ブログトップ

カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

放射性物質を理解するうえでのポイント-「正しく恐れる」ということ(2)

2.被災地のがれきの広域処理について-放射性物質の拡散と濃縮-
 福島を除く宮城・岩手の震災がれきについて、受入れを表明した自治体ではそれぞれ根強い反対の声があるようで、8月30日に大阪で行われた説明会でも反対する人たちが大勢詰めかけたとのことです。ここでいう「受け入れ」には焼却と埋め立ての2種類の意味があるのですが、まず焼却について考察を進めます
 受入れ処理に反対されている人の気持ちは、放射性物質を自分たちの住んでいるところに持ち込んでほしくないというものでしょう。関西以西の地域であれば、福島第一原発から飛散した放射性物質も届いていないのですから、その気持ちは理解できます。また、第三者の立場から、放射性物質を拡散させるのは許されないと述べる人もいます。
 そのような反対意見について、私は程度の問題だろうと思っています。自然界にはもともと放射性物質など存在せず、すべて原発や核爆弾に由来するというのであれば私も「放射性物質を持ち込むな」という反対意見に同意するのですが、実際には世界中どこへ行っても放射性物質は存在しているので、放射線による被曝がゼロであるというわけではありません。震災がれきで広域処理(焼却)が可能なのは240ベクレル/kg以下ですから、その基準を満たすがれきを受け入れても、焼却処理がルール通りに適切に行われているのであれば、受け入れ先での年間被曝量(空間線量)がさほど増えるとは思えません。また、放射線がどこまでも飛んでいくというものでもありません。
 したがって、震災がれきの受け入れを表明している自治体では情報公開をきちんと行い、住民の不安を取り除くことが必要となります。たとえば、震災がれき(焼却前)の至近距離で測定した線量と、10m、50m離れた地点で測定した線量を一緒に測り、どのように変化するのかをきちんと知らせるようにすれば、放射性物質といっても近くに寄らなければ被曝することはないということが理解してもらえると思います。

 震災がれきの処理でむしろ問題と思うのは、焼却によって放射性物質が「濃縮」された焼却灰の処理をどうするかということです。これについて、環境省は、次のように基準を定めています。(いずれも1kgあたりの放射能濃度)

100ベクレル以下-製品段階で基準内ならセメントなどに再利用可能
8,000ベクレル/kg以下-管理型処分場に埋め立て可能
8,000ベクレル超~10万ベクレル以下- 安全性を評価して埋め立て可能
10万ベクレル超-コンクリート壁など放射線を遮蔽できる施設で管理

 つまり、8,000ベクレル/kg以下であれば通常通り埋め立てしてもよいとしているわけです。


参考:よくあるご質問「Q9 広域処理されるがれきについての、安全性の基準値は?」
http://kouikishori.env.go.jp/faq/


参考:8,000Bq/kgを超え100,000Bq/kg以下の焼却灰等の処分方法に関する方針について(お知らせ))
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14161
 

 実をいうと、環境省が定めたこの基準はダブルスタンダードといってもよいと思います。というのは、既にいろいろな方が指摘されているように、原子炉等規制法ではセシウム137(半減期30年)について、100ベクレル/kgを超える場合は放射性廃棄物として扱うことが定められているからです。

参考:「原子炉等規制法第61. 条の2に基づいて定められた規則」別表
http://www.lawdata.org/law/htmldata/H17/H17F15001000112.html

註:この別表ではセシウム137については0.1ベクレル/gと記載されています。

参考:100Bq/kg と 8,000Bq/kg の二つの基準の違いについて
http://www.env.go.jp/jishin/attach/waste_100-8000.pdf


