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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

「美味しんぼ」の表現について

 環境問題を取り扱う際に、予防原則という考え方があって、それを放置しておくと重大な危害を及ぼす恐れがあるときは、その因果関係が科学的に証明されていなくても、予防的に規制することを可とする、というものです。

 今回多くのメディアで取り上げられた「美味しんぼ」の表現について、予防原則を持ち出して擁護する意見をいくつか見かけました。
 その主張の背景には、「雁屋哲氏が福島へ行き取材を重ねて得た情報に基づいて発表しているものであるから、鼻血が出たというのは虚偽であるとは考えられない。低線量被爆のリスクはまだ充分解明されていないのだから、そのような環境下で鼻血が出るということは将来他の症状が発症する危険性が否定できない。」という不安と、「福島第一原発の事故の際に、メルトダウンしていたという重大な事実を長い間政府も東電も隠していたのだから、それ以外にも重大な事実を隠しているのではないか。」という不信感があるのだろうと思います。

 このような不安は、震災がれきを持ち込んで焼却するのは許されないと主張する考えと相通じるものがあるように思います。そういえば陸前高田で津波によって倒された松原の松を京都の五山の送り火でたこうとしたところ、苦情が相次いだために中止したということもありました。どちらも福島から遠く離れた宮城や岩手のものですから、放射性物質が付着していたとしてもごく僅かだと思うのですが、どんなに僅かであっても放射性物質が自分たちの住むところに持ち込まれるのを看過するわけにはいかないという思いを感じます。

 放射線に対するこれらの不安や政府・東電に対し不信感を持つことはしかたのないことだとわたしは思います。
 ただし、それはその人の胸にとどめておくべきことであって、「美味しんぼ」のような形で表明するのはいかがなものかという疑問も持っています。
 「美味しんぼ」に対し、予防原則を持ち出して擁護する意見がありました。それらの意見は、具体的にどのような措置を講じるべきなのかということには触れていませんでしたが、推測するに、放射線の被曝による被害には閾値がない以上、低線量被爆であっても危険性は排除できないのだから、予防原則に基づいて福島が危険なところであると警告するのは当然であるということがいいたいのかもしれません。実際に「美味しんぼ」では、前町長や福島大学の教授の、福島が危険なところであるという印象を与える発言を紹介すしてます。
 予防原則をそのような形で扱うのであれば、福島の人と結婚するのは見合わせた方がいいという警告も予防原則に適っていることになります。
 けれども、ここまで言ってしまうとそれは差別になってしまいます。おそらく「美味しんぼ」の原作者にも、「美味しんぼ」を擁護する人たちの間にも差別するつもりはないものと思いますが、結果として、福島は穢れた地であるといっているわけですから、それだけでそこに住んでいる人たちに対する差別になっているということは自覚してもらってもいいのではないかと思います。
by t_am | 2014-05-23 01:01 | 科学もどき

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