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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

目的の明示

 東京電力が事故収束に向けた工程表を発表しました。工程表そのものはこちらで確認することができます。

http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110418/dms1104181607018-n1.htm

 ここでいう「事故の収束」とは何を意味するのか考えてみると、東京電力と政府が何を第一義に考えているかがわかります。

 私が今まで考えていたのは、燃料棒の冷却に失敗してこれが溶け出す(炉心溶融)ことによって、落下した燃料が一定量を超えると再臨界という核分裂反応が起こる可能性があり、そうなるともはや制御不能に陥ってしまうために、これだけは絶対に避けなければならないということでした。
 そのためには燃料棒の冷却が緊急の課題であり、冷却水の循環システムが損傷している以上、外部から注水する以外に燃料を冷やす術はありません。ところが、圧力容器や循環システムの配管が損傷しているわけですから、外部から注水すればそれだけ放射性物質に汚染された水が外部に流れ出ることになります。その経路は、水蒸気とともに空気中に放出されるもの、および汚染水として海中に流れ込むものがあるのですが、再臨界という最悪の状況を回避するためには、放射性物質の外部への流出は避けられないと考えていたのです。現時点で注水をやめれば、燃料棒の熱は高くなり、炉心溶融によって再臨界のおそれが高くなるからです。

 それは周辺の地域と海中に放射性物質をまき散らすことになりますが、現在の原子力発電所というのはそういう構造になっているのだということです。水素爆発が起こり、原子炉建屋の上部が吹き飛んだのは、そういう設計になっていたからです。つまり、爆発の衝撃波を逃がすために原子炉建屋の上部が他の箇所よりも比較的弱くつくられているということです。仮に、もっと頑丈につくられていれば、爆発の衝撃波は内部に向かうことになりますから、格納容器が破壊されていたかもしれません。そうなると実質的にチェルノブイリの再現となります。

 原子炉の破壊を食い止めるために周辺に放射性物質をまき散らす構造になっているということは、原発の周辺に住む人たちにとっては許し難いと思います。そのことは公表されてきませんでしたし、今回の事故で初めて気がついたのですから。

 放射性物質の拡散をくい止めるには、原子炉建屋を覆うこと、および汚染水の漏出をくい止めることが必要であり、本来ならば燃料棒の冷却とは別の問題です。ところが、その作業を困難にしているのは、高濃度に汚染された水が原子炉建屋の外に漏れだしていることにあります。また、現状のまま原子炉建屋を覆うカバーを設置しても、水素爆発が起これば同じことになります。
 したがって、燃料棒を冷却してこれ以上炉心溶融を進行させないということが優先課題であると東電は考えて工程表を作成しており、政府もこれを了承したものと思われます。ですから、この工程表には原発施設内のことしか書かれていません。つまり、東電にとって「事故」とは福島第一原子力発電所の施設内で起こったものを指すのです。その外側で起きていることについては政府が責任を持つということにならざるを得ないのですが、それならば政府も避難している住民のための「工程表」を作成して公表すべきです。残念ながら今のところそういう動きは政府の中にはないようですし、民主党の政治家たちがそのことを「政治的に主導」しているという動きもないようです。

 以下は余談です。

 汚染水の流出をくい止め、同時に燃料の冷却を可能にする手法として、原子炉建屋とタービン建屋を覆う容れ物を建設し(ただし、まだ上部は開けておく)、その中で冷却水の循環施設を設けてはどうかと思います。冷却水循環移設の配管が壊れており、これを修復させるのは(その構造が複雑すぎて)容易ではありませんが、このやり方だと、壊れた循環システムを使うことが可能です(漏れた汚染水が新たに設けられた容れ物の外側に出て行くことはありません)。そうやっておいて、燃料棒が冷え、水素爆発のおそれがなくなった時点で上部を塞いでしまうのです。イメージ的には原子炉とそれに付随する施設を巨大な水槽で覆ってしまうというものです。この水槽の中の水を冷やすために、海水を使った熱交換機が必要となるのは従来通りです。規模が大きいだけに費用のかかると思いますが、早く事故を収束することができるのではないかと思います。また、作業員が施設内に入る必要もないので、被曝する危険性も小さくなるでしょう。
 放射性物質の拡散が止まれば、避難している人たちが帰ってくることできるようになるのですから、それがいつになるのか、早くすることはできないのか、という視点で今回の事故について考えることも必要だと思います。
 なによりも、福島県の人たちにとって「事故の収束」というのは、避難指示が解除されることと土壌などから検出される放射性物質の放射能が基準値以下になることなのです。
 
by T_am | 2011-04-19 07:11 | その他

by T_am