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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

消費税率を上げる理由?

 参議院本会議で消費税率の引き上げに関する法案が可決されました。ラジオで討論の模様を聞いていましたが、最早国会は議論をする場ではなく、数を集めたものが勝ちという状態になっていることが改めてよくわかりました。一票の格差是正が遅々として進まないのは、「自分たちの議席数が減るのは困る」からですが、問題はそんなところにあるのではなく、議論もしないのに議員をあれほど多く(衆議院480人、参議院242人)抱える必要はないということが問題です。いっそのこと半分に減らし、その分政務調査費などを倍にしてやる代わりに、法案の提出と行政のチェックをきちんとやってもらうというようにしない限り何も変わらないと思います。

 それはともかくとして、今回決まった消費税率の引き上げがなぜ必要なのかが私には未だに理解できません。そう思っていたら、その必要性を解説した記事を見つけたので、ご紹介しながらこの問題をもう一度考えてみたいと思います。

「緊急提言、いま消費増税を決められなければ国が滅びる 大和総研チーフエコノミスト、熊谷亮丸が語る」(日経ビジネスオンライン)より
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120808/235426/?P=1&ST=life


 このインタビュー記事を読んでいくと、消費税増税が必要な理由として次のように論理が展開されていることがわかります。

1)わが国は世界最悪の財政状況に陥っている。
2)日本の債務残高の、名目GDPに対する比率は210%を超えていて、この数字は、第2次世界大戦末期に匹敵する。
3)2015年前後までに消費税率引き上げを含む財政再建策が講じられないと、国債が暴落する可能性がある。
4)その理由として、IMFでも、政府の総債務残高が、近い将来、家計金融資産を超えると試算しており、経常収支も2015年以降赤字化する可能性がることがあげられる。

 国債が暴落するとなぜ困るのかと言えば、政府が資金を調達することができなくなり、結果として財政が破綻します。その挙げ句デフォルト(債務不履行)ということになれば金融危機が発生することになり、特に日本のような経済規模の大きな国がデフォルトを行えばその影響はギリシャなどの比ではありません。経済は大混乱に陥ることは目に見えています。

 こう書くと、やはり消費税の増税は必要なのかなあ、と思いそうですが、でもよく考えてみましょう。この論理は、要するに「経済が混乱するのは困るので、そうならないように今のうちに消費税を上げておき、機関投資家による国債の売り崩しを避けるようにましょう。」というものです。つまり、視点が経済の運営というところにあるわけであり、言い換えれば、経営者の発想であるということになります。
 経済が混乱すれば国民も困りますが、経営者はもっと困ります。下手をすれば、自分の財産や権力が失われる恐れもあるからです。したがって、消費税を増税しようというのは、自分たちが困らないようにしようという気持ちが強く働いているからにほかならない、といってもよいと思います。

 ずいぶん勝手な話だと思いませんか。

 この人たちは、これまでも「日本の社会は高コストなのだから、国際競争力を身につけるにはコストを切り下げる必要がある」と主張し、要求してきました。
 業績が悪化すればリストラを断行することで人件費を切り下げ、業績が持ち直しても増員は非正規雇用労働者で充当し、再び業績が悪化すれば雇い止めを実施してきたことは皆様よくご存知のことと思います。また、電気料金が高くなるのは困るといって、原発の再稼働を要求したことも記憶に新しいところです。

 このような理不尽ともいえる要求に対し、きちんとした反論がこれまで為されなかったのは、実際に海外に生産拠点を移している企業が既に登場していたからです。
 「このままいくと、今に製造業は日本の国内からなくなってしまいますよ。アメリカを見てご覧なさい。そうなれば失業率は今よりももっと高くなるんですよ。それよりも、少しくらい給料が安くても、きちんと働くことができる方が幸せじゃないんですか?」と、こういう説明が為されてきたわけです。
 けれども、私が思うのは、そういうコストカットに熱心な企業はさっさと海外に移転してもらっても構わないのではないか?ということです。これらの企業は、国内に居たとしても、下請けや取引先に無理難題を押し付け、従業員を酷使しているわけです。どちらかというと、他人に貧乏くじを引かせることで繁栄を享受してきたのですから、このまま日本にいると不幸な人がさらに量産されることになるように思います。実際、業績が悪化してリストラされた人はいくらでもいますが、リストラをした経営者が責任をとって私財を投げ出したという話は聞いたことがありません。給与をカットしたといってもせいぜい半年か1年ですし、責任をとって退任したといっても、関連会社の役員に収まることもできるのですから、一般の従業員と違って路頭に迷うということはないのです。

