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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

放射線に関するおさらい(4)    暫定基準値

 この「放射線に関するおさらい」というシリーズは、様々に出回っている情報をいちいち鵜呑みにしていると右往左往しかねないので、自分なりにいったん整理しようという目的でまとめているものです。
 今回は、食品はもとより稻わらや腐葉土、薪などから放射性物質が検出されたというニュースが続いていることから、政府が定めた暫定基準値について整理してみることにします。
 そもそも暫定基準値(政府は「暫定規制値」と呼んでいます)とは何かというと、厚生労働省医薬食品局食品安全部長による平成23年3月17日付通達において、次のように記されています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e.html

 飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ることを目的とする食品衛生法の観点から、当分の間、別添の原子力安全委員会により示された指標値(「飲食物摂取制限に関する指標」のこと。筆者)を暫定規制値とし、これを上回る食品については、食品衛生法第6条第2号に当たるものとして食用に供されることがないよう販売その他について十分処置されたい。

 このことから、少なくとも次の3つのことがわかります。

1)これまで日本には食品に放射性物質が含まれる場合の安全基準がなかった。
2)そこで、原子力安全委員会が示した「指標値」を、
3)当分の間、暫定規制値として使用する。

 要するに、厚生労働省が定めたわけではない数値を当分の間使うことにしたので、「暫定」規制値と呼んでいるわけです。したがって、将来この「暫定規制値」が変更される可能性は極めて高いといえます。より厳しくなるのか、それともより緩やかなものになるのか興味が尽きないところです。

 ところで原子力安全委員会が示した指標値がどのような考え方に基づくものかは、「原子力施設等の防災対策について」という報告書(昭和55年6月。以後都度改訂されており、直近の改訂時期は平成22年8月となっています)に書いてあります。(5-3防護対策のための指標、および付属資料14「飲食物摂取制限に関する指標について」)
 これを読むと、放射性セシウムに関しては、以下のとおりの考え方に基づいていることがかかれています。

1)放射性セシウムと放射性ストロンチウムの割合
 放射性セシウムの環境への放出については放射性ストロンチウムを伴うので、その割合をストロンチウムは1割と仮定して、合計放射能値を計算する。
2)基準となる実効線量
 実効線量5ミリシーベルト/年を基準として、5つの食品カテゴリーごとに均等に5分の1ずつ割り当てる。5つの食品カテゴリーとは、(1)飲料水 (2)牛乳・乳製品 (3)野菜類 (4)穀類 (5)肉・卵・魚・その他 であり、それぞれ年間の実効線量を1ミリシーベルトとして計算するというものです。

 その結果、飲料水と牛乳・乳製品については、200ベクレル/kg(あるいはリットル)という値が示され、野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他については、500ベクレル/kgという値が示されています。

 原子力安全委員会による指標値設定の目的は、放射性物質による被曝を提言するという観点から、放射線濃度を実測した結果これ以上の濃度の放射性物質が検出された場合摂取制限を実施するめやすとして提案されたものであるという断り書きがついています。
 この指標値は単なる提案に過ぎませんから、これを受けて、その数値が妥当であるかどうかと言う検証とそのうえで承認するという手続きが行われるのが普通です。妥当性の検証くらいはやっているはずですが、承認して正式の規制値にするという手続きは行われていませんでした。だから「暫定」規制値なのです。

 この暫定規制値に対しては、外国の基準値に比べると緩いのではないかと大勢の人が指摘しています。私も同感ですが、ここではちょっと切り口を変えて考えてみましょう。
 これらの5つの食品カテゴリーの食品が放射性セシウムによって汚染されていた場合、この指標を守ってこれ以上の濃度の食品の流通をストップさせれば、それぞれのカテゴリーで年間1ミリシーベルトを超えることはないというのが、原子力安全委員会の考え方です。
 そうすると5つの食品カテゴリーを合計すると年間で5ミリシーベルト未満となります。でも2年間では10ミリシーベルト未満となります。この状態が今後10年間続くとした場合、その累積値は年間50ミリシーベルト未満となってしまいます。放射性セシウムの半減期は約30年ですから、30年間続くとその累積値は150ミリシーベルト未満となってしまいます。
 現在50歳代以上の人が今後30年間放射性セシウムに被曝し続けるという可能性は低いかもしれません。そこで10年間で50ミリシーベルト未満という被爆地の意味を考えてみると、現在10歳未満のこどもと大人とが同じ線量の被曝をした場合、こどもの方が放射線に対する感受性がはるかに高いことを考えると、本当にこの基準でいいのだろうかと疑問に思います。
 もうひとつ申し上げておくと、前回書いたように、放射性物質はその核種によって体内で蓄積される臓器が異なるのであり、全身に万遍なく放射性物質が行き渡るわけではありません。ところが、実効線量というのは放射線を全身で被曝するという考え方に基づいて計算された値です。内部被曝した場合、実際には特定の臓器のうち特定の箇所が放射線に晒され続けると考えなければなりません。このことは、被曝による遺伝子の損傷が細胞のガン化に発展していくリスクがそれだけ高いということを意味します。

