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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

2010年 09月 29日 ( 1 )

 今日のニュースで、受動喫煙によって肺がんや心筋梗塞で死亡する人は年間およそ6800人に上るという報道がされていました。国立がんセンターの研究グループの発表によれば、たばこを吸わずに肺がんや心筋梗塞で死亡した人を「受動喫煙」の有無によって2つのグループに分けて比較したところ、こうした病気で死亡する危険は受動喫煙がある方がない方に比べ1.3倍程度高まることがわかったとのことです。これを国内の統計に当てはめて分析すると、受動喫煙の影響による死亡者数は肺がんでは女性でおよそ1500人、男性でおよそ650人、心筋梗塞では女性でおよそ3100人、男性でおよそ1600人と推計されるということだそうです。これらを合計するとおよそ6850人となりますから、控えめに見ても年間およそ6800人の人が受動喫煙の影響によって肺がんや心筋梗塞で死亡していると推計できるというものです。
 折しも10月1日からたばこの値上げが行われることになっており、まことに「タイムリー」な報道であると申せましょう。

 ところで、こういうニュースでいつも思うのは、メディアは調査の結果だけを伝えますが、どのようにしてその結果が導き出されたかについてはまったく報道しないということです。発表者が国立がんセンターの研究グループだから間違いはないということなのでしょうか? しかし、このような数字は常に推論に過ぎないのですから、その計算方法に誤りはないかを検証するというプロセスがなければなりません。ところがメディアはそのようなプロセスを常に無視しているのですから、これでは情報の垂れ流しであると批判したくなるというものです。
 
 現時点では、肺がんや心筋梗塞で亡くなった人について喫煙習慣の有無を尋ねれば、喫煙者(あるいは過去に喫煙習慣があった人)の方が、そうでない人よりも多い結果になるはずです。というのもかつては喫煙者の方が多かったからです。
 どういうことかというと、あと30年もして同じ調査をすれば、肺がんや心筋梗塞によって死亡した人の中では喫煙習慣のある人の方が少ないという結果が出るはずだからです。なぜならば、既に喫煙者の方がはるかに少なくなっているからです。厚生労働省によれば、平成20年の調査では喫煙率は21,8%にまで下がっています。

http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd100000.html

 絶対数が減っているのですから、肺がんや心筋梗塞で死亡する人の数もそれだけ減るのは当たり前です。逆に喫煙しない人は78.2%もいるのですから、そのうち肺がんや心筋梗塞によって死亡する人の絶対数は喫煙習慣のある人たちよりも増えるのが当然であるということなのです。
 30年後喫煙者と非喫煙者とでは、非喫煙者の方が肺がんや心筋梗塞で死亡する人の方が多いという結果になったときに、「これはすなわち非喫煙者の方が肺がんや心筋梗塞になりやすいといえるのだから、健康のためにたばこを吸うようにしましょう。」こういう主張も論理的には成立することになります。

 「そんなバカなことはない!」 そう思うでしょ。でもそういう結論を論理的に導き出すことは可能なのですよ。
 今回はそのことを申し上げてみたいと思います。

 このような常識に反する論理が帰結する理由は、因果関係と相関関係を混同しているからです。因果関係というのは、2つの出来事の間に原因と結果の関係がある場合をいいます。たとえば、スイッチを入れたらテレビがついた、というのは因果関係です。この場合、スイッチを入れなければテレビはつかない、といいかえることもできます。
 これに対して、相関関係というのは2つの出来事の間に、片方がもう一方に影響を与えているかのように見える関係をいいます。
 たとえば「夏の気温が上がればビールの販売数量が増える」というのは相関関係です。相関関係というのは見かけの関係ですから、「ビールの販売数量が増えると熱中症患者の数も増える」といっても間違いではありません。

 しかし、2つの出来事の間に相関関係があるからといって、因果関係があると断定することはできません。
 たとえば、次のようなケースはその誤りの典型的な例です。

1.ビールの販売数量が伸びると熱中症患者の数も増える。
2.したがって、ビールが熱中症の原因である。

 この場合では、ビールの販売数量と熱中症患者数の双方に影響を与えている要因として気温の変化があるわけですが、敢えてそれを無視して論理を展開するとこのような暴論がまかり通ることになるのです。
 ただし、これなどは比較的単純な事例ですから、嘘を見破ることは容易なのですが、人間の社会にはもっと複雑な要因が絡み合っているという事例はいくらでもあります。病気もその典型的な事例であって、たばこだけが危険因子というわけではないはずです。危険因子として他に考えられるのは、飲酒、ストレス、運動不足、薬物による副作用、生活習慣などがあげられます。
 医学や生物学では、このような場合他の因子の干渉を排除するために、対照実験といって、ある特定の要素が存在するグループと存在しないグループに分けて、それ以外の要素はまったく同じという状況をつくりだして経過を観察するということを行います。その結果、両方に異なる状況が認められれば、その要素は原因であると考えることができるのです。
 今回の国立がんセンターの発表した内容は、どのような手法に基づいて導き出されたものなのかわからない以上、その当否を検証することは不可能です。それでも対照実験を行ったわけではないらしいということは推測できます。いずれにせよ、検証できない結論を聞かされたときは、「ふーん、そんなもんかね。」と聞き流しておくのがいいのです。誠実な学者であれば、自分の手法を公表して他人が追試できるようにしますから、それによって検証されるのを待っていればいいのです。


追記
 ニュースの中で、「危険がおよそ1.3倍程度高まる」という表現がありました。これを数字で表現すると、受動喫煙の経験のない人の死亡者数割合43.5%、受動喫煙の経験者の死亡者数割合56.5%であるということになります。(0.435×1.3≒0.565)
 その差は13.5ポイントです。単純に割合を提示するよりも、「1.3倍危険」といった方がインパクトが強いのでこのような表現をしたものと思います。修辞法としてはアリかもしれませんが、科学者が用いる表現方法としてはいささか不適切なような気がします。
by T_am | 2010-09-29 00:53 | 科学もどき