 つまり、これまで放射性物質を扱っていた施設(病院や大学なども含む)では100ベクレル/kgを超えた場合は、放射性廃棄物として厳重に管理する事が義務づけられているのですが、がれきの焼却灰や下水の汚泥などに含まれている放射性物質については、8000ベクレル/kg以内であれば普通に埋め立てをしてもよいということなのです。これはかなり乱暴な基準を定めたものだと思います。おそらく、これまでの100ベクレル/kgという基準だけでは、事実上処理ができなくなるので、いつまでもがれきが残ってしまうということから、急遽設けたものだと思われます。このようなやり方は、昨年設けられていた食品の暫定規制値の決め方にそっくりです。これも、厳しい基準のままでは食品の流通が混乱してしまうという恐れから、一時的に規制値をゆるくしたわけです。ところが実際には思ったよりも放射能濃度が高くないということがわかったので、厳しい規制値に改めたわけです。
 これらの2つの事例から伺えるのは、政府は国民の健康や安全よりも社会を混乱させないという方を優先させるということです。身も蓋もないいい方をすれば、国民に健康被害が出たとしてもそれは何年も先のことであり、その頃になれば原発事故との因果関係を立証することはできっこない(因果関係が立証できないものは、症状がでていても補償の対象にしないというのは厚生労働省の伝統的な考えかたです)のであり、それよりも当面の混乱を回避する方を優先した方がいい、という判断をした人たちがいたということです。
するという厳しい規制値を設けて経済や社会が混乱すれば責められるのは自分たちなわけですから、それよりも国民の健康や安全には目をつぶり、規制値をゆるくすれば自分たちが責められることはないと考えたのだと思われます。
 その背景にあるのは、突き詰めていくと、放射性廃棄物の最終保管場が実は日本のどこにもないという現実です。放射性物質の持っていき場所がないために、その施設の中で保管するしかありませんでした。同じようなことが、放射性物質の濃縮された汚泥(下水道由来のもの)でも起きていますし、福島県内でも除染した校庭の土の行き場所がないために同じ校庭の片隅にブルーシートをかけて置いたままにしているということも起きています。
 被災地(福島以外)のがれきを受け入れるということが現実に行われるようになると、これらと同じことが全国の各地で発生することになります。受け入れたがれきの焼却灰を処分場の敷地内に積んでおくしかないということになれば、受け入れを表明する自治体はなくなってしまうので、環境省では基準をゆるくして、通常の埋め立てができるようにしたわけです。
 ここで気をつけなければならないのは、震災がれきを通常のゴミと一緒に燃やしてしまえば、その焼却灰に含まれる1kgあたりの放射性物質の濃度はいくらでも下げられるということです。そうすれば震災がれきの処理は進みますが、埋め立て場に蓄積される放射性物質の総量はどんどん増えていくことになります。放射性物質が集められても、外部に放射線がもれないように厳重に管理されていれば何の問題もないのですが、埋め立て場はそうではありません。土壌汚染や地下水の汚染を起こすのではないかという心配はつきないのです。

 東日本大震災復興構想会議 が昨年6月25日に発表した「復興構想7原則」の5番目には「被災地域の復興なくして日本経済の再生はない。日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はない。」と書かれています。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/fukkouhonbu/dai1/siryou5_1.pdf


 このいい方には強い違和感を覚えてなりません。震災からの復興は、本来ならば経済とは関係がないはずです。復興によって経済が活性化するということはあるでしょうが、復興と経済をことさら結びつける必要があるとは思えません。もっとも、復興にかかる資金(財源)を捻出するために経済成長(=経済の再生)が欠かせないという理屈はあるかと思いますが、手持ちの財源で復興を進めていくというのが政治家の手腕であるはずです。
 ですから、この表現は、復興を口実にして経済成長を進めていくぞという政府の宣言に聞こえてしかたないのです。そこには、国民の健康や安全という言葉や視点はありません。その延長が、放射性廃棄物や濃縮された放射性物質の最終保管場がどこにもないままの状態で、埋め立て場に震災がれきの焼却灰を埋め立てるということになるわけです。
 したがって、埋め立て場の近くに住む住民が震災がれきの受け入れに反対するのは当然であると私は思います。なぜなら、それは「本来そこに持ち込んではいけないもの」だからです。にもかかわらず、そのような違法行為を環境省という一省庁の決定だけで行えるというのは、どう考えてもおかしいと思います。
 放射性廃棄物の最終保管場の問題に何の進展もない(政府が福島県に設置しようとしているのは「中間貯蔵施設」です)まま、政府は大飯原発の再稼働を決め、今後も原発を維持していきたいとも考えているようです。
 これまで、最終保管場を設けることを怠ってきたことが混乱を招いているという事実に目をつぶって同じ愚を繰り返そうとしていることに、私は憤りを感じます。
by t_am | 2012-09-01 08:06 | その他