東海村の臨界事故のときのように、高いレベルの放射線を一度に浴びてしまうと急性放射線障害を起こします。しかし、今回の福島第一原発の事故のように、低いレベルの放射性物質が極めて大量に放出され、非常に広範囲を汚染した場合は、数年経過後のガン発生確率が高くなります。すなわち、放射線によるガンの発生は確率的なものであり、被曝する線量が高くなれば当然発生確率(人口10万人あたり何人のガン患者が発生するか)も高くなります。
 実をいうと、自然界にはもともとごく微量の放射性物質が存在している(ただし、放射性セシウムというのは核分裂による生成物ですから、本来自然界には存在しないものです)ために、ガンの発生確率はゼロというわけではありません。ではなぜそれが問題にならないのかというと、確立が低いために気にする人がいないだけのことです。
 このように、放射線による被害というのは、これ以下ならば安全であるという線引きをすることができません。したがって食品に摂取制限の基準値を設けるということは、これ以下であれば気にする必要はないというのが正確なところであり、けっして安全であると保証してくれているわけではないのです。

付記
 自然界に存在する放射性物質で代表的なのは炭素14 ですが、これはベータ線を出す核種なので通常の測定器では検出することができません。炭素14は、大気中で宇宙線によって発生した中性子を窒素原子が吸収することで生成される放射性物質ですから、地球上の至る処でごく微量の割合(炭素全体に対しおよそ百億分の1.2の割合)で存在するために、どの炭素化合物にも含まれています。当然、私たちが口にする食品の中にも、測定されていないだけで、ごくごく微量の炭素14が含まれていると考えるべきです。だからといって、炭素14を含む食品を食べないというのは不可能ですし、気にしても気にしなくても発ガン率は今更変わりません。

 したがって、制限値を設ける際に、それが厳しければ厳しいほどガンの発生確率は低くなっていきます。そういう目でみると、原子力安全委員会が提案した指標値というのは、国民の健康以外に、「他の分野にも配慮した」結果の数値であろうと思います。ゆえに、制限規制値を超えていないからという理由で流通を許可した食品が安全であるとは誰にも断言できませんし、放射性セシウムの汚染濃度によっては発ガンリスクが低いといえない場合もあるといえます。

 これは推測ですが、原子力安全委員会がこの指標を決めた時点では、これほど大規模な事故によって広範囲が汚染された場合を想定してはいなかったのではないかと思います。報告書のタイトルが「原子力施設などの防災対策について」となっているように、せいぜい、小規模な事故によって原子力発電所の周辺だけが汚染された場合しか想定していないでこの指標を決めたのではないかと思うのです。

 このように考えてくると、政府が定めた「暫定規制値」というのはあまり信用ができません。本来であれば、検査結果(どれだけの放射線が測定されたのか)を表示すべきですすが、その手続きの煩わしさ、その反響の大きさを考えるととても取り組む気にはなれないのだろうと思います。それならば、少なくとも「検査をパスしたから安全です」といういい方はやめていただきたい。
 さらに、年間5ミリシーベルトの内部被曝というのは過去に例のない事態ですから、その結果数年後にはガン患者の発生率が高くなることが予想されます。そのときに備えて、どのような医療体制と患者を抱えた家族に対する支援体制を整えておくということも必要です。
 厚生労働省という官庁は、過去の薬害事件では不作為を繰り返してきました。本来やっていれば被害はもっと軽くて済んだのに、対策をとっていないばかりに被害を拡大させたという責任があるのですが、厚生労働省では頑として認めようとしませんでした。今回の原発事故でも同じようなこと(対策を怠ったことによる被害の拡大)が起こるのではないかと懸念されてなりません。
 計測された放射線量をきちんと公表し、食品に表示するというように、正確な情報を公表するという姿勢を政府が示していれば国民も政府に不信感を抱くことはなかったと思います。この問題は菅総理が辞めれば解決するのかというとそうではありません。新しい総理大臣が情報の開示を推し進めれば別ですが、候補者の顔ぶれを見ているとあまり期待できそうにないのが情けないところです。

付記
 現在のところ、暫定規制値の運用は、その値を超えた食品を出荷させないという手続きを発動させるために用いられているのが現状です。しかし、それだけでは対策として不十分であり、たとえば、規制値を超えた米が栽培されていた農地は無条件で除染の対象とする(イタイイタイ病のカドミウム汚染田を除染したように、その費用は国費で賄うべきです)というような対策と連動するようにしておかないと、いつまで経っても汚染された食品がなくなりはしません。


(まとめ)
1.暫定規制値を現在のままで運用を続けるのであれば、将来のガン患者の大量発生に備えた準備を今から進めておくべきです。
2.個人にできる自衛策としては、その食品が放射性物質に汚染されていないと確信できるものだけを購入した方がよいと思います。特に、小さなお子さんをお持ちのお母さんはそうすべきです。
3.放射線検査は放射能に汚染された土地の確定にも応用し、ただちに除染に取りかかるという体制づくりをすべきです。
by T_am | 2011-08-13 18:21 | その他