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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

放射線に関するおさらい(3)  その危険性

 今回は、以前ご紹介した、東大先端科学技術研究センター教授でアイソトープ総合センター長である児玉龍彦教授が参考人として衆議院厚生労働委員会に招致された際の意見陳述からの受売りに基づいています。


(YouTube版)
http://www.youtube.com/watch?v=O9sTLQSZfwo


(テキスト版:「THE JOURNAL」児玉龍彦東大教授の国会陳述の衝撃 ── 広島原爆の29.6個分の放射線総量が漏出している!より)
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/08/_296.html


1.2種類の被曝
 放射線による被曝が実際どのように起こるかという観点から被曝には2種類あると考えることができます。

1)瞬間的に大量の放射線を浴びてしまう場合
2)低い線量の放射線を長期間にわたって浴び続ける場合

 1)の事例としては1999年に東海村で起こった臨界事故が典型的です。この事故では2人の方が亡くなりました。うち一人は推定16~20シーベルト以上の中性子線を浴び、もう一人は推定6~10シーベルト以上の中性子線を浴びたと考えられています。これだけ大量の放射線を浴びてしまうと細胞の中にある遺伝子は完全に破壊されてしまいますから、細胞の機能がすべて失われてしまいます。細胞の機能が失われるということは生命を維持する機能が失われるということなので、治療する術もないまま、その死はゆっくりと訪れます。実際にこの事故の犠牲者が亡くなったのはそれぞれ事故発生の83日後、211日後でした。

 放射線が人体に及ぼす害というのは、遺伝子(DNA)を傷つけることです。放射線というのは高いエネルギーを持った粒子ですから、DNAの鎖に損傷を与えます。被曝する線量が高ければ同時にたくさんの細胞の遺伝子が致命的な損傷を受けることになります。逆に、線量が低ければ影響を受ける遺伝子の数とダメージはそれだけ小さなものになります。

 DNAというのは通常二重螺旋構造をしていますから、片方の鎖が損傷してももう一方の鎖を型とすることによって修復されるようになっています。放射線の線量が低ければ遺伝子に与えるダメージも低くなるので、遺伝子の自己修復機能によって回復する可能性は高くなります。私たちは普段でも年間1ミリシーベルトという自然放射線を浴びていますが、必ずしもガンや白血病にならないのは、この自己修復機能が働くからです。
 ところが、この自己修復機能が働かないときがあって、それはどういうときかというと、主に次の2つの場合が考えられます。

1)許容限度を超えるような量の放射線を浴び続けた場合
2)細胞が分裂しているときに放射線を浴びた場合
 
 1)の許容限度というのは人によって千差万別であり、年齢・体格・体力などによって異なりますから、一概にここまでは大丈夫という数値を示すことは誰にもできません。政府が食品についての暫定基準を設けていますが、これも実験によって確認されたものではなく、これくらいなら大丈夫だろうという推定によって導かれた数値に過ぎません。当然そこには政治的な思惑もあるはず(あまり厳しくすれば、引っかかる食品が膨大なものになりますし、かといって基準を甘くすれば、後で健康被害が発生したときの責任を追及されることになるという心配もあるでしょう)ですから、その食品の放射能が暫定基準値以下だから大丈夫と信頼することは、私ならばしません。
 唯一いえるのは、放射性物質をなるべく体内に取り込まないようにすること、そのためには放射能に汚染された食品をできるだけ遠ざけることだといえます。(暫定基準については書き出すと長くなるので、改めて書くことにします。)

