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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

鵜呑みにできないマスコミ報道

 電力不足が懸念されるとして、節電への取り組みが継続されています。そのこと自体はまあいいとして、こんな記事を見つけました。

「商用原発:36基が停止、運転は18基…浜岡全面停止で 」(毎日新聞 5月15日)


 記事の概略はこういうことです。「浜岡原発が停止したことにより、全国で54基ある商業発電用原子炉のうち36基が停止中となった。これは全体の3分の2にあたる。さらに今後定期点検により5基の原子炉が新たに停止する予定であり、定期点検終了後の原子炉の再稼働には地元の同意を得るのが難しくなっていることもあって、今後夏に向けて各地で電力の供給が切迫する恐れがある。」

 いかがでしょう。これを読むと、この夏の電力不足はどの程度になるのだろうと心配になったのではないですか。
 その一方でこういう報道もあります。

「東電また“情報操作” 「電力不足キャンペーン」にモノ申す」(東京新聞 5月12日)

(記事の画像はこちら)
http://ch10670.up.seesaa.net/image/110512-1.JPG


 この記事によれば、東京電力広野火力発電所(福島県広野町、総出力380万kw)が七月中旬にも全面復旧するので、そうなれば夏の電力不足は発生しないとのことです。

 いったいどちらが正しいのでしょうか?  
 まず、広野火力発電所ですが、東京電力のサイトによれば総出力380万kw のうち停止中は2号機と4号機(合計160万kw)とのことですから、残りの3機(合計220万kw)は稼働中ということになります。しかし、東京新聞の記事によれば広野火力発電所は全部が停止中であるかのような印象を受けます。その場合、復旧による発電量の追加分は380万kwとなりますし、既に一部が稼働しているのであれば追加分は160万kwとなります。380万kwと160万kwとでは全然違いますから、実際はどうなのかが知りたいところですが、よくわからないというのは正直なところです。

 毎日新聞の記事の書き方にも問題があって、「現在稼働中の原発は全体の3分の2しかない。今後さらに5基の原発が定期点検で停止するので稼働できる原発はもっと減ることになる。」という文脈で記事がつくられています。これは嘘を書いているわけではないのですが、火力発電所の稼働状況が今後どう変化していくのかというところが抑えられていません。原発の総発電量が間違いなく減るということはわかりますが、それでは全体の発電量がどうなるのかということには触れていないのです。したがって、「各地で電力供給が切迫する恐れ」があるという予測が正しいかどうなのかわからないことになります。
 毎日新聞が意図的にこのような記事を書いたのだとすれば、悪質であるといわざるを得ません。この記事の書き方は「一部がこうだから全体もこうである」という合成の誤謬を犯しているからです。

 東日本大震災と福島第一原発の事故以来、日本のマスコミは当局が発表することをそのまま報道しているのではないかと気になっていたのですが、今朝の朝刊でそのことがはっきりわかりました。
「福島1号機 津波前重要設備損傷か 揺れ原因 建屋で高線量」(新潟日報 5月15日朝刊)

 記事の概要は「3月11日夜の時点で1号機の原子炉建屋内で毎時300ミリシーベルト相当の高い放射線量が検出されていたことが福島原発関係者への取材で分かった。これは燃料の放射性物質が大量に漏れていたことが原因とみられる。従来は、津波による電源喪失によって燃料棒の冷却ができなくなり、原子炉圧力容器内が高温になることによって放射性物質を含む水蒸気が漏れたとされていたが、あまりに短時間で原子炉建屋内に高濃度の放射性物質が充満した理由としては不自然である。したがって、『地震の揺れで圧力容器や配管に損傷があったかもしれない』と東電関係者が認めている。」というものです。
 1号機で水素爆発が起こったのは3月12日午後3時過ぎであり、原子炉建屋の上部が破壊されました。その後広範囲に放射性物質がばらまかれたのは周知の事実です。したがって、この時点で既に「燃料棒が溶けて中身が漏れ出していた」こと、および原子炉圧力容器か配管が損傷しており、高濃度に汚染された熱水が原子炉建屋内に漏れだしていたと考えることによって、原発敷地外に放射性物質が拡散していった理由が納得いきます。
 ここで問題なのは、事故発生後2ヶ月も経ってからこのようなことが初めて東電関係者に取材することによってわかったということです。
 私のように、原子力の素人でも新聞やテレビおよびネット情報を総合すれば、原子炉設備のうち配管・圧力容器・格納容器のうちいずれかまたは全部が損傷しているだろうと予測することはできたのに、なぜ東電による記者会見の現場に立ち会っている記者たちがそのことに気づかなかったのか理解に苦しみます。そこまで程度の低い記者たちが派遣されているとは考えられないので、結局は当局の発表をそのまま垂れ流すだけの報道が日常的に行われていると考えたほうがよさそうです。

 東京電力という企業が自社の都合しか考えていないこと、政府が世論によっては日本中の原発が廃止に追い込まれる事態を怖れていることは昨日のブログで申し上げた通りです。その結果、事故対応がちぐはぐなものになっているにもかかわらず、本来であれば権力を監視する役割を担っているはずのマスコミが当局の発表を垂れ流しにするだけで、何の検証も行っていないという事実は情けないといわざるを得ません。

 私たちは、政府やマスコミが嘘を言うはずがないと思ってきました。今回の一連の報道発表ではたしかに誰も嘘を言っていないかもしれませんが、事実をありのままに述べていないのではないかという不信感は当初から感じていました。その結果、風評被害という問題が発生しましたが、これは国内だけの問題ではありません。外国からは日本は汚染国家であるというレッテルを貼られることになりました。福島県からの避難者に対する差別が行われているということが伝えられていますが、同じことが外国から日本全体に対して行われているのです。
 そのような差別が理不尽であると思うならば、ただちに福島県民に対する差別をやめなければなりませんし、農産物や水産物に対する放射線検査を実施して安全が確認されたものだけを市場に流通させよと声をあげなければなりません。そういう圧力がなければ政府も県も動かないからです。現実はどうかというと、検査されていない食品が市場に出回っています。安全な食品だけを市場に流通させるという意思が行政には欠落しており、あるのは汚染が確認されたものはとりあえず出荷停止措置をとるという中途半端な対応だけです。そのような行政のあり方が風評被害を招いているという反省が当局にはまったくありません。
  そういうことになってしまった責任の一端は、自分で考えようとしない、そしてきちんと自分の意見を述べようとしない私たちにもあるといえます。
 私たちがおとなしく唯々諾々と従っているからこそ、彼らは図に乗って好き勝手をするのです。
 震災の後で、「自分にできることは何か」と考える風潮が広まりました。義援金を拠出する。ボランティアに参加するということも「自分にできること」ですが、自分で考えてきちんと意見をいうというのも「自分にできること」ではないでしょうか。
by T_am | 2011-05-15 20:47 | その他