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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

航空幕僚長の更迭について考える

 田母神俊雄航空幕僚長が10月31日更迭されました。その理由は、「我が国は侵略国家だったなどというのは、ぬれぎぬである」という政府見解と異なる論文を発表したことにあります。



 今回の騒動は、過去にあったことの繰り返しであり、違いは何かといえば、過去の事件では閣僚の失言でしたた、今回は現役の自衛隊幹部による意見表明であることです。同氏の論文の全文を読むことはできませんでしたが、そのポイントが新聞に掲載されていました。ちょっと長いのですが以下に引用します(新潟日報 11月1日付朝刊より)。

1.わが国は蒋介石より2抽選層に引き込まれた被害者。ルーズベルト(米大統領)の仕掛けたわなにはまり真珠湾攻撃を決行することになる。

2.中国大陸や朝鮮半島を侵略したと言われるが、旧日本軍の駐留は条約に基づいたものだ。相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。昔も今も多少の圧力を伴わない条約など存在しない。

3.わが国が侵略国家だったというのはまさにぬれぎぬだ。

4.東京裁判はあの戦争の責任をすべて日本に押し付けようとした。そのマインドコントロールは戦後六十三年間を経ても日本人を惑わせ、集団的自衛権も行使できない。攻撃的兵器の保有も禁止されている。このマインドコントロールから解放されない限り、わが国を自らの力で守る体制がいつになっても完成しない。

5.(満州では)侵略といわれるようなところに人が集まるわけがない。満州国は、わずか十五年の間に日本政府によって活力ある工業国家に生まれ変わった。

6.朝鮮半島も日本統治下で人口が約二倍に増えた。豊かで治安がよかった証拠だ。日本政府と旧日本軍の勢力によって現地人は圧政から解放され、生活水準も格段に向上した。

 こういっては失礼ですが、田母神誌の論点には特段目新しいものはありませんいずれも過去において、政治家による「失言」という形で表明されてきた意見です。
 そして、このような発言に対して批判が巻き起こり、中国と韓国の政府・世論が反発し、発言者が責任をとる形で辞任するという構図も同じです(今回の田母神航空幕僚長の場合は更迭。しかも日本政府が更迭を決定した方が早かった)。

 過去のいずれの場合でも、発言者は自分の発言が間違っていたとは考えてはいないと思いますし、日本の社会の中にもこれに同意する人たちがいることは間違いない(だからこのような発言が繰り返される)と思います。
 今まで、このような発言が行われると中国と韓国の政府が早速非難してきましたが、それも当然であると思います。誤解しないでいただきたいのですが、中国・韓国政府の見解の方が正しいというのではありません。これらの国のアイデンティティは「日本による侵略からの解放」というところにあるのですから、そのような兆候が日本の国内で見かけられればこれを見逃すわけにはいかないのです。
 しかし、今回の件について、中国政府も韓国政府も論文の内容についての批判にとどめていることから、これ以上拡大させたくないという意図があるようです。両国とも国内世論の反発が高まれば政府として何らかの対応があるかもしれませんが、少なくとも現時点では抑制的に行動していることを考慮すると、中国政府と韓国政府は「侵略国家日本の否定」以外のオプションを選択した方が、国益に叶うこともあるということを発見したのかもしれません。
 では、国内の批判勢力はどうかというと、自民党を否定するところに自己のアイデンティティを見出しているという状況は変わっていないように思います。この点、社民党は全く変わっていませんし、民主党の鳩山さんが「任命責任を追及する」などと息巻いていますが、これも自民党を否定するしか能がないのか、というふうに思ってしまいます。
 私は、他人や他国を否定することでしか自己のアイデンティティを主張できない人間や組織を基本的に信用しません。なぜならばそれが影のような存在だからです。「もの」に光が当たると影ができます。影は自分に光が当たらないことに不満があるので、光を遮っている「もの」を否定しようとします。そして首尾よく「もの」が消え去るとどうなるかというと、影そのものも失われてしまう(存在理由がなくなる)のです。
 今までの中国や韓国の姿勢というのは、まさにこの影と同じであったと思います。だから、どれだけ日本(の政治家)が謝罪しても水に流してはくれないわけです。水に流した瞬間に自分たちの存在意義がなくなってしまうのですから、それも当然であるといえます。
 日本の野党はどうかというと、社民党は、過去数十年間自民党と対立することで存在意義があった政党ですから、今更その体質を転換することはできないと思います。共産党はマルクス主義(共産党は「科学的社会主義」といってたかと記憶しています)というアイデンティティを持っていますが、ソ連をはじめとする社会主義国家群の崩壊により、マルクス主義そのものに実効性がないことが明らかになってしまいました。
 民主党は、この問題に対する論評だけでとどめておけばいいと思うのですが、自民党政府にダメージを与えたい欲にかられ、それにエネルギーを費やすのは社民党と同じ轍を踏むことになるだけで、党としてマイナスになると思います。そもそも日本人には他人の揚げ足をとったり、批判ばかりしている人間を口先だけのヤツとして、嫌う傾向があります。だから、敵の失点は自分の得点という発想はいいかげんやめにしたらどうかと思うのですが、鳩山さんはそういうことが大好きのようです。

 「正しい歴史認識」というフレーズがありますが、この言葉の意味は「自分の歴史認識に同意せよ」という意味ですから、そうでないものはすべて「誤った歴史認識」とされてしまいます。したがって、日中韓三国の国民が「正しい歴史認識」を共有しなければならないというのは危険な主張であるということになります。
 今回の田母神論文は、過去の閣僚の失言問題と同様に、私たちに以上のようなことを再認識するきっかけを与えたと思います。懸賞論文の審査委員会(委員長は渡部昇一氏)がこの論文を最優秀賞にした理由は知りませんが、日本の社会に問題を投げかけてくれたと思います。
 全文を読んでいない以上、論文の内容について述べることはできないのですが、そのポイントを見る限りではずいぶん強引に論理を展開しているところがあるようにも思われます。要するに筆者は自衛隊の権限と装備を強化したいのでしょう。私はそのように解釈しました。

 現職の自衛官がこのような論文を公表するのはシビリアンコントロールが機能していないのではないかという指摘もあるようですが、私はそうは思いません。軍人は、政治が決定する政略を実現するための手段のひとつとして戦略と戦術を担当する(ほかの手段として外交があります)、ということがシビリアンコントロールの要諦であると思います。軍人が政略を無視して独自の戦略と戦術を企画し実行することの危険性を、私たちの祖父母や父母は先の戦争で学習しました。だからこそ軍人は政治家に従うというシビリアンコントロールという概念が導入されているわけです。現時点では、自衛隊が政略を無視しているという事実は見あたりません。
 では、現職の自衛官がこのような問題提起を社会に対して行うことがいいことなのか、と問われれば、提起された問題を受け止めてきちんと議論するという風潮がこの社会にある限り心配はいらないと思っています。むしろ、警戒すべきはストックフレーズを持ち出して思考停止状態で物事を処理しようという風潮が当たり前になることです。この件に関する政府・与党・野党の対応(識者のコメントはまだ見あたりません)を見ると、きちんと論評したものがないまま終わってしまいそうです。
 自分で考えて自分で決める。そのために選択肢が常に何種類かは確保されていなければならない。これが「自己決定自己責任」という言葉の意味であり、自立した個人と独立した国家に通用する論理です。しかしながら、もしかすると日本の社会はきちんと考えることをしないまま対応するという風潮に染まりつつあるのではないか、ということが心配されてなりません。
by T_am | 2008-11-02 09:21 | 社会との関わり