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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

「日本人のための『集団的自衛権』入門」について

「日本人のための『集団的自衛権』入門」について

 自民党の石破幹事長の書いた「日本人のための『集団的自衛権』入門」(新潮新書)を読んでいると、自民党のみなさんにも共通するこの人の憲法観がわかって面白いと思います。

 国家権力の暴走を抑えるために憲法があるというこれまでの考え方とは一線を画して、どうやら自民党のみなさんは、憲法は国の根本的なことをいろいろと決めるための法律であると思っているようです。だから天賦人権説を否定したり、たとえば「家族は、互いに助け合わなければならない」などという改正案がつくられるわけだと納得しました。
 それがいいか悪いかは各自が判断すればいいことですが、家族が助け合うという道義上の問題を憲法で規定しようというのは、国があってこそ国民がある(個人の権利意識が強すぎると国の活動が阻害されるので、国が個人の権利と義務を決める)という考え方に基づくのでしょう。

 この本の中で、石破幹事長が展開する論理は、「侵略に対する自衛」が前提になっています。しかし、実際には、第二次世界大戦後他国に最も武力侵攻したチャンピオンはアメリカであり、その中にはニカラグア事件のように国際司法裁判所から違法であるという判決を受けたものもあります。また、イラク戦争では、大量破壊兵器があるはずだという言いがかりをつけて戦争に持ち込み、国家元首を死刑にしました。あれから10年以上経ちますが、イラクの国内情勢はいっこうに安定しないだけでなく、これまでに何万人の死者が出たかわかりません。

 けれども、これまでアメリカがよその国から侵略されたことは一度もありません。

 日本政府が想定している集団的自衛権はアメリカを対象にしたものですから、アメリカへの侵略に対する集団的自衛権の発動というケースは当分の間起こりえないと思います。可能性が高いのは、武力侵攻したアメリカに対する反撃ですが、日本政府は、ホルムズ海峡が機雷封鎖されたときはその除去をやりたがっていることを考えると、これも集団的自衛権の対象になると考えているようです。

 イラク北部に対する空爆が再開されたように、アメリカによる武力侵攻は今後も起こる可能性が極めて高いのですから、せめて、日本としてイラク戦争の総括をしておかないと「歯止め」が空証文となってしまうと思います。ところが、日本政府がそのことに無頓着なまま今後の法整備を進めようとしていることに危機感を覚えます。
 
 なお、他国に攻め込んでその国の政権を打倒し、傀儡政権を樹立する行為は「武力侵攻」というよりも、「侵略」というべきだろうと思います。
 日本が集団的自衛権を発動して、アメリカと共同作戦をとるということは、それがたとえ後方支援であっても、アメリカによる侵略戦争に荷担することになるわけです。その報復対象リストに日本も書き加えられることになるということも考慮して、集団的自衛権を認めるのかどうかの判断をしていただきたいと思います。


追記
 イラク戦争について、安倍総理は今年5月28日の衆議院予算委員会で、民主党の岡田克也委員が、イラク戦争のときにアメリカの言い分を鵜呑みにして自衛隊をイラクに出した事例を引き合いに出して、今後集団的自衛権の「前提となるアメリカの行為、武力行使、集団的自衛権の行使、そういうものが国際法上正当なものであるということをみずから確認できるのか、あるいは確認したとして、だから日本はできませんということがはっきり言えるのかどうか」という質問を行いました。
 これに対して安倍総理は、「イラク戦争においては、これは集団的自衛権の行使ではなくて、安保理決議に基づく、いわば集団安全保障の一環として、多国籍軍という形で行われた」と答弁していますが。これは事実に反します。安保理の決議がないままアメリカとイギリスがイラクに対し先制攻撃を行ったのが本当のところです。さらに安倍総理は、「あの際にも、累次にわたる国連決議に違反をしたのはイラクでありまして、そして、大量破壊兵器がないということを証明できるチャンスがあるにもかかわらず、それを証明しなかったのはイラクであったということは申し上げておきたい」と答弁しています。これは当時の小泉総理の答弁を踏襲したものと思われますが、あるはずだと言って言いがかりをつけておきながら、ないと証明できないのはお前が悪いという論理は極めて質の悪く、ほとんどならず者に等しいと思います。
 なお、イラク戦争の戦後処理の一環として、日本政府は、イラクに対する債務救済措置を実施し、日本が有する債権のうち80%(繰延金利を加味しない場合、約7,100億円の削減額に相当)を放棄しました。日本政府は、アメリカの言い分を鵜呑みにして自衛隊を派遣した挙げ句に、七千億円もの債権を放棄するという嘘みたいなことをやってきたわけです。
 今後、集団的自衛権を行使するときには、こういうリスクも伴うということは知っておいた方がいいと思います。全部税金で賄われるのですから。


(衆議院予算委員会の議事録)
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/186/0018/main.html


(債権放棄に関する外務省の報道発表、平成17年11月24日)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/17/rls_1124c.html
by t_am | 2014-08-17 14:29 | その他