ストレスに悩む人のために
一本の棒が目の前にあると想像してみてください。棒の両端を握って力を加えると、棒はしなります。この状態をストレスといいます。力を加えるのをやめると棒の形は元に戻ります。
人の心もこの棒のようなものだと考えることができます。すなわち、圧力がかかるとそれに応じて歪みが生じます。けれども心には、棒と同じように弾力性があるので、圧力がなくなると歪みは消えて元に戻るのです。
ここで、もう一度棒にたとえて話をすると、力を加えるということを何度も繰り返すと棒はどうなると思いますか? そうですね、力を抜いても形が元に戻らなくなります。人の心も同じなのです。
いくら弾力性があるといっても、心にかかる圧力が何度も繰り返されると、少しずつ歪みが溜まり元に戻らなくなっていきます。このことを指して「ストレスが溜まる」といい、辛い方のストレスがこれに該当します。
ストレスにさらされると人はどうなるか? ストレスが溜まると人はどうなるか?
ストレスの影響はまず心に現れます。
緊張する、あがる、そわそわして落ち着かない(一つのことに集中することができない)、爪を噛む、しきりに髪を触る、眠れない、落ち込む、他人と話すのがおっくうになる、泣き出して涙が止まらなくなる、逃げ出したいと思う、など。
どなたにもこのような経験がおありのことと思いますが、これらはいずれも強いストレスにさらされたときに見られる状況です。いわば初期症状です。
さらにストレスが溜まっていくとどうなるかというと、その影響は身体に現れます。いわゆる「ストレス性疾患」というやつで、頭が重い、食欲がない、胃の具合がおかしい、目眩がする、耳鳴りがする、肩がこる、背中や腰が痛い、寝付きが悪い、夜中に目が覚めてその後眠れない、疲れがとれない、疲れやすい、体重が減った、イライラする、動悸がする、などの症状がそうです。
もっとストレスが溜まってしまうとどうなるかというと、心が「壊れて」しまいます。一口に「壊れる」といっても、ひびが入った状態からぽきんと折れた状態まで様々ですが、人の心というのは案外脆いものなのです。
朝起きることができない。どうしても会社や学校に行くことができない。食べるのをやめられない。食べることができない。リストカット。
一年間に自殺する日本人の数は毎年3万人を超えています。これは交通事故で死亡する人の数(平成18年は6,352人)よりもはるかに多いのです。
ストレスが継続するしくみ
既に述べたように、圧力がかかることで心が歪んだ状態になることがストレスです。そこには原因となるい出来事や人物が存在するはずです。上司や担当教授に糞味噌に怒鳴られたとか、セクハラを受けたとか、あるいは多重債務に陥ったとか、恋人に裏切られたとか、具体的な例を挙げようと思えばいくらでもあがることと思います。こういうことが起こると、人間の意識はそのことに集中して他のことが目に入らなくなります。
これがストレスの第一段階です。
ところが人間には自己回復機能があるので、強い圧力を受けて歪んだ心は少しずつですが元の状態に戻ろうとします。ただし、それには時間がかかります。その間、その人の心の中はどうなっているかというとそのことに意識がとらわれたままになっています。いわば悶々とした状態を過ごしているわけです。
本来は時間が解決してくれるのですが、最初の圧力があまりにも強いと、それが自分の心の中に鮮明な記憶として残留することがあります。そのことを思い出してしまうと、せっかくの自己回復機能が中断させられます。こうして、心が歪んだ状態がいつまでも続くわけです。これが第二段階です。
第二段階の特徴は、心に圧力を及ぼした元々の出来事は終了しているにもかかわらず、圧力が断続的に発生し、心の歪みが消滅しないというところにあります。
この例としては、嫉妬というのがあります。嫉妬した経験のない人はいないと思います。いかがですか? 嫉妬というのは心のガン細胞といってもいいくらい、どんどん増殖していきますよね。では、誰がその栄養を与えているかというと自分自身なのです。
嫉妬は増殖していくうちに人の心を蝕み、最終的には恋愛関係を壊してしまうこともあります。
どうしたらストレスを溜めないすむのか?
