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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

ミスリード

 今朝の新聞に次のようなニュースが掲載されていました。

「厚生労働省は7日、タミフルとリレンザの2種類があるインフルエンザ治療薬の国内備蓄量が、卸業者などの在庫分を含めて8月末で5千万人分に達したことを明らかにした。」(共同通信)

http://www.47news.jp/CN/200909/CN2009090701000740.html 

 同様のニュースは時事通信も配信していますが、こちらはまともな報道の仕方をしてます。。

「厚生労働省によると、国と都道府県のタミフル備蓄量は、8月末現在で計約4095万人分。」

http://www.jiji.com/jc/zc?k=200909/2009090700313&rel=j&g=soc

 共同通信の配信では、タミフルとリレンザのことをはっきりと「インフルエンザ治療薬」と書いていますが、これは事実と異なります。製造販売元である中外製薬ではタミフルやリレンザについては「抗インフルエンザウイルス剤」という呼び方をしているように、これらの薬はインフルエンザウィルスの増殖を抑える効果がありますが、ウィルスを殺すわけではありません。つまり、タミフルやリレンザはインフルエンザによる症状がそれ以上悪化するのをくい止めることはできても、インフルエンザを治すことはできないのです。

 風邪を治すことができる薬を発明したらノーベル賞ものだといわれるように、風邪を治す薬というのはこの世に存在しません。風邪薬といわれているものはすべて「風邪の諸症状を緩和する」薬にすぎないのです。
 インフルエンザでも同様です。その証拠に中外製薬のニュースリリースでは「治療」という言葉は使われておらず、慎重な言葉遣いがされています。

http://www.chugai-pharm.co.jp/generalPortal/pages/detailTypeHeader.jsp?documentId=doc_15525&lang=ja

 にもかかわらず、共同通信のニュースで「治療薬」という言葉が使われているのは、厚生労働省の発表の中で「治療薬」という言葉が使われていたか、あるいは、共同通信の記者が「治療薬」という言葉を用いたかのどちらかであると考えられます。
 実際はどちらななのか確かめることはできませんでしたが、いずれにせよ、不用意な報道であり、国民の間でタミフルやリレンザを投与することでインフルエンザは治るのだという誤解を広めることになると懸念されます。
 医師の診察によって、タミフルやリレンザを投与するまでもないと判断されればこれらの薬が処方されることはないわけですが、患者がタミフルやリレンザは治療薬だと思い込んでいれば、この医者は自分に薬を出してくれないと不満に思うことになります。
 基礎疾患を抱えているのでなければ、新型インフルエンザであっても2-3日安静にしていれば自然に治るのですから、タミフルやリレンザを投与しなければならない理由は特にないといえます。また、投与してもタイムリミット(感染者に接触してから48時間以内)を過ぎていれば、インフルエンザウィルスの増殖を抑える効果は期待できなくなるのですから、これらの薬には限界があることを知るべきでしょう。

 新型インフルエンザに関する報道と厚生労働省の発表をみていると、失礼ですが、科学的な思考訓練を受けていない人が携わっているとしか思えません。単なる無知でやっているのか、それとも何か含むところ(可能性が高いのは責任回避)があってやっているのかはわかりませんが、正確でない情報、不必要な情報、無意味な情報が繰り返し提供されてきた結果、国民の間では不安が広がっています。一般市民が流言飛語に惑わされるのはやむを得ないといえますが、所轄官庁と報道機関に携わる者には正確な情報を伝える責任があることを自覚すべきでしょう。先頭に立ってミスリードするような真似は直ちにやめるべきです。 
by T_am | 2009-09-08 23:52 | 科学もどき

by T_am