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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

ミサイルの迎撃について

 北朝鮮の「人工衛星」打ち上げ予告に対して、日米両国は迎撃態勢に入りました。
 既にいわれているように、人工衛星を打ち上げるためのロケットはそのまま弾道ミサイルになります。核兵器を持ったとしても、それを敵国の目的地まで「運搬」する手段がなければ、その国と友好関係にない国にとって脅威とはなりません。また、核兵器を「運搬」している途中で迎撃できるのであれば、その脅威はそれだけ低下します。そこで、核兵器を持つ側とすれば、途中で迎撃されにくい「運搬手段」を開発する必要があるわけで、弾道ミサイルはうってつけの道具となります。

 弾道ミサイルが迎撃されにくい理由は、高速で飛行するため飛行時間が短いこと、および宇宙空間を通過することに由来します。通常の飛行機では宇宙空間まで行くことはできません。さらに、飛行時間はどんなに長くてもせいぜい30分程度までですから、それだけの短時間に飛行コースを算出して、それに合わせて迎撃ミサイルを発射しなければなりません。それでも高速で飛行する物体に迎撃ミサイルを命中させるというのは至難の業です。(ピッチャーが投げたボールにボールをぶつけるようなものです。)

 今回日米両政府がやろうとしているのは、万一ミサイルの一部が日本の領海や領土に落下する可能性が生じた場合に、まずイージス艦から海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を発射し、打ち損じた場合に地上に設置しているパトリオット(PAC3)で破壊するというものだそうです。
 予告されているミサイルの飛行ルートは、黄海を抜けて東シナ海上空を通るルートであり、日本の排他的経済水域を避けて飛行することになっています。ということは、ミサイルがコースを外れない限り迎撃ミサイルを発射することはできないという理屈になります。したがって、政府の迎撃計画も、ミサイルの一部が日本の領海や領土に落下する可能性が生じた場合に迎撃ミサイルを発射するということになるわけです。

 ここで疑問に思うのは、弾道ミサイルに迎撃ミサイルを命中させることすら難しいのに、その一部である落下部品に命中させるのはさらに難易度が高いのではないか?ということです。当たれば拍手喝采でしょうが、外れでもした場合非難囂々、罵詈讒謗の嵐が政府に浴びせられるほか、アメリカが開発した迎撃システムに対する信頼感は地に墜ちることになるはずです。
 それでも、軍の関係者にとって、今回の北朝鮮の「人工衛星」打ち上げ予告はまたとない迎撃システムの性能実験の場であることは間違いないと思います。うまくいって命中すれば、迎撃システムを高く売りつけることができるようになる(日本側からすれば大手を振って買い付けのための予算を組むことができる)わけですし、失敗したらしたで、「命中精度を高めるため」と称して研究予算を分捕ることもできるわけです。
 このように考えると、ひょっとすると日米政府は迎撃システムを作動させるのではないかという懸念も起こってきます。既に申し上げたように、北朝鮮のミサイルが飛行ルートを逸れなければ日本の領空を侵犯することはないわけですから、日本政府にはこれを迎撃する理由がありません。しかし、横紙破りはアメリカ政府の得意技ですし、日本にも、アメリカに迎合することが日本の幸福と信じ込んでいる人は大勢います。前回は、北朝鮮のミサイルが空中で爆発してしまったので、迎撃システムが作動することはありませんでしたが、今回はどうなるのでしょうか。


 ミサイルの迎撃について、ほとんど報道されていないことがあって、私としては無理祖そちらの方が気になります。というのは、北朝鮮が打ち上げたミサイルを撃墜すればそれで終わりという文脈になりつつあるような気がしてならないからです。
 弾道ミサイルを撃墜できたとしても、それが意味するのは「ミサイルが目的地に到着することはなくなった」ということにすぎません。具体的にいうと、「発射地点から目的地に向かう途中のどこかにミサイルが墜落する」ということであり、ミサイルの発射時刻から時間が経過していればいるほど目標地点に近づいていることになります。さらに、弾道ミサイルには核兵器が搭載されているわけですから、どこかでそれが爆発する危険性がゼロになるわけでもありません。運がよければ不発弾だったということもあるかもしれませんが、その場合でも核弾頭を安全に回収する作業が発生します。
 以上のことをシミュレーションしてみましょう。
 たとえば世界地図を広げて北朝鮮の舞水端里(ムスダンリ)と東京を直線で結ぶと、それが弾道ミサイルの飛行コースだということになります。(下図参照。Google Earthで作成。)

