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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

再生可能エネルギー促進法案で脱原発は進むのか?

 脱原発を訴えるグリーンピースなどの団体が「再生可能エネルギー促進法案」の早期成立を促す動きを見せています。私のスタンスは、「原発の新規建設は行わない」、「耐用年数の限界を迎えた原子炉から順次廃炉にする」、「その間で代替えエネルギーを確保する」というものですから、化石燃料を用いない発電方式の普及を促すということには賛成しなければなりません。そこで、再生可能エネルギー促進法案とはどんなものなのかを調べてみました。

http://www.meti.go.jp/press/20110311003/20110311003.html

(法案の概要)
1.電気事業者に対する電気の買取りの義務づけ
・再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電した電気を、
・電気事業者に対し、
・経済産業大臣が定める一定の期間・価格により買い取る(調達する)よう義務を課す
・そのことで、発電事業者が再生可能エネルギー発電設備へ投資を行う際の回収リスクを低減し、新規投資を促す

2.買取費用の負担方法
・買取りに要した費用に充てるため各電気事業者が
・それぞれの需要家に対して
・使用電力量に比例した賦課金(サーチャージ)の支払を請求することを認める
・同時に、地域間でサーチャージの負担に不均衡が生じないよう必要な措置を講ずる

3.その他
・電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)は廃止
・ただし、所要の経過措置を講ずる
・少なくとも3年ごとに
・再生可能エネルギーの導入量及びサーチャージ負担の与える影響等を勘案した見直しを行うとともに
・2020年度を目途に廃止を含めた見直しを行う

(この概要を見やすくまとめたもの:概念図)クリックすると拡大します

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http://www.meti.go.jp/press/20110311003/20110311003-3.pdf より引用

 この法案の趣旨としては、「エネルギー安定供給の確保、地球温暖化問題への対応、経済成長の柱である環境関連産業の育成のためには再生可能エネルギーの利用拡大が急務であり、再生可能エネルギーの固定価格買取制度を導入する」というものです。
 これを読む限りまことに結構な法案であるということになりますが、どうも素直に受け入れる気になりません。その理由を申し上げます。

1.現時点では再生可能エネルギーによる発電は割高である
 割高だからこそ電力事業者に対して買取を義務づけるわけであり、そのコストを電気料金に転嫁させる方法をとっているわけです。太陽光発電の発電効率は既に限界に来ていますから、発電コストは初期費用に左右されます。すなわち、大量生産が実現すればそれだけ初期費用が下がるはずなので、発電コストもその分低下するはずであるということです。この法案もそのことが考慮されており、大量生産によって発電コストが下がれば買取価格も下がっていくことを前提としています。ただし、買取価格の決定は経済産業大臣の権限ですから、市場の動向に連動しているとは言い切れない部分が残ります。また、買取価格と電気料金との差額は付加金という名目で利用者(家庭と企業)が負担することになりますから、経済成長という点からはマイナス要因となります。

2.付加金を調整するための新しい役所ができる
 概念図によれば、「費用負担調整機構」という新しい機関が設置されることになっています。その設立目的は電気事業者の負担の地域間格差(不均衡)を調整するというものです。具体的には、電気事業者が徴収した付加金(その金額は国が決定する)をここに集め、電気事業者に対して再配分することで、電気事業者の損失(買取価格と電気料金との差額)を補填するという実務を担うことになります。
 経済産業省にすれば、新たに仕事ができることになりますから、そのための予算を獲得するという理由が生まれます。そうなれば、「費用負担調整機構」を維持するための税負担が発生することになります。
 ただし、このような仕組みを設けるメリットとしては、将来発送電分離が実施された場合に、小規模な発電事業者(つまり、太陽光発電を導入した一般家庭であり、小規模水力発電を導入した家庭や自治会など)を保護することになるという点も考慮する必要があると思います。発送電分離は、企業や家庭が電気をどこから購入するか自由に選べるようにするためのものですから、電気の供給が完全に自由化されると、小規模発電の家庭や自治会などは市場競争から脱落することになります(そもそも競争力がないから買取を義務づけているのです)。それでは、大量生産による再々可能エネルギー発電の初期費用を下げるという目論見は吹き飛んでしまいます。そこで、付加金制度を残しておいて、これらの小規模発電を保護することが必要になると思います。
 その代わり、「費用負担調整機構」の業務は煩雑なものになりますから、組織は肥大化し運営コストも大きくなります。経済産業省にすれば、どう転んでも大きな利権を手にすることになるのです。

