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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

どこにでも存在する放射性物質

 福島県の生協「コープふくしま」が、家庭の食事にどれくらいの放射性物質が含まれるのか、食卓を丸ごと調査する取り組みを始めました。

(食卓の放射性物質を丸ごと調査-NHK NEWS WEB)
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/0328.html


 今回結果が公表されたのは、応募のあった組合員の家庭、福島県内各地の96世帯の調査結果です。そのやり方は、家族の人数より1人分を余分に食事を作って検査のためのサンプルにするというもので、2日分の朝昼晩ごはん、合わせて6食分のサンプルを生協の検査センターに送ると、およそ2週間程度で含まれていた放射性物質の量が知らされるのだそうです。コープふくしまの検査機器は1kgあたり1ベクレルまで測定できるという精度の高いものであり、誤差を考慮しても信頼できる検査結果になるものと期待してよいと思います。

 今回の調査では、個々の食材に対して放射性物質を測定するというものではなく、1回の食事全体でどれだけ放射性物質が含まれるかというものです。したがって、食事を通じてどれだけの放射性物質を取り込むのかという目安になるものですから、調査の結果は私のような素人にも分かりやすいものになっています。

 もっとも、今回の調査の対象となったのは生協の組合員という「偏ったサンプル」であり、しかも市場に流通している食品を無作為に抽出して検査しているわけではありません。したがって、何を食べても安心してよいと断言できるわけではありませんが、今後もこうした調査を定期的に実施していくことには意義がある思います。

(調査結果の概要)
1.96世帯のうち86世帯では放射性セシウムは検出されなかった。
2.福島県産の野菜を使った世帯でもセシウムが検出されない世帯があった。
3.セシウムが検出された世帯でも最高値は12ベクレル/kg に過ぎなかった。
4.自然界に存在する放射性物質であるカリウム40はすべての世帯の食事から検出された。
5.カリウム40の検出値は15ベクレルから56ベクレル(1kgあたり)であった。

※カリウム40
 太陽系がつくられたときから存在する放射性物質で半減期は12.8億年とされています。自然界に存在する放射性物質には存在比というのがあって、たとえばカリウム40の存在比は0.0117%であるとされています。これは放射線を出さない天然のカリウムの中に放射能を持ったカリウム40が0.0117%含まれるということを意味しています。
 なお、カリウム40はベータ線を放出するので、通常の測定器(もっぱらガンマ線を測る)では検出することができません。それではコープ生協がどうやって検出したのかというと、想像になりますが、食事に含まれているカリウムの量を化学的に測定したのだろうと思われます。カリウム40の含有量(存在比)は一定ですから、カリウムの量がわかればそれに存在比をかければカリウム40の量もわかるということになります。
 また、ベータ線は飛行距離が数十センチから数メートルと短いので、外部被曝よりも内部被曝の方が人体に与える影響が大きいといえます。

(この調査によってわかること その1 意外と身近に存在する放射性物質)
 私たちは毎日の食事を通じて、微量ですが、カリウム40という放射性物質を摂取しています。カリウムが野菜や魚・肉に含まれているのでカリウム40を摂取しないというわけにはいきません。カリウムは生物にとって不可欠の元素ですが、過剰に摂取したカリウムは腎臓から排出されます。つまり、人体には常に一定濃度でのカリウムが存在しているのであり、そのうち0.0117%はカリウム40なのですから、カリウム40を気にしてもどうにもならないのです。これは政府の責任ではありませんし、東京電力のせいでもありません。

 それよりも、放射性物質がどこにでもあり、誰の身体の中にでも存在することが確認できたわけですから、原発事故の被災者に対する差別が根拠のないものであるということが分かると思います。

(この調査によってわかること その2 食品の規制値)
 自然界に存在する放射性物質があって、それらは人体にも取り込まれているからといって、原発事故により放出された放射性物質を無視してよいということにはなりません。政府は昨年「暫定」規制値として食品に含まれてもよいとする放射性物質の基準値を定めましたが、甘い基準であるという批判を浴びました。今回の調査結果は、その甘い規制値のもとで流通している食材を使った食事について調べたものです。だからといって甘い規制値でも充分安全性が確保されているという根拠にはなりません。既に述べたように、市場に流通しているすべての食品について調べたわけではないからです。とはいうものの、セシウムなどの放射性物質に汚染された食品を流通させないという施策が有効であることに間違いはありません。

 個々の食品についてはそれぞれ規制値が定められていますが、私たちが口にするのはそれらを複合的に組み合わせて調理した食事です。したがって個々の食品の規制値の設定をどれくらいの水準にすれば1食あたり総合的な放射性物質の量がどれくらい含まれることになるのか、については今後も継続して調査する必要があります。それによって規制値の妥当性を判断する材料を得ることができると思います。

(被災地の瓦礫の広域処理について)
 宮城県と岩手県の被災地の瓦礫を広域処理することについて、住民の中には受け入れ反対という人が多いことも報道されています。その理由は、自分たちが住む町に放射性物質なんか持ち込んでもらいたくないということであり、その思いは私にも理解できます。(ほかに放射性物質を日本中に拡散させることにつながるという批判もあります。)

 今回の調査によって、日本中のどこにでもカリウム40という自然界に存在する放射性物質があることが示されました(ほかにも炭素14というベータ線を放出する放射性物質があります)。 

 震災(津波)による瓦礫は莫大な量であり、岩手県と宮城県の処理能力をはるかに超えています。これらの瓦礫を取り除かなければ復興ができないのですから、早いうちに処理をしなければなりません。そうかといって、広域処理を受け入れることで放射性物質が持ち込まれるのではないかという心配があることもわかるのですが、被災地以外の土地でももともと放射性物質が存在しており、さらに風や雨などによって原発から飛散した放射性物質が少しずつ運ばれて来ているというのが実情です。


