選挙区制を導入したのは、日本でもアメリカやイギリスのような二大政党制に持っていくべきだと考えられたからです。当時、自民党による長期政権が続いた結果腐敗や汚職が問題視されるようになり、それというのも政権交代がないからだということから二大政党制を実現する切り札として小選挙区制が導入されたのです。その結果、自民党と民主党という二大政党による政権交代が実現するかと思われたのですが、そうはなりませんでした。
 比例代表制を導入したのは、小選挙区制オンリーでは少数政党が議席を確保することができないという理由からですし、政党交付金の導入には企業献金が政治との癒着の原因となっているということから、これを禁止するという前提で税金から政党交付金を捻出する(国民一人当たり年間250円)ようにしたという経緯がありました。(実際には企業献金を禁止することは行われませんでした。ちなみに、共産党は、自分が支持しているわけでもない政党に対し国民の税金が使われるのはおかしいという理由で、政党交付金の受け取りを拒否しています。)

 このように、これらの制度を設けたときにはそれなりの思惑もあったのですが、二十年近く経つうちに事情も変わり、今ではこれらの制度の持つ負の側面が目立つようになってしまいました。
 今の自民党を事実上のワンマン体制にしているのは、かつて行われたこれらの政治改革です。本来であればそうならないような防御機構(あるいは封印といってもいいかもしれません)が内在していたはずなのですが、上記1から7にあげたように、それらは悉く解除されてしまいました。特に影響の大きかったのは1.の政治に対して知らない、知ろうとしない無関心層の増大だったと思います。多くの人が無関心であるのをいいことに、2以下のことを着々と行ってきたのですから、用意周到といってもいいかもしれません。

 こうしてみると安倍政権というのは、日本の民主主義のシステムに生じた綻びを利用して登場したように思います。このような勢力というのは、絶えず機会を窺っていると考えた方がよいでしょう。すなわち、安倍晋三という政治家の登場は時代の必然であって、日本の民主主義は現時点ではこのような政治家に対して無防備であるといえます。もしも、現在全国に広がっている反対運動の結果、安倍政権を倒すことができたならば、私たちはのことを教訓としてシステムの改修に取り組むべきでしょう。

(1)時間をかけてもいいので中選挙区制に戻していくこと
(2)その際に一票の格差を是正すること。具体的には議員定数(総数)を増やして調節するのが現実的。ただし、議員報酬はその分引き下げすることになる。
(3)政治家に託すことと、政治に無関心であることとは違うのだと私たちが自覚すること。さらにいえば、無関心は私たちの次世代に対する責任の放棄であると自覚すること。
by t_am | 2015-07-20 20:46 | あいまいな国のあいまいな人々

by T_am