支離滅裂(1)
15兆円といえば国民一人あたり12万5千円となります。しかし、誰もがその恩恵を受けることができるわけではありません。自分には関係ないという人も多いはずです。
麻生総理は、その財源を国債で賄うと説明しており、将来の景気回復を前提に消費税を含む抜本的な税制改革に取り組む決意であることを表明しています。
このことを単純化してみると、次のことがわかります。
1.今回の補正予算(経済対策)で額面通りの恩恵を受ける人は少ない
2.その財源は国債なので、将来国民が返済しなければならない。
3.消費税率がアップした場合、今回恩恵を受けなかった人も税負担をしなければならない。
麻生総理のいう「抜本的な税制改革」がどのようなものになるのかは明らかではありませんが、その内容は個人に対する増税であることが予想されます。所得税の恒久減税はいとも簡単に廃止されましたが、企業に対する優遇税制が撤廃されたという話は聞きません。 今回の経済対策で恩恵を受けるのは一部の個人だけでなく、企業もそうなのですから、その財源である国債という借金の返済を企業も負担しても罰は当たらないと思います。しかし、財政再建のためには増税が不可避であるというメッセージは常に個人に向けられており、マスコミも政府の説明通り国民に向けて忠実に報道してきました。
今回行われているETC利用者だけに高速料金の割引をするというのも、税金を使って割引分を高速道路会社に補填するわけですから、税金の使い方としては非常に偏ったものであるといえます。自動車に乗らない人やETC車載器を持っていない人は割引を受けることができないからです。それでも高速道路料金の割引は霞ヶ関埋蔵金といわれる確保済みの税金を使うのですが、このたびの経済対策の財源は赤字国債を発行して確保することになっています。その借金の返済は消費税という個人に対する増税で賄うと総理大臣が明言しているのです。
この国はいつの間にかこのような不公平が横行する国となってしまいました。そして誰もそのことに異議を申し立てないという情けない国でもあります。
せっかく補助金が出るのだからもらわなければ損であるというのはまだ理解できます。それよりも、自分さえ金儲けができれば後はどうなろうと構わないという気分が横行していることの方が不公平を横行させる原因となっているのだと思います。
金を儲けた人間が賢いのであり、そうでない人間はバカである。そして自分には金儲けできるだけの能力が備わっている。このような根拠のない自信を持つ人が増えればそれだけ社会の不公平さは助長されることになります。なぜならば、社会に環流しているお金をできるだけ多く手にするということはゼロサムゲームに参加するということですから、大儲けをする人間がいればその分貧乏になる人が出てくるのは当然ということになるのです。
大貧民というトランプのゲームがあります。今の日本は国を挙げて大貧民をやっているようなものです。トランプゲームとしての大貧民は大富豪でも大貧民に没落しかねないというスリルがありますが、現実の社会はそうではありません。企業というプレーヤーも参加しているにもかかわらず、大貧民としてなけなしの財布から「税金」を支払うのは常に個人であるというところが決定的に異なります。つまり、大貧民は個人の指定席となっているのです。そして、その旗振りを一国の総理大臣がしているのですから、もはや支離滅裂というか末期状態であるといわざるを得ません。
私は小泉純一郎氏を戦後最悪の総理大臣であると思っていましたが、麻生太郎氏もこれに匹敵する総理大臣であると申し上げます。過去に無能な総理大臣は何人もいましたが、ここまで国民生活に害をなす政治家はちょっと見あたりません。
私たちの不幸は、極めて短期間に最悪級の総理大臣を二人も持ってしまったということと、自分自身がその共犯者であることに気づいていないというところにあります。したがって、これからも似たような総理大臣が登場することも充分考えられるのです。
こうして書いているとだんだん腹が立ってきました。今回の経済対策がどれだけの効果をあげるか疑問に思っておいでの方も多いと思います。そこで、次回はなぜ財政出動が充分な効果をあげられないのかについて述べることにします。