(学校の貯水槽から放射性物質 NHKニュース)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120329/t10014065151000.html


 自然界に存在する放射性物質は薄く均等に分布していて、濃縮されるということがありませんが、原発由来の放射性物質は主に自然現象と生物によって濃縮されていきます。このニュースが伝えるところは、雨水に含まれている放射性物質が貯水槽の中で沈殿して溜まった結果これだけの量になったというものです。雨水の中にこれだけ濃度の高い放射性物質が含まれているというわけではありません。

 このような現象は神奈川県だけでなく東日本の至る処で起こっているものと思われますが、誰も測定しないので明らかになっていないだけであるといってよいでしょう。だからといって不安に思う必要はありません。人間に害を及ぼすのは放射線ですから、要は放射線を浴びないようにすればよいのです。そのためには、原発由来の放射性物質がどこにあるかわからないという状態よりも、むしろ自然現象(重力や水や風の流れ)によって放射性物質が集まってくれた方が都合がよいといえます。(たとえば雨水に含まれている放射性物質は下水道に流れ込めば汚泥の中に沈殿していきます。)

 ただし、今の時点では放射性物質がどこに集まっているのかよくわかっていません。そこで測定によって放射性物質が集まっている場所をひとつひとつ見つけていくことが重要となります。そうやって発見された放射性物質の塊を人間から隔離して、危険がなくなるまで保管しておくという取り組みが、今必要なのではないかと思います。もちろん、飛来した全ての放射性物質が集められるというわけではありません(中には河川を通じて海に流れ出すものもあるはずです)が、このまま何もしないでいることは危険を放置することになるのですから、はるかにましであるといえるでしょう。

 これは被災地の瓦礫を広域処理する場合でも同じことです。瓦礫に付着している微量の放射性物質は焼却することによって空気中に飛散するか、もしくは焼却灰の中に残るものと思われます。焼却場の煙突にはフィルターが取り付けられていますが、極微細な放射性物質を完全に除去できるとは思えません。何割かは空気中に飛散することになるものと思われます。
 このことは、新たな放射性物質を環境中にまき散らすことになるのですが、それでも瓦礫の広域処理は行われるべきだと私は思います。というのは、東日本の地域であれば被災地でなくとも飛来した放射性物質に対する取り組みが必要になってきているからです。瓦礫の受け入れは嫌だといって何もしないでいる間に、少しずつではありますが、原発由来の放射性物質が飛来してきているのです(福島第一原発では今も放射性物質の飛散が続いています)。それならば、これらの放射性物質に対する取り組みに着手し、その一環として瓦礫の受け入れも行うこともできるのではないでしょうか。

付記
 環境省では瓦礫の焼却灰に含まれる放射性物質が8000ベクレル/kgであればそのまま埋め立てしてもよいとしていますが、埋め立てされた放射性物質が土壌や地下水を汚染する可能性も排除できない以上、これは無責任極まりない指針であると思います。むしろ焼却灰や汚泥を固化して放射性物質がしみ出したり飛散しないような措置をとったうえで、専用の保管場に運び込んで社会から隔離するべきだと思います。
 原発からの放射性廃棄物の保管場は今も設けられていません。政府は福島第一原発の周辺に「中間」貯蔵施設を設置する考えを持っているようですが、こういう言葉のごまかしのようなことをいつまで続けるのかと思います。高レベル放射性廃棄物でない限り三百年間保管できればそれはほぼ無害化されるのですから、三百年間絶対に周辺環境を汚染しないという施設を建設するので同意していただきたいと約束すればよいだけのことです。現在はドラム缶に入れたまま放置されているのですから、それよりははるかにマシであるはずです。


 原発は安全ですから安心してください、というのがこれまでの住民説明のやりかたでした。しかし、実際にこれだけの大事故が起こったのですから、もはやこの手法は通用しません。にもかかわらず、停止中の原発の再稼働について、政府も電力会社も従来と似たようなやり方を続けようとするので不信感を招いているのだといえます。
 
 それよりも、「これをすることによってこういうリスクが発生します。それに対してはこういう対策を用意しています。また、こういうリスクも予想されますが、こういう対策を用意しています。」という説明とそれに対する質疑応答を繰り返すことの方が、政府にとっても住民にとってもいいように思います。当局は、煩わしいことは避けたいと思うのか、肝心なことには触れないで説明を済ませようとします。また、賛成する人たちは、もはやこれ以上議論する必要はないとばかりに速く結論を出すよう求めているようですし、反対する人たちにおいても、反対という結論が出ているために議論に応じようという意識が希薄になっているようにみえます。

 こうして問題点が明らかにされないまま放置されることになり、不信と不安がいつまでも解消されないという状況が続くのだと思います。

 このように、リスクを曖昧なまま放置してきた結果福島第一原発の事故が起こったと考えることもできます。事故のきっかけは「想定外の」地震と津波ですが、あのような大事故にまでつながった直接的な理由は東京電力と政府による不作為であるといえます。ただし、そのような状況を事実上容認してきたわたしたちにも責任の一端があることを自覚した方がよいと思います。

 そのうえで、わたしたちにできることは何かといえば、自分自身で考えること、わからないことがあれば説明を求めること、その説明がわかりくいものであれば分かるように説明してくれと要求することであると思います。そのような議論を重ねるうちに自ずと結論は導かれるのですから。
by t_am | 2012-03-30 08:36 | その他