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 弾道ミサイルを迎撃するということは、ミサイルの核弾頭がこの赤い直線コースのどこか途中の地点に墜落するということでもあります。迎撃システムの性能がよければ日本海に墜落させることも可能かもしれませんが、運が悪ければ日本の国内のどこかに墜落することになります。もっとも、発射地点(ムスダンリ)からの距離が近すぎて迎撃に失敗する可能性も否定できませんし、そもそも弾道ミサイルの誘導技術がどれだけの水準にあるのかわからないので命中精度が低いのではないかという疑いも否定できません。そうだとすると、数十キロから数百キロという単位で目標から逸れる可能性も極めて高いということになり、それはそれで非常に厄介な問題となります。
 迎撃に成功した場合、打ち落とした弾道ミサイルの核弾頭はどこか途中に墜落することになるので、その落下予測地点の周辺の住民の安全をどうやって確保するのかという問題が生じます。しかし、ミサイルの発射から日本に到着するまでにせいぜい十数分という時間しかからないので、住民を全員避難させるというのは事実上不可能です。
 また、運良く人がいない山間部や海上に落下した場合でも、放射性物質による環境汚染という問題は避けられませんが、そういう事態を想定した対策が準備されているかというとそんなことはないのです。(たぶんごく一部の例外を除けば、そこまで準備をしている国は世界中を探してもないのではないでしょうか。)
 こういうことを考え始めると、北朝鮮のミサイルに対して日米両政府が迎撃態勢を整えているというのは、ミサイルを撃墜することしか考えていないのだなということに思い当たります。くどいようですが、はるばる飛んできたミサイルを打ち落とせばそれで終わりかというとそうではなく、落下する核弾頭に対しどう対処するかという視点がまるで抜け落ちていることがわかります。
 憲法を改正して国防軍を創設するのだと安倍総裁は意気込んでいますが、自衛のための武力行使であっても、このようにあらかじめ準備しておかなければならない問題は山積みされており、それらに対しきちんと向き合う覚悟がこの人にあるのでしょうか?(これは石原慎太郎にもいえることです。尖閣諸島の国有化に伴って中国国内で暴動が起こり、日本から進出している企業が被害を受けました。その直接的な責任は暴動を起こした者の側にありますが、それらの一連の騒動のきっかけをつくったのは自分であるという自覚があるのでしょうか。案外「産みの苦しみ」くらいに軽く考えているのかもしれません。) 


 このことは原発にもいえることであり、政府にも電力会社にも「あれだけ大きな事故が起きたのだから、当分の間同じ規模の事故が起こることはないだろう」とタカをくくって考えている節が見られます。電力の安定供給と電気料金の高騰回避という産業界の事情を優先しているのは誰がみても明かなのですが、その一方で、原子炉とその周辺の施設の安全性だけを確保していればそれ以外のことはどうでもいいと考えている傾向があるように思います。
 人間には、都合の悪い情報を出すことで事態が紛糾することを恐れるという心理が働くことがあります。今回長々と書いてきたことなどはまさにそれにあたります。そっとしておけば誰も気づかないので、彼らの業務の妨げとなるような反対運動が起こることもないと思われます。けれども、福島原発の事故の影響があれだけ大きくなったのは、今まで都合の悪いことはすべて伏せておくか触れないでおくということをしてきたからです。そのツケを一気に払うことになったからだというのがあの事故の教訓だと思うのですが、いい加減学習してもいいのではないかとも思います。
by t_am | 2012-12-09 00:55 | その他