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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

個人情報とデータベース

 武雄市(佐賀県)が、市立図書館の管理業者に「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下「CCC」)が決定し、同社との間で合意文書を交わしたとのことです。

(5月5日付西日本新聞より)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/300562

 武雄市の発表によれば、CCCのノウハウを活かし、利用者サービスをアップを図るとのことで、具体的には開館時刻を現行午前10時~午後6時を拡大して午前9時~午後9時にし、さらに年間30日ある休館日をなくし年中無休にしたうえで、飲食のできる喫茶店を設け、また雑誌やオリジナル文具の販売も計画しているそうです。書棚を増設して蔵書を現在の2倍半の約20万冊にすることも計画しているそうですから、利用者の視点に立った図書館となることも期待できそうです。

 武雄市の樋渡啓祐市長(2期目)は、これまでも武雄市民病院の民間移譲を行うだけでなく、フェイスブックやツイッターを市政に活用してきていることでも知られています。そういう人だけに、民間のすぐれたサービスを取り入れることに何のためらいもないのでしょう。
 また、武雄市の財政としても、現在年間1億4500万円かかっている図書館の運営費を約1割削減することを見込んでいるそうですから、実務家としての手腕も持ち合わせた人なのだろうと思います。

 CCCとの運営提携は、今後の市議会の承認を経て現実のものとなっていき、来年度からスタートしたいとのことです。市立図書館の運営がうまくいけば、同様の取組みが全国に広がっていくことになるでしょう。そういう意味では、今回の武雄市の動きはテストケースとなるので、今後どのようになっていくのか注目したいところです。

 図書館を民間企業が運営することについての、私の基本的な考えは以上の通りですが、実をいうと懸念されることがいくつかあります。ここではそのひとつだけを申し上げることにします。
 上記の西日本新聞のニュースにも記載されていましたが、「図書館の利用カードは、全国で約3900万人が加入するCCCのポイントカード「Tカード」に切り替え、本を借りると、CCCの提携企業の店舗で使えるポイントがたまる仕組みにする。」とのことです。これはちょっとみると、利用者にとってお得なようですが、見方を変えると個人の情報がデータベース化されることに公的機関が与するということになるのです。

 図書館の貸し出しカードがTポイントカードになることで、誰がどんな本を借りたかという情報がCCCに供給されることについて、樋渡市長は、「何を借りたかというのがなんで個人情報になるんだと疑問に思っている。」と記者会見の席上で答えていたそうです。もっとも「市民の同意が必要だが。」とフォローしていたそうですから、ヤバイと思ったのかもしれません。

 実をいうと、図書館で誰が何を借りたかという情報は、それほど価値のあるものではありません。価値が増すのは、そのような情報がいくつも組み合わさったときです。ポイントカードは小売業各社が発行しているので、持っておられる方も多いことと思いますが、それらはしょせん自社の店舗での買い物が情報として記録されるだけのカードにすぎません。また、企業によって情報の活用能力に差があるので、収集された買い物情報が社会問題化することもまずないといってよいでしょう。
 ところが、Tポイントカードは、たぶん加盟店が日本でもっとも多いカードなので、傘下の加盟店で収集された買い物情報を集めると巨大なデータベースができることになります。それはいいかえれば、それまで点に過ぎなかった個人の買い物情報が線になり、しかも今後さらに緻密なものになっていくということにもつながるのです。

 すでにネット通販では、利用者に対し、次の商品を勧めるというプッシュ型のマーケティングが当たり前になっています。たとえば、本を買った人には、その著者の新刊の案内が送られるということが行われていて、これも個人の買い物情報を「活用」してるからこそ、このようなマーケティングが可能となるわけです。

 Tポイントカードは、個人の買い物情報をはるかに幅広く収集することができる可能性を持っています。極端ないい方をすれば、その人が、いつ、どこへ行って、どの店で、何を買ったか(あるいは借りたか)という情報が次第に蓄積されていくということにつながるのです。

(参考)T会員規約
http://www.ccc.co.jp/fileupload/pdf/member/20111001_Tmember.pdf

 個人情報というと、その人が誰か特定できる情報という意味で使われていますが、それがデータベースの中に組み入れられるようになると、個人の趣味や嗜好といった属性の情報が第三者に対して明らかになっていきますし、さらには行動の履歴までもが記録されることになっていきます。
 その店でしか使えないポイントカードよりは、どの店でも使えるポイントカードの方が利用者にとって便利であることは間違いありません。そうやって利用者が増えれば増えるほど、加盟店も増えていくことになるので、データベースはますます巨大化していきます。

 データベースの価値は、蓄積されている情報量に比例して高まっていきます。ということはその情報を欲しがる人や企業・組織がそれだけ増えていくということになり、自分の知らないところで自分に関するデータがやりとりされるケースが増えていくということを意味します。

 もっとも、個人の買い物情報がデータベース化されるといっても、当面はダイレクトメールが送られてくるくらいでしょうから、興味がなければ無視するか消去すればいいだけのことですから、自分の情報が知らないところで蓄積されていっても、構わないというひともいることでしょう。それが嫌だという人は、ポイントカードを使わないで買い物をするという選択肢も残されています。
 けれども、今回の武雄市の図書館の場合は、貸出しカードをTカードにするという構想のようですから、Tカードを持ちたくないという人は図書館で本を借りることができないということになりかねません。

 おそらく、実際の運営が始まるまでには、図書館の利用者はTカードを使うかそうでないかを選択できるようになることと思います。しかし、運営する企業としてはTカードの会員数を増やしたいでしょうから、もしかするとTカードの有無によって受けられるサービスのレベルに差がつくようになるかもしれません。市立図書館として、それでいいのかという疑問と、市が一企業の便宜を図るような枠組みをつくることに対する懸念が残るのですが、今後の議論の進展がどうなるか興味深いところです。

 図書館の運営を民間企業に委託して、それでサービスレベルが向上するというのは市民にとって歓迎すべきことなのでしょうが、個人情報の取り扱いということに関して、もう少し神経を使ってもいいのではないか、そんなことを考えさせられたニュースでした。
by t_am | 2012-05-06 18:41 | その他