人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

相関関係と因果関係

 今回も人間が犯す過ちの話です。
 神奈川県立神田高校の入試で、茶髪やピアスあと、態度など、外見のチェックを受験者に知らせず行い、22人を不合格にしていた(2005年、06年で6にんづつ、08年で10人)ことが報道され、校長が事実上更迭されました。この措置に対して、神奈川県教育委員会に10月30日だけでおよそ700件の意見が寄せられ、その9割以上が校長を支持するものだったとのことです。

「FNNニュース」
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00143253.html

 ちなみに更迭の理由は、外見も選考基準となっていることを公表せずに不合格にしていた(公表されているルール通りやっていなかった)ことが問題だということです。
 今回は、校長の更迭の是非について触れるものではありません。



 神田高校では、退学者が年間で100人以上出ているところで、入試の難易度でいえば底辺に近いレベルにあるとのことです。合格者の選定基準に外見のチェックを加えたのは、「大人への不信感を持つ子が多く、生徒指導に苦慮していた。教諭の負担を軽減したかった」「真面目な生徒を多く取り(入学させ)たかった」と校長が述べています。

「J-CASTニュース」
http://www.j-cast.com/2008/10/30029550.html

 つまりこの校長は、茶髪やピアスあとのある受験生は真面目ではない、という判断をしていたということであり、校長を支持する人も同様の考えを持っているようです。
 ここで茶髪やピアス、態度などの外見と生徒の問題行動との関係をみると、相関関係があるのは明らかのようです。問題行動を起こした生徒の共通点をさぐると、茶髪であったり、ピアスをしていたり、態度が悪かったりしていた、ということなのでしょう。
 このように2つの現象(ここでは外見と問題行動)の間に、一方が増加していくともう一方も増加するという傾向がみられるときに、そこに正の相関関係があるといいます(一方が増加するにつれて他方が減少する場合が負の相関関係)。
 しかし、相関関係は因果関係(一方が原因であり他方がその結果である関係)ではありません。
 今回の騒動は、相関関係と因果関係を混同しているところに起因するように思われます。「茶髪やピアスや態度が悪いことが問題行動を起こす原因である」と断定したら、それはおかしいと思うでしょう。茶髪やピアスをするのは何か原因があってしているのであって、生徒の態度が悪いというのも何か原因があるわけです。そして、生徒が起こす問題行動にも何か原因があるのですから、生徒の外見も問題行動も何か原因があった上での「結果」に過ぎないというのが合理的な考え方でしょう。
 茶髪やピアスが問題行動や素行不良の原因であるならば、芸能界は犯罪者予備軍の巣窟ということになってしまいます。また、社会人女性でもピアスをしている人は大勢いますが、その人たちが全員「ふしだらな女」であると決めつけることはおかしいでしょう?

 これは推測ですが、子どもはかくあらねばならない、という大人の思い込みが相関関係と因果関係を混同させているのだろうと思います。大人からみた理想像から外れた子どもは、大人にとって忌々しい存在ですから、普通の子どもに比べるととても目につきやすくなります。したがって、その子どもが何か悪さをすると「やっぱり茶髪はダメだな」とか「ピアスをするようなヤツだから」というふうに思われるのです。でも、同じ悪さをしても外見が普通の子どもはそうは思われません。(このことは前回の「つくられる『落ちこぼれ』」で書きました。)
 茶髪やピアスをしていても、一目置かざるを得ない成果を上げている人は大勢います。「外見で人を判断するな」というのは、まさにその通りなので、一見真面目そうで実は悪人という人だってゴロゴロしているのです。

 神田高校の場合、相関関係はあっても因果関係があるわけでもないのに、外見チェックを合否選定の基準に加えていたことがおかしいと思います。また、この校長を擁護する意見の持ち主も同様の過ちを犯していると思います。
 就職試験では外見もチェックされるではないか、と反論されるかもしれません。確かに就業規則の中で従業員の身なりについて規定するのは社会通念上認められていることであり、そのようにしている会社も多いと思います。しかし、そこで茶髪やピアスが排除されるのは規定に反しているからに過ぎません。規定が変わって茶髪やピアスOKということになれば、これらを排除する理由はなくなります。しかし、今回この校長を擁護する人たちは、茶髪やピアスそのものがダメだといい気持ちが根底にあると思います。だからといって茶髪やピアスが素行不良や問題行動の原因になっているという証明にはならないのです。

 神奈川県教育委員会が校長を更迭した理由は、公表されているルール通りにやっていなかったということです。ということは、合否選定にあたっては外見も判断材料とすると公表していればよかったということになります。それはそれで法的・手続き的にはOKということになるので、教育委員会の判断としては適正であったということになります。
 しかし、学校は企業とは異なる(企業は、その事業を通じて社会に貢献し、その対価として利潤を得ることを目的としている)ので、因果関係にない生徒の外見をもってその生徒を判断してもよいのかということを考えると、外見のチェックを合否判定の基準に加えるのはやはり誤りであるという結論になってしまうのです。
by T_am | 2008-11-01 08:21 | 心の働き

by T_am