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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

バラク・オバマ大統領の誕生に思うこと

 ジョージ・ブッシュの次の大統領は、バラク・オバマに決まりました。このことの意味について整理してみたいと思います。



 ジョージ・ブッシュの8年間の最大の特徴は、アメリカ社会における富の偏在が進行したということに尽きると思います。このことは、いいかえれば、庶民から巻き上げた金が一部に集まっていくというシステムが社会の隅々にまで拡張され強化されたということになります。自由主義経済の蹉跌ともいえるこの現象についてはいずれ改めて考察することにして、貧困層が拡大する結果となった政策を推進したのはブッシュ大統領であることは間違いありません。
 バラク・オバマ大統領の誕生は、アメリカ国民がジョージ・ブッシュ的なものはもうこりごりだという心情をあらわしていると思います。
 それだけにオバマ新大統領にかける期待感は大きなものがあります。
 そのなかには、オバマが初の黒人大統領となることが大きな要素として存在しています。アメリカで人種差別を禁止する公民権法が制定されたのが1964年であり、黒人の投票を保証した(それまでは州政府などの地方行政府によって投票権が実質的に奪われていた地域があった)投票権法が制定されたのが1965年ですから、まだ43年しか経っていないことになります。
 投票日の模様を映し出したテレビ映像に、黒人の老婆が「私は今まで67年間(数字は違ったかもしれません)待ってきたのよ。だから投票のために数時間待つのは何でもないわ。」と語っていた姿がありました。
 こういう背景を知ると、初の黒人大統領を待望する勢力とこれを快く思わない勢力がアメリカ社会にはあることが想像され、オバマはいずれ暗殺されるのではないかという憶測の根拠ともなっています。
 オバマを支持したのは、黒人層だけではありません。白人の四割強の人がオバマに投票したと推測されています。その理由は、オバマが理想主義者であるところにあります。
 共和党のマケイン候補のイメージは経験豊富で堅実な政治家というものでした。しかし、こういうタイプは現実の改良はできても変革はできないものです。アメリカ国民もそのことがわかっていました。つまり、今回の大統領選挙は、多少の改善は必要だが現状のままであってほしい勢力と現状を変革してほしいと考える勢力の争いであったということになります。
 そうはいっても、オバマに投票した人たちというのは黒人層や貧困層だけではありません。リーマン・ブラザーザズの経営破綻から始まった今回の金融危機への対応のしかたにマケインとオバマとでは差があって、その失点が、本来はマケインを支持したであろう人たちがオバマの支持にまわったことを忘れてはなりません。
 支持する人々が増えれば、それだけオバマ大統領に期待するものは多様で複雑なものになっていきます。その分新大統領に与えられた課題は増え、難易度も高くなっているわけです。
 今回の選挙の結果をみて、私は小泉さんが自民党の総裁に選ばれたときのことを思い出しています。あのときも、国民の大部分が小泉さんに期待しましたが、その期待するところは(極端にいえば)個人によってまちまちでした。そして、小泉さん自身が考えてい改革の姿が私たちの期待と違っていたこと、その可能性を考慮しなかったのが私自身の誤算だったと思います。
 オバマの演説を聴くと、この人は高い理想を掲げた人なのだと感じます。けれども、オバマも人間である以上ミスも犯すでしょうし、考えの及ばないところもあるはずです。つまり、オバマの考える「私はこうしたい」と国民が思っている「こうしてほしい」とが齟齬をきたす可能性が極めて高いということなのです。
 愛情が強ければそれだけ裏切られてときの憎しみも強くなります。アメリカ国民が、オバマは自分たちの期待に応えてくれないと思ったときの失望感は、期待が大きいだけに、深刻なものになることが予想されます。
 しかし、オバマはしたたかさも併せ持っています。大統領選のための資金集めとボランティアの獲得の手腕をみると、単純な理想主義者ではないことがわかります。そうでなければ上院議員経験1期で47歳でしかない人物が大統領になれるはずがありません。

 オバマが5日行った勝利演説の中で、注意を引かれたのは、奴隷解放を行ったリンカーン大統領の「人民の人民による人民のための政治」という言葉を引用したこと、そして自分に投票しなかった人たちに呼びかけたことです。
 オバマがリンカーン大統領の言葉を引用したことには次のメッセージが込められていると思います。
 第一に、奴隷解放運動に始まったアメリカ社会における黒人の人権の確立は、自分が大統領になることでようやく完結したということ。(45年前にキング牧師が行った「I have a dream」という演説の抜粋がテレビでも放映されていました。)
 第二に、自分はリンカーン大統領のような変革者になってみせるという決意。
 この決意があるから、オバマは自分に投票しなかった人たちに呼びかけるということを行ったのだと思います。

 今後、アメリカ社会の各層が個々に抱いている期待とオバマ大統領が考えていることに齟齬があったことが明らかになっていくでしょうし、そのときの危機をオバマ大統領が乗り切れるかどうかはまだわかりません。
 しかし、オバマの理想主義には共感できるので、オバマ大統領の誕生を素直に歓迎したいと思います。

I have a dream that one day on the red hills of Georgia, the sons of former slaves and the sons of former slaveowners will be able to sit down together at table of the brotherhood.
(私には夢がある。いつか、ジョージアの丘の上で、農場奴隷の子どもたちと農場主の子どもたちとが同じ仲間としてひとつのテーブルに着ける日が来るという夢が。)
                     (キング牧師が 1963年にリンカーン記念堂の前で行った演説より)
by T_am | 2008-11-09 07:13 | その他