3.電気の供給能力の余剰がもたらすもの
 この法案が成立し、再生可能エネルギーによる発電量が増えてくると、日本全体の電気の供給能力が増すことになりますから、需要と供給の量のバランスは電力会社による発電所の稼働状況のコントロールによってとられることになります。ご存知のように、発電所というのは年間の最大ピーク需要を満たすようにつくられますから、1年の大半は供給過剰の状態が続くことになります。ところが火力発電所も原子力発電所もいったん稼働すると発電量を需要に合わせて細かく変動させるということはできないので、余った分の電気を揚水発電に回したり、電気需要の少ない時期は発電所そのものを点検という名目で止めてしまうことが行われています。(真夏を除けば発電所の稼働率は意外と低い。)
 再生可能エネルギーによる発電量が増えると、電力会社のこのような調整に拍車をかけることになります。ここで、考えなければならないのは、電力会社による電気料金の決定メカニズムとして、電力会社の利益は資産の一定割合を確保するように電気量が決められるということです。これはどういうことかというと、原発のような大きな資産を持てば電力会社の利益は増えるということを意味します。
 電気の供給能力が増えて、発電所の稼働状況をコントロールしなければならないようになると、電力会社の発想としては、償却が進み資産価値の低下した発電所(=老朽化した発電所。維持費が高い)から順番に廃止していくということになると思います。資産価値が低ければ利益計算に与える影響も少なくなるわけです。また、電力会社の利益確保という点からも、操業を停止させる順番としては、稼働させることによって燃料費が上昇してしまう火力発電所の停止の方が優先順位が高いものと思われます。
 このように考えると、再生可能エネルギー促進法が成立しても原発を廃止する圧力にはならないのではないかという気がしてなりません。


 脱原発を進めるためには代替えエネルギーをどうやって確保するかという問題を解決しなければなりません。それには2通りあって、石炭やガスなどの化石燃料を用いた発電方法と太陽光や風力、潮力などの再生可能エネルギーを用いた発電方法とがあります。今、再生可能エネルギーが取りざたされているのはCO2の排出を抑制したいという思いが強いからです。
 ところが、再生可能エネルギーによる発電というのは規模を大きくすることができません。風力でも太陽光でも1つの発電所で、火力や原子力のような百万キロワットの出力を備えたものはまだありません(将来もないでしょう)。つまり、再生可能エネルギーによる発電というのは、1つ1つの小規模な発電所が分散しているというクラウド型の発電システムなのです。
 再生可能エネルギーによる発電には価格競争力が低い、出力が安定していない(天候任せ)という弱点があります。ゆえに、営利目的で再生可能エネルギーによる発電に手を出すと大火傷を負ってしまうということになりかねません。これらの発電設備は、本来、自己使用分を調達するというスキームを逸脱することはできないのです。しかし、それでは初期費用の回収もおぼつかないので、余った電気を買い取ってもらうという仕組みを導入しているわけです。
 再生可能エネルギー促進法が成立すると、このような小規模(零細)発電がさらに増えることになりますから、日本の電気料金を高くする方向に圧力が働きます。これは、消費者はもちろん、電気を大量に使う工場や企業にとってはありがたくない事態です。
 理想をいえば、電力需要に応じて発電量を変化させらればいいのですが、再生可能エネルギーというのは天候任せのところがあります(バイオマスを除く)から、電気の供給能力に占める割合をあまり高くすることはできません。

 以上のことから、再生可能エネルギーによる発電を普及させて脱原発を推進するというのは、現時点ではかなり無理があるように思います。初期費用を劇的に下げて、24時間安定的に電気を供給できるようにしない限り、いずれ限界に突き当たるように思うのです。
by T_am | 2011-07-03 22:57 | その他