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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

百年河清を俟(ま)つ

 河とは黄河のこと(ちなみに、江という場合は揚子江のことです)。黄河は上流の土を運んで来るために絶えず濁っている。ゆえに、決して実現しないことを空しく待つというたとえとして使われる。(左氏伝)

 7月1日から電力使用制限令が発令されました。節電に対する企業や官庁の取り組みを昨日からマスコミは繰り返し報道しています。環境省の、交代で平日職員を休ませ土曜日に出勤させるというのを私は3度聞かされました。そんなことをするくらいならば、いっそのこと平日は休みにして土日に仕事をするようにすれば、ピーク電力の削減になる上に、便利になると住民は喜ぶでしょう。今まで窓口業務は平日しかやってなかったのですから。
 それはそうと、これだけ繰り返し聞かされると、もはや報道というよりはキャンペーンであるといってよいと思います。この「キャンペーン」に対し、電力会社が広告料を支払ったかどうかはわかりませんが、電力会社・政官・マスコミのトライアングルという構図が透けて見えるようです。

 ネット上で、節電の呼びかけは原発の必要性を認めさせるための策謀であるという指摘が為されています。同様の試みとして、震災直後計画停電が実施されましたが、やり方がまずかったために、原発の必要性よりも電力会社に批判の矛先が向けられました。それでも、今後電力不足が起こりそうになったときは停電が起こる、ということを国民に予習させるだけの効果はあったといえます。

 そのうえで、今回の節電要請・電力使用制限令の発令です。準備万端、満を持しての取りかかりなのです。

 電力会社や政府が原発は必要であるというのには理由があります。今までは原発は低コストだといっていましたが、今回の福島第一原発の事故によって低コストでも何でもないということが明らかになりました。ひとたび過酷事故が発生すれば、東電のような巨大企業でも吹っ飛びかねない支出が発生します。
 そこで、もうひとつの理由である「電力の安定供給のためには原発は欠かせない」という主張に基づいて、それを「実証」するために今回の節電キャンペーンが張られているのだと考えられます。
 なぜ、そんなことをするのかというと、原発をつくればつくるほど電力会社が儲かる仕組みになっているからです。小出裕章先生が書かれた「原発のウソ」(扶桑社新書)には、その仕組みがわかりやすく書かれています。要約するとこういうことです。
 電気料金の決定は電力会社の必要経費+利潤を計算して行われているけれども、その利潤の計算は電力会社の資産に対する一定のパーセントとしてよいということになっています。すなわち、原発のように建設費の巨大な施設をつくれば、その数パーセントが利潤として新たに上乗せされるのですから、原発をどんどんつくった方が会社は儲かることになります。その一部が政治家に対する献金となり、またマスコミに対する工作資金(実際には広告宣伝費。これらは必要経費になるから電気料金に転嫁されている。しかも資産が増えて利益が増えれば必要経費を増やしても目立たないので、これまで以上に広告宣伝費を使うことができるようになる)として使われることになります。また、官僚としても、原子力安全・保安院のような役所をつくることによって自分たちの仕事と予算を確保できます。その代償は電気料金という名目で企業と消費者に負担させればよいので誰の懐も痛みません。関係者にとってとてもハッピーな状況が実現するのです。

 ところが、フクシマ以降、世界中で脱原発の動きが加速しており、日本でも原発に反対する人が増えてしまいました。御用学者を登場させて、放射線の害はそんなに心配することはありませんよと言わせても、誰も信用してくれません。肝心な情報を出さずに都合のいいことだけを繰り返し報道させるのですから当然なのですが、起死回生の一策として、このままでは夏場のピーク時に電力不足が心配されるので節電を要請するということになったわけです。
 電力の供給が綱渡りであることは間違いないようですが、「なぜそんなことになったのか?」という追求が抜けたまま節電要請・電力使用制限令という短絡的行動がとられ、いつのまにか当然のこととして受け止められてしまっています。
 この夏の電力不足の原因は、震度6の地震がくれば壊れてしまう発電所をつくっておきながら、それを放置してきた電力会社に一義的な責任があります。3.11の震災の後で発電を停止したのは福島原発だけではありません。火力発電所だって止まってしまったのです。でも、火力発電所を津波が襲ったという報道はありませんでした。にもかかわらず、火力発電所が止まったのは、地震によって設備が壊れたからです。

