ブログトップ

カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

無理のある職務命令

 大阪府立和泉高校の卒業式で、教職員に対する君が代の起立斉唱という職務命令が実行されているか確認をするために、校長が教頭に指示をして教員の口元チェックを行ったという報道がありました。

(3月13日付YOMIURI ONLINE)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120312-OYT1T01232.htm?from=tw

 このことに対し反対意見がツイッターなどで相次いだことを受け、3月15日橋下市長が反論するツイートを公表しました。

(橋下市長のtwilog)
http://twilog.org/t_ishin/asc

 なお、和泉高校の中原校長もブログで、当日の状況やご自分の考えを表明しています。これを読むと、抑制の効いた理性的な文章であることがわかり、クレバーな人なのだろうと思います。

(大阪府立和泉高校 中原校長のblog)
http://ameblo.jp/nakahara-toru/entry-11192795624.html

 中原校長に対する批判の根底にあるのは「やり方が陰湿」であるという思いでしょう。君が代斉唱のときの不起立教員のチェックくらいであれば、一目見ればわかるのですからこれほど批判を浴びることもなかったはずです。(現に、不起立教員の有無のチェックは過去において何度も行われています。)ところが、君が代を歌っているかどうかを確認するとなると、一目見て済ませるというわけにはいきません。どうしても「監視」というイメージがつきまとうのは避けられないと思います。
 それでは、そういう監視的な管理が妥当なのかどうかということになると、橋下市長がツイートしているように、教育委員会が府立高校の全教員に対し君が代の起立斉唱を命じており、さらに校長に対しその状況報告を求めている以上、中原校長の行動は責められるべき筋合いはないということになると思います。(こういう書き方をするのは橋下市長や松井知事に対し失礼かもしれませんが、)悪法もまた法であり、状況報告を求めるという職務命令も公序良俗に反するほどのものではないといえますから、中原校長のとった行動は正当なものであるといわざるを得ません。

 職務命令ということについて、もう少し考えてみましょう。上司の部下に対する命令というのは次の4つのステップを経て完了します。

1)命令
2)実行
3)報告
4)報告の承認

 このうち、1)と4)は上司が行い、2)と3)は部下が行います。以外と忘れられているのが、4)の上司による報告の承認です。部下がきちんと命令を実行したかどうかを確認して初めて命令が完了するのです。(ですから、部下から回って来た伝票や報告書にロクに目を通さずにハンコを押すのは上司としてふさわしい行動ではないことになります。)
 今回の中原校長の行動はこのステップに忠実に沿ったものであるといえます。
 このとき、部下が行った結果が保存されていないと上司は確認をすることができません。たとえば、朝の通勤時間帯に駅頭で、通行人に対し自己紹介した上で歌を1曲歌ってくるように、という職務命令があるとします。部下が駅頭で自己紹介したことも歌を歌ったことも形として保存されていないのですから、これを確認するために上司はその場に同行するか、その様子をビデオ撮影するよう他の部下に命令するなどのことをしなければなりません。
 しかし、組織というのはそんなにヒマなところではありませんから、自分や他の部下が同行してその場に居合わせなければ確認できないできないようなことを職務命令として命じることはしないのが普通です。(上司がいちいちそんなことをしていたら自分の仕事ができなくなります。)

 橋下市長は、「『斉唱』の確認は口元チェック以外にどうやってやるのでしょうか?」とツイートしています。ここで考えられるのは次の2つです。

1)口元チェックを行ったのは和泉高校だけでなく府立高校全部で行われていた。
2)他の府立高校の校長はロクにチェックせず、適当な報告をしていた。

 どちらが正しいのか知る術はありませんが、2)に該当する校長が全くいなかったのかというと、そんなことはないだろうという気がしてなりません。というのは、こういうやり方をした場合、自分にとって都合の悪いことは報告しないのが人間という生き物だからです。
 これは、畏友セイヤさんから教えてもらったのですが、韓国で原発事故防止対策が発表され、その目標は「故障ゼロ」、方法は「厳罰」だったそうです。その結果どういうことが起きたかというと、その発表があったその日の午後8時に古里原発1号機の電気が途絶えたけれども、現場でこれを見ていた職員が60-100人いたにもかかわらず、この事故は1カ月以上も伏せられたそうです。

(【現場から】原発事故より怖いのは嘘だった=韓国・古里)
http://japanese.joins.com/article/183/149183.html


 そういうことを考えると、中原校長という人は勇気のある人なのかもしれないと思いますし、橋下市長がツイートしているように中原校長を責めるのは筋違いであるようにも思います。
 しかし、私自身は今回の一連の措置が妥当であってとは思っていません。その理由として次の2つのことを指摘しておきたいと思います。

1)一部の不逞教員に対する締め付けのつもりなのでしょうが、真面目に仕事に取り組んでいる教員に対しても同様の締め付けを行っているわけであり、あまりにも陰湿であると思います。
 批判者の多くは同じように感じていると思います。そのとばっちりを食ったのが中原校長なのだということになるのでしょう。有能な管理者にこのような「汚れ仕事」をやらせるのは気の毒ですから、大阪府教育委員会はぜひ来年度からは卒業式に監視カメラを設置して検討していただきたいものですし、松井知事にはその予算化をしていただきたいと思います。同様に、大阪市でも教職員基本条例が可決されて暁には同様に監視カメラを設定していただきたいものです。そんな財源はどこにもないとおっしゃるかもしれませんが、優秀な人材というのは金銭に換算できないのですから、みすみす人材を喪うようなことはされないほうが大阪府民と市民のプラスになると思います。

2)上司の管理手法によって、部下が「私はこの仕事をやらされている」と思う場合と「私はこの仕事を任されている」と思う場合に分かれます。どちらが高いパフォーマンスを発揮するかは申し上げるまでもないでしょう。管理者はもとより教職員までもが上しか見ない組織になったときに一番迷惑するのは庶民です。
 大阪府が府立高校に対し行っていることの辿り着く先は「私はこの仕事をやらされている」と受け取る教員が増殖するというものです。だから教育委員会に対し、ロクに確認もしていないのに嘘の報告をした校長がいるとすれば、既にその兆候が現れているということになります。
 そうではなく、現場の校長は自発的にこういう「マネジメント」を行っているのだとしたら、それはいずれ府民の反発を招くことになるでしょう。不逞教員・不逞公務員を懲らしめるために管理体制を強化することは一時的に府民の喝采を浴びるかもしれませんが、そのやり方が陰湿であると庶民が感じた場合、その反発はそれを指示した知事や市長に向かうことになるわけですから。
by t_am | 2012-03-15 20:56 | その他