 2)の細胞が分裂しているときというのは、DNAの二重螺旋構造がほどけて1本の鎖になっているときをいいます。そうやって、それぞれ対になる鎖を作成して二重螺旋構造の鎖を2本つくって細胞分裂を行うわけです。
 ところが、細胞分裂の途中では、二重螺旋がほどけて1本の鎖になったままですから、このときに放射線による損傷を受けてしまうと、対になる型がないために自己修復機能が働かず、損傷箇所を直すことができないままとなってしまいます。
 体内で細胞分裂が活発に行われているのは腸管上皮細胞と骨髄の中の造血幹細胞です。ほかにガン細胞も細胞分裂が活発に行われていて、ガン患者に対する放射線治療というのは、放射線と局地的集中的に照射することでガン細胞の遺伝子を傷つけることを目的としています。ただし、この治療法は大きな副作用を伴います。ガン細胞もダメージを負いますが、正常な細胞も無事では済まないというところがありますから、放射線治療にはリスクも伴います。
 放射線を浴びたことで、ガンや白血病を発症する可能性は高くなるわけですが、線量が低ければ、実際に発病するまでにはかなりの時間がかかります。「ただちに健康に影響を及ぼすわけではない」ために、「もうしばらく様子を見ましょう」といわれるのがオチです。したがって放射能汚染に対する防御・対策は後手に回りがちになり、実際に政府の対応はその通りとなっています。
 今回のような、致死量に達していないがゆえに比較的低レベルとされる放射能に広い地域が汚染された場合の危険性というのは、対策が後回しにされてしまうことなのです。

 個人の自由意思で、汚染された食品を食べ、汚染された地域に住むというのであれば、誰にもそれを止めることはできません。しかし、ほとんどの人はそうではありません。自分が住んでいる町の汚染が気になるけれども、仕事の都合でほかに移るわけにはいかない、ほかに行くところがないという人が大部分を占めるのです。

 親がそうであれば、こどももそれに従わないわけにはいきません。

 こどもや胎児は全身で細胞分裂が活発に行われているために、放射線に対する感受性は成人の比ではありません。ゆえに、放射線から身を守るための基準値はこどもや胎児を想定して設けられるべきなのですが、実際には成人を対象にした暫定基準値が幅を利かせているようです。

 もしかして、このまま何もしなければ十年後二十年後にガン患者や白血病患者が大量に発生することになるかもしれません。でもそれは本人が自ら選んだ結果ではないことに注意すべきです。

 児玉教授は、放射性物質に汚染されているところの除染を行う体制をただちに構築すべきだと指摘されました。それはイタイイタイ病のカドミウムに汚染された農地の除染とは比べものにならない規模と費用が必要となります。このままでは、行われるべき除染作業という公共事業が巨大な利権の巣窟になりかねないという危惧も児玉教授は表明されています。(十兆円以上ともいわれる賠償金額の中には汚染された土壌・建物の除染費用は一切含まれていません。東電に対する支援法案が可決されたように、いずれ、除染のための新しい集金・配分システムがつくられるのではないかと思われます。)

(まとめ)
1)低線量の被曝はただちに放射線障害が現れるわけではなく、ガンや白血病の発病までに時間がかかる。汚染された地域に住む全員が発病するわけではないが、発症率は他の地域に比べると高くなる。
2)放射性物質に汚染された地域(避難指示が出ていない地域)に住む人たちの中には、本当は避難したいと思っていてもいろいろな事情がそれを許さないという人が多い。残りの人たちは、危険性について鈍感になってしまっている。
3)この人たちを将来の発症から救うには、地域ぐるみで除染に取り組む以外に方法はない。しかし、住民にはそのためのノウハウもなければ道具もないし資金もない。自治体はそこまで手が回らない。唯一それが可能な政府と国会議員にはやる気がない。

 これは何度でも申し上げることですが、私たちは、自分たちの生命・健康・安全・財産・自由を守るために国をつくり、そのための代理人として官僚を政府に送り込み、同時にその動きを監視させるために国会議員を選出し、それらの費用の一切を捻出するために税金を納めているのです。政府や国会議員がその責任を果たさないのであれば辞めてもらう以外にありません。
 だから、今回の原発事故によって被害を被った人たちはもっと怒っていいと思います。「いい加減にしやがれ! 人を何だと思ってるんだ!」と。
by T_am | 2011-08-08 22:11 | その他