 そういう発電所が全国至る処にあると考えた方がよいと思います。

 ところが、政府の指示は短期的には非常時の電源確保であり、中期的には津波対策のための防潮堤の建設ということばかりです。それらの対策が無駄であるとは申しませんが、設備(特に配管)が損傷すれば発電所は停止せざるを得なくなりますし、原発の場合はメルトダウンや水素爆発につながる可能性も否定できないのです。

 そういう状況には手をつけずに、電力の安定供給というところに問題点をすり替え、そればかりをクローズアップして他のことは忘れさせてしまおうというのが、電力会社・政府・マスコミの意図なのではないかとも思います。つまり、現在の電力供給能力の不安というのは、電力会社と政府の怠慢・不作為が招いたものであり、企業や国民には何の責任もないのです。
 にもかかわらず、「真夏になってピーク時の電力不足が起これば大規模停電が発生しますよ。冷房も選れ-ベーターも電車も全部止まりますよ。熱中症になってもいいんですか? 家に帰れなくなってもいいんですか?」ということを(はっきりと声には出しませんが)言っているのです。こういうことをやって平気でいられる人間のことを「恥知らず」というのだと私は思っていますが、そういうことを言う人はあまりいないようです。(私の友だちは「社蓄」と呼んでいました。)


 彼らの本音は、案外大規模停電が起こっても構わないとまで思っているのかもしれません。(マスコミは大喜びするはずです。)しかし、そうなると、産業界が受ける打撃は大きなものになりますし、死人も出るでしょう。被害が大きくなれば大臣のクビが飛ぶだけでなく電力会社の経営陣にも累が及ぶことになります。それでは困るので、「電気の供給余力1%で計画停電を実施」という予防線を張ることにしたのでしょう。これは「万が一需給逼迫が予想される場合には、予めお知らせした上で、やむを得ず計画停電を実施する」(東京電力のサイトから)というものであり、そのスケジュールは既に公表されています。 

http://www.tepco.co.jp/images/month_schedule.pdf


 さらに、柏崎原発7号機では真夏の海水温上昇により冷却能力が落ちるので発電効率が下がる(定格熱出力で最大9%程度定価する)という発表がされ、前後して現在運転中の柏崎原発の原子炉が定期点検のため停止する8月末の電力供給量はさらに低下するという発表が行われています。
 福島第一原発の事故の情報はなかなか出さないくせに、こういう情報はいち早く公表するのですから油断がなりません。それというのも、東京電力では計画停電を実施するつもりでいるのだろうと想像するからです。
 前回と違って、今回は準備万端・周知徹底されています。したがって、計画停電が行われたとしても、事前にやれることはすべてやっており他に方法はなかったと弁解することができるようになっているのです。しかも今回は、企業や一般市民も節電に協力しているのですから、それでも計画停電が行われれば「しかたない」と諦めるだろうというところまで読んでいるといえます。
 ついでに申し上げると、サマータイムという名目で一部の企業や官庁で行われている時差出勤、小売業の一部で行われている営業時間の繰上げ(開店時刻と閉店時刻を早める)は電力のピークカットには何の影響も及ぼしません。ピークカットを行うのであれば、全産業が交代で休業日を分散させる(平日休んで土日に操業・営業する)ことの方が効果はあります。
 おそらく、この夏は最低でも1回、ひょっとすると何回か計画停電が「やむを得ず」行われることになるだろうと思います。そのことが、電力の安定供給のためには原発が必要不可欠であるという説得材料の切り札になるからです。逆に、節電が功を奏して、計画停電が必要なかったということになれば、「やっぱり原発は不要じゃないか」ということになるのですから、原発の恩恵を受けている者にとっては許し難いはずです。ゆえに、計画停電が実施されるはずだと思うのです。

 これまでに申し上げてきたように、原発は事故が起これば大変な被害をもたらしますし、事故が起こらなくても放射性廃棄物という厄介な者を出し続けます。したがって、まともな判断力を持つ人であれば、原発はただちに廃止すべきだという結論になると思うのですが、大きな船ほど急に止めたり方向を転換することは難しくなります。そこで、次善の策として現在ある原発が稼働している間に代替えエネルギーの技術を確立させて、耐用年数の限界が訪れた原子炉から順番に廃炉にしていくのが現実的であると思うのですが、どうやらそういう考えは百年河清を俟つようなものではないかという気がしています。
 このことは、菅総理が執着している再生可能エネルギー促進法案についてもいえると思うのですが、それについてはいずれ改めて書くことにしたいと思います。
by T_am | 2011-07-02 22:18 | その他