 この人たちが好んで使う「自己責任」というのは、他人に対して引導を渡すときに使われる言葉です。「あなたがすべてを失うことになったのは、あなたが自ら招いたことなのですよ。」という論理が自分に向けられることは決してありません。自分の繁栄のためには他人を犠牲にすることも厭わないという人たちが、今回の消費税の増税をリードしてきたのだと私には思えるのです。

 熊谷氏のインタビューを読むと、賛成しかねる部分が多いといえます。今の日本が「世界最悪の財政状況に陥っている」のはなぜか、熊谷氏の分析によれば、「増税の前にやることとは、歳出のカットであり、経済成長戦略を実行すること」だという「安易な先送り」が繰り返されてきた結果だと、ということになります。つまり、今までやらなければいけなかった増税を先送りにしてきた結果が今日の姿なのだということなのですが、冗談じゃないと思います。
 これまでも、1988年竹下内閣のときに消費税(税率3%)の導入が決定し、翌年の4月1日から施行されましたし、1997年にはその税率が5%に引き上げられました。さらに小泉内閣になってからは、社会保険料の段階的引き上げが行われるようになり、国民の負担は年々増加しているという現実があります。したがって熊谷氏がいう「安易な先送り」とは増税による歳入確保を怠ってきたことではなく、歳出を際限なく増やし続けてきたことにこそ当て嵌まるものです。
 熊谷氏自身も、「消費税率引き上げを含む財政再建策が講じられないと(後略)」と、さらりと述べているように、本当に必要なのは財政再建の方です。消費税率の引き上げはその手段のひとつにすぎません。これについては、熊谷氏も「社会保障を中心とした無駄な歳出のカット」が必要であると述べているのですが、その道筋もつけいうないまま消費税率だけを先行して上げるというのは筋が通りません。そもそも、今までできなかった歳出カットが、今後数年間でなぜかできるという前提で消費税率のアップが決められたわけです。むしろ、消費税は上がったけれども財政赤字は減らなかった、ということになる可能性が否定できないと思うのは私だけでしょうか?

 熊谷氏へのインタビューの中に、「わが国の所得税は、空洞化しています。様々な控除などにより所得税率が事実上1割以下という人が国民の9割に上ります。これは異常な事態です。国民の負担は、非常に小さいのです。日本は中福祉低負担国家だと称されてきましたが、現実には、高福祉低負担国家になっています。」という言葉が出てきています。
国民の負担=所得税というとらえ方をしているのですが、これも事実と異なります。国民が負担しているのは所得税だけではありません。その他に住民税や健康保険料、年金の保険料も負担しているのであり、サラリーマンの場合これらの負担割合の合計は給与の2割を超えています。さらに、ここに住居費(家賃かもしくは住宅ローンの返済)を加えると収入の5割近い負担となります。その残りが可処分所得になるかというとそうではありません。子どもがいる家庭では教育費が重くのしかかっていますし、医療費の支払いも無視できません。熊谷氏のいうように「高福祉低負担国家」というのはごく一部の人に対していえることであって、大部分の人には当て嵌まらないのです。
 可処分所得が年々減ってきているという現実がある以上、消費税率を引き上げれば国民の生活を直撃することになります。けれども給料が増える要因はどこにもないのですから、国民の側には、生活費を切り詰めるか、もしくは自己破産するまで消費を続けるかどちらかしか選択肢はありません。

 消費税率の引き上げに政府官僚が熱心なのは、歳入が増えればそれだけ自分たちの権力が増すからです。逆に歳出をカットするというのは、自分たちの権力を削ることにつながりますから、抵抗するのが当たり前です。それを抑えつけるのが政治家の役目なのでしょうが、今の民主党や自民党の顔ぶれを見ていると期待できそうもないですね。法案採決前のゴタゴタをみれば、国会議員の本義を放棄して権力闘争にうつつを抜かしていることがよくわかります。
 また、経済界の指導者には、当面の間経済が安定であればそれでよいという考え方が強いようですし、内需を拡大するにはどうしたらいいのかを考えるよりも、目先のコストをカットすることの方に関心が向いているように思われます。なにぶんお年寄りが多いので、ご自分が現役である間はともかく、後は知らないよというのが本音なのかもしれません。
by t_am | 2012-08-11 23:19 | その他