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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

セイヤさんへの手紙  突然変異する論理~ムラサキツユクサ~

 セイヤさんに手紙を書くのもずいぶんご無沙汰してるような気がします。僕がこのブログを書くのは、世間でまことしやかにいわれていることについて、本当にそうなのだろうか? もっと別な見方があるのではないか、と思うからです。そういう諸々の出来事の中で、セイヤさんを思い浮かべながら書くのが、この「セイヤさんへの手紙」というカテゴリーの文章です。他のカテゴリーとの違いは、思いの強さの違いなのかなと自分では考えています。
 例によって、突然このような手紙を送りつけるご無礼をお許しください。


 福島第一原発の事故以来、僕たちはそれまであまり自覚することのなかった「結論を出したがる病」(これはカオル先生のご指摘だそうですね)に犯されているということに気づかされました。何が何だかよくわからないままという状態は人間を不安にさせるので、自分の中で納得できる論理を見つけたいという衝動にかられるのだろうと思います。むろん僕も例外ではないので、その点反省しなければならないとも思います。

 
 今回取り上げるのは、現在除名騒動の渦中にある桐生市議会の庭山由紀議員のブログです。著作権の問題がある(というよりは引用するのが面倒くさい)ので、リンクを掲載しておきます。どうかご覧になってください。

(むらさきつゆくさの会のおしらせ)
http://niwayamayuki.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-c9e8.html

 このサイトには、市民会議 「むらさきつゆ草の会」というところが作成した講演会のビラの写しが掲載されています。(ブログのタイトルと団体の名称が微妙に異なるところがご愛敬ですね。)このビラには次のように書かれています。


普通「青色」の花を咲かせるムラサキツユクサが、微量の放射線の影響で突然変異を起こし「ピンク色」の花になります。微量なら安全・無視できると化学的根拠もなしに世間を支配していた放射線の危険性が明らかになりました。
桐生市内の各地でピンクのムラサキツユクサが観察されています。


 最初これを読んだときには、ムラサキツユクサの突然変異のことなどまったく知りませんでしたから、これは調べてみようと思ったのです。
 そこで辿り着いたのが以下のサイトです。


A(科学技術の「発達」を考え直す必要性がある
インタビュー: 原水爆禁止日本国民会議 市川 定夫議長)
http://www.gensuikin.org/gnskn_nws/0707_1.htm

B(放射能から内部被ばくを警告〜現地報告:ムラサキツユクサの雄しべの毛、突然変異を鋭敏に検出 [⑻放射能汚染を防ぐ、低学年のゆったり食事とレシピ])
http://38sera.blog.so-net.ne.jp/2012-05-16-1

C(ホットスポット、放射能の真実:100ミリシーベルト以下でも、危ないです! (その1)2.5ミリシーベルトでも突然変異)
http://onndannka.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-74cc.html


 この3つのサイトに共通して書かれているのは、「ムラサキツユクサのおしべの毛が放射線によって突然変異を起こし、色が青からピンクに変わる(ことがある)」というものです。最初のブログに掲載されているビラを読むと、おしべの毛の色とは書いてありません。むしろ花の色が変わるのだと解釈するような書き方がしてあります。
 特にBのサイトには次のように具体的に書かれています。

 蕾にX線を当てると、突然変異で青色の遺伝子が障害を受け、ピンク色になることがあります。
 その蕾を11~15日後に顕微鏡で観察すると、雄しべの毛の一部がピンク色になり、突然変異したことが分かります。

 
 さらには、

 約96万本の雄しべの毛を調べ、820個の突然変異を見つけています。
 100ミリシーベルトどころか、2.5ミリシーベルトでも、突然変異が起こることが分かります。



 これを読むと、最初のブログに掲載されているビラに書かれていることと全然違うということがわかります。
 すなわち、

1)突然変異によって色が変わるのは花の色ではなく、おしべの毛の色である。
2)それもおしべの毛の色がすべて変わるわけではなく、ごく一部が変わる。
3)色の変化を確実に観察するには顕微鏡が必要である。

 ちなみに、X線の線量と突然変異率の間には正の相関関係がみられるグラフが掲載されていて、突然発生率が0.001(この数値が、パーセントなのかそれとも単に割っただけの数字なのかはわかりません。つまり突然変異の発生率が千分の1なのかそれとも千分の1パーセントなのかよくわからないのです。820÷96万から推測するとたぶんパーセントだと思うのですが・・・。こういう単位の扱い方は無神経だといわざるを得ません。)を超えるのはX線の線量が20ミリシーベルトの少し手前です。

 もっとも、これらのサイトが主張したいのは、自然に発生する突然変異を除外すると、線量が2.5ミリシーベルトのときに突然変異が発生するということのようです。(詳しく知りたい方はぜひ上記サイトをご覧ください。グラフが掲載されています。)ただし、そのときの突然変異の発生率がいくらであるかはよくわかりません。(不親切ですね。)

 こういうことを長々と書いても、読むのは疲れるでしょうし、書いている僕自身嫌になってきました。そこで、結論を書くことにします。

(結論)
 この実験でわかることは、ムラサキツユクサにX線を照射すると突然変異を起こすことがあり、その結果はおしべの毛の色の変化という形で現れる。


 AからCのサイトを読んで、確実にわかったことがこれです。これ以上でもこれ以下でもありません。
 思うに、ビラを書いた人もAからCのサイトを書いた人も「突然変異」という言葉の持つ悪いイメージを利用したいのでしょうね。しかも、ビラに至っては、放射線を受けたムラサキツユクサはすべて花の色が変わるかのような書き方をしています。もともとムラサキツユクサには花の色が青いものとピンクのもの、さらには白いものが存在するそうですから、ピンクの花が見つかったからといって放射線の影響であると決めつけることはできません。
 おしべの毛の色がピンクに変わることがあるという実験の結果が、どうやったら、放射線の影響を受けたムラサキツユクサは花の色がピンクに変わるということになるのか、僕には全然理解できません。
 たぶん、桐生市ではそれだけ多くの放射線が飛び交っているんだといいたいのでしょうが、それならば線量計を使って毎日計測したデータを地道に公表した方がよほど信頼性があると思います。もしかすると、突然変異を起こしているのは、このビラを書いた人の論理性の方なのかもしれませんね。


付記
 この実験で明らかにされている突然変異の発生率が高いかどうかといえば、まあ、こんなもんじゃないかというのが正直な感想です。突然変異が起こって、それが生物の身体に悪影響を及ぼすようなものであれば、免疫系による攻撃の対象となります。その攻撃を逃れたものだけが、たとえばガンになっていくわけであり、その可能性は(免疫系がきちんと作用していれば)かなり低いと考えてよいと思います。すなわち、突然変異=致命的なダメージというのは考え過ぎであるということです。
 ちなみに、人間の身体の中では、毎日およそ50個程度のガン細胞ができているそうですが、それらが必ずガンになるというわけではありません。

 
by t_am | 2012-06-13 23:39 | セイヤさんへの手紙

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