人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

原発事故と思考停止

 定期点検等で停止した原発の再稼働を認めるかどうかで、政府や電力会社は早く再稼働させたいと考えていますし、マスメディアはこれに否定的な立場での報道を繰り返しています。メディアが否定的な立場で報道するのには理由があって、政府や電力会社に比べ弱者である庶民の側に立っているということと、その方が「売れる」と計算しているからです。メディアのこのような立場については、もともとマスメディアというのはそういうものなのだと思ってニュースを見るしかありません。
 それはそれでしかたないのですが、気になることがあるので、今回はそのことについて申し上げることにします。

 私が気にしているのは、「原子炉内に核燃料がある限りそれが圧力容器の中にあろうと燃料プールの中にあろうと冷やし続けなければならない」という単純な事実です。それができなくなれば福島第一原発のような事故が起こります。つまり、原子炉を停止しているといっても、点検のため燃料プールに移された核燃料は、何があろうと冷やし続けなければならないということです。
 福島第一原発の事故を教訓にするのならば、いかなる事態が起ころうとも原子炉の冷却機能が失われないようになっているか、そのことをまずチェックしなければならないはずです。津波が来たときの防潮堤を建設するとか、非常用電源車を何台配備したとかいうのはそういうチェックの結果に基づいて起案されるべき対策にすぎません。福島第一原発では津波に襲われすべての電源が失われるという事態が起こりました(さらには配管の損傷も起きているはずですが、実際にどの程度の損傷が発生したのか明らかにされてはいません。配管は建物の中にあるのですから、これらが津波によって損傷したというのは考えにくいといえます。すなわり、地震のゆれによって損傷したと考えるべきでしょう)。
 津波が原因による事故なのだから他の原発でも津波に襲われないようにすればよいとか、非常用の電源を確保すればよいという発想では将来起こりうる「想定外の事故」を防止することはできません。
 2011年3月11日にあのような大地震と大津波が襲うとは誰も想定していませんでした。政府も東電も事故の原因を想定外の天災に襲われたためと発表していますが、それは嘘だと感じている人も多いはずです。今回と同程度の津波が過去に発生しているという指摘が実際にあったわけですが、その対策に要する費用が莫大であるために、自分の在任中はそんな災害が起こらないだろうとタカをくくって、実施を先送りしていたというだけのことです。

 原子炉の冷却機能というのは、単純化すれば、冷却水とこれを循環させるための配管および放熱のためのラジエーター、さらには冷却水を送り出すポンプとこれを動かすモーターによってできあがっています。実際はものすごく巨大な装置になっているわけですが、これらのシステムのどこかに損傷が発生すると結果として冷却装置は止まることになります。
 繰り返して申し上げますが、たとえ運転を停止中の原子炉であっても、天災等により冷却システムの損傷が発生すれば最悪の場合、福島第一原発の4号機のように過酷事故につながるということを私たちは学習しました。ゆえに原子炉を停止しているから安心していられるというものではないのです。

 一番いいのは原発をただちに廃止することですが、それは物理的時間的に不可能です。

 したがって、何があろうと冷却システムが動き続けるということが担保されるようにすることが緊急に実施しなければならないことであるといえます。ストレステストは、原発がどこまで耐えられるかを数値的にシミュレートするものに過ぎません。大飯原発3号機のストレステストの結果が公表されていますが、1260ガルのゆれ(想定は700ガル)まで耐えられるという結果は甚だ心許ないと思います。(2004年に起きた中越地震では震源地に近い小千谷では1500ガル、十日町では1750ガルを記録しています。また東日本大震災では宮城県栗駒市で2933ガルが記録されています。)
 この結果は、原発の至近距離で直下型の地震が発生した場合、原発が持たないかもしれないという疑いを持つのが妥当であると思います。ゆえに、まともな判断力の持ち主であれば、限界値以上のゆれが来た場合でも冷却システムが動き続けるようにするにはどうしたらいいかを考え、どうしても不可能であるというのであればその原子炉からはただちに燃料を撤去する以外にないと考えるはずです。原発の再稼働はそれらの問題点がクリアされて初めて可能となるものです。

 本来そのような手順ですすめればよいのですが、電力会社も政府も金勘定(経済に悪影響を及ぼしては困るという考え)に走っているせいか、いきなり原発の再稼働を持ち出すものですから、再稼働ありきのシナリオを描いているといわれてますます信用されなくなっているわけです。残念なことに、政府や電力会社に対する不信感が蔓延している以上、原発が立地する自治体のトップが世論を押し切って再稼働を認めるというのはあり得ないことです。というのも、誰も自分が再稼働を認めた首長第一号になりたがらないからです(これはセイヤさんの指摘。あいかわらず鋭いですね)。
 その点で自治体のトップとはいっても保身を優先させるのだなといささか情けなく思います。原発が立地する地域では電力会社が落とす金によって経済が回っているところもあるわけですから、このままいつまでも原発が動かなくなれば困るという事情も抱えているはずです。また、電力会社による電気料金の大幅値上げの動きも伝えられており、原発を再稼働させるかどうかは、原発のない地域に住む人々にとっても他人事ではなくなってきています。
 自治体のトップは、そういう事情と原発の安全性を天秤にかけて判断しなければなりません。そこで、原発がいかなる災害に襲われようとも冷却システムが機能し続けるという「保証」(安全だと政府に判定してもらうことではありません。どうせあてにならないのですから。保証というのは冷却システムが動かなくなった場合、最後まで責任をとるという意味です。政治家や役人、大会社のビジネスマンは責任をとると断言するのをすごく嫌がるものです。)を政府と電力会社に要求することが第一。それができなけばシステムに欠陥があるということになるので、ただちに対策の実行を要求するというのが第二。第三に、事故が起こった場合の住民の避難経路・避難方法・避難先の確保についての立案を指示しておくこと。いかなる災害が起ころうとも冷却システムの稼働について政府と電力会社が保証するとなった時点で再稼働に賛成するが、それまでは絶対に認めない。どうしても対策がとれないというのであれば原発の撤去を要求するという考えを表明するのが理性的かつ合理的な行動であると思います。首長のそのような判断に対し、何が何でも原発は廃止すべきだと反対する住民もいるでしょうが、その場合情理を尽くして説明をするということが自治体の首長には避けられません。

 再稼働をめぐる一連の報道には、どうも原発は停止していれば安全だという誤った認識があるように思えてなりません(政府の造語である「冷温停止状態」というのも、この勘違いにつけこんだものであるといえます)。大事故になればなるほど情報が錯綜するのでこのような事実誤認はやむを得ないと思いますが、今回は事実誤認を誰も訂正しようとしていません。その結果、社会が一種の思考停止状態になり、みんなが不幸になっていくということになりかねないと思うのです。

付記
 再稼働を認めなければ安心していられるという心理は、一昨年に起こった新型インフルエンザの騒動を思い出します。あのときは日本中の大型施設や事務所の入り口に消毒用アルコールのスプレーが置かれ、マスクをしたまま外出する人の姿を多く見かけました。SARSのように伝染力が極めて高いウィルスならばこのような対策も必要でしょうが、そうではないのですから明らかに過剰反応だったと思います。
 原発の再稼働が危険なのではありません。停止していても危険であることに変わりはないのです。ゆえに,
このまま放置しておけば危険極まりない原発を危険でないようにするにはどうしたらいいかが大事であって、再稼働を認めるなという圧力は、新型インフルエンザ騒動のときと全く同じように、無意味なことのように私には思われます。
by t_am | 2012-01-23 22:31

by T_am