心が壊れてしまうほどにストレスを溜めないようにするにはどうしたらいいいかというと、「忘れる」こと。これしかありません。
その手段として一つには、「他のことに集中する」こと。これは、いわば対処療法というやつで、風邪を引いたときに風邪薬を飲むようなものですが、効果はあります。もう一つの手段は「ストレスの原因を取り除く」というもので、ストレスを根本的に退治するというものです。当然、後の方が難易度が高くなりますが、うまくいけばきれいさっぱりストレスはなくなります。
また、予防策として「メリハリをつける」というのもあります。
他のことに集中する
まず、対処療法である「他のことに集中する」から説明すると、こうすることでストレスの原因について「一時的に忘れる」ことができます。こうして一時的に忘れている時間をどんどん長くしていくことは、ストレスを溜めないうえで非常に有効です。
では、なにをすればいいのかというと、自分に合ったものであればなんでもいいのです。
村上春樹の小説には、主人公(男です)が食事をつくったり、シャツにアイロンをかけたり、あるいはスポーツ・ジムで汗を流すというシーンがよく登場します。これらの行動は、いずれも「他に集中する」ためには非常に効果のあるものといえます。なぜなら集中しないとできないことだからです。共通点は、いずれも身体を使っているということでしょうか?
ストレスの原因を取り除く
これは、以前私が軽度の鬱病にかかったときに医者からいわれた言葉です。つまり、薬を飲むのいいけれども、ストレスを起こしている根本原因を取り除かない限り同じことが繰替えされますよ、ということです。
私の場合、幸いなことに3ヶ月ほど経ったら、ストレスの原因が目の前から消えてしまったので、完治することができました。
人間の世の中なんてそんなものなのですね。今、この瞬間の状態が永久に続くということはありえません。時間が経つことによって、必ず変わっていきます。
あなたにストレスをもたらしているパワハラ上司(セクハラ上司)だって、いずれは異動していきます。あるいはあなたの方が異動するかもしれません。大学教授も同様です。あなたが学生であれば、何年後かには卒業するわけです。そうすれば、嫌な人とも顔を合わせることはなくなります。あるいはもっとアクティブに、教務部や人事部に訴えるということもできます。
多重債務に悩むのであれば、自己破産すればそれ以上取立てにあうこともなくなります。
このようにして自分にストレスをもたらしている原因を取り除くということは必要です。多くの場合、時間が解決してくれます。それまで待てないという場合、いくらなんでも相手を殺してしまうわけにはいきません。手っ取り早く金を工面するために銀行強盗をするというわけにもいきません。ストレスを解消するために、自分の残りの人生を棒に振るというのは間違っています。
ですからどうしても原因が取り除くことができないときは、たとえば「不登校」(あるいは「夜逃げ」)という対処療法もあり得ると思います。会社員であれば職場を替わることも検討してもよいでしょう。
身内にこのようなことでお悩みの方がいて、その原因をどうしても取り除くことができないときは、「無理して学校へ行かなくてもいいんだよ。」とか「会社を辞めたっていいんだよ。」と声をかけてあげください。変に励ますよりもその方がよっぽど当人のためになります。
メリハリをつける(ストレスを溜めないための予防策)
場面によって気持ちを切り替えるということは、ある程度意識していれば可能です。たとえば、会社から一歩出たとたんに仕事のことはすべて忘れる、というようなことです。ただし、学生の場合は自宅学習があるのでなかなか難しいかもしれません。
このことは、月並みないい方になりますが、仕事をするときは一生懸命仕事をする、遊ぶときは一生懸命遊ぶ、ということと同義です。確かに仕事や勉強において「突き詰めて考える」という習慣づけは必要ですが、そのことは(仕事や勉強に)無制限に時間をつぎ込むということではありません。考える密度を高くすることが要求されているだけです。 ですから、やはり休みはきちんととるべきであると思います。
高度成長時代を経験した団塊の世代とそれを見て育った昭和30年代生まれの世代には、心のどこかに、休みを返上して働くことは美徳であるという意識があります。それは公のためという意識が働いているからなのですが、残念なことに現代では公というものはもはや存在しません。そのようにし向けたのは彼らの同世代の人間たちであるところが皮肉なのですが・・・。
それ以降の世代の人たちは休みをとることは当然であると考えています。このことは自分の権利としての休みという認識であって、本稿の趣旨とはちょっと異なるのですが、休みをきちんととることを習慣づけることで、ストレスが溜まることを予防する効果があります。
私の考えとしては、休みはきちんととるべきである。ただし退勤時刻については、自分自身納得がいったら何時であろうと構わない、ということがあるべき形ではないかとおもうのです。(時給で働く人は別です。この人たちは定時で帰してあげるべきです。)
このことについては改めて述べることになると思いますが、要は、勤務中は集中して仕事に取り組むがオフタイムは自分のために時間を使うという生活様式はストレスに対して強い心を生む土壌となると思うのです。