ブログトップ

カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

放射線と放射性物質

 福島原発の事故のおかげで放射線と放射性物質についていろいろと調べる機会がありました。このあたりで、それについて整理してみたいと思います。


1.放射線は放射性物質から出ている
 新潟でも以前巻に原子力発電所を建設しようという計画がありました。巻町長(巻町はその後新潟市と合併しました)のおかげで計画は頓挫しましたが、当時の私は、何か事故が起こったときには原発から放射線が飛んでくるものだと思っていました。そういう感覚でいると、原発を中心に半径10kmや20kmの円を描いて対応するという発想が出てくることになります。
 しかし、実際には放射線は何種類もある放射性物質から出ています。放射性物質というのはごく小さな埃のような大きさであり、風に乗って運ばれていきます。福島第一原発の周辺地域での放射線測定量が同心円状に同じ値とならずに、アメーバ状に線量の高い地域と低い地域に分かれているのは、風向きが影響しているからです。
 空中の放射性物質はゆっくりと地上に落ちてきます。また雨が降ると一度に落ちてきます。放射性物質は、田んぼや畑にも落ちますし、河川や学校のグラウンド、公園などにも落ちてきます。
 なお、放射性物質の中でも比較的重いプルトニウムなどは、原子炉が爆発でもしない限り風に乗って遠くまで運ばれるということはないようです。

2.被曝について
 放射線の被曝には外部被曝と体内被曝の2種類があります。外部被曝は空間線量と密接な関係にあります。空間線量というのは、空中を飛んでいる放射線の量のことをいい、文部科学省が測定値を公表しているほか、線量計によって測定することができます。
 前項で申し上げたように、放射線は放射性物質から出ているのですから、放射性物質が多く存在するところでは空間線量も多くなります。放射性物質は風よって運ばれていきますから、風向きや地形(吹きだまりとなる地形)によって濃度に差がでることになります。 文部科学省がホームページで都道府県別の「環境放射能水準調査結果」を毎日公表していますから、ご自分が住んでいる県の値が急激に上昇し、その後高いままとなっているという事態でも起こらない限り、あまり気にする必要はないと思います。(放射線量の測定については後で書きます)
 これに対し体内被曝というのは、呼吸や食事によって放射性物質を体内に取り込んでしまった結果、体内から放射線を浴びることになるというものです。体内被曝の放射線量が微量であれば気にする必要はありませんが、放射性物質が多い地域では体内被曝のリスクも高くなるために、放射性物質を取り込まないように気をつける必要があります。それについても後で書きますが、とりあえずは空間線量が低い水準で安定している状態であれば(福島県以外のすべての都道府県がそうです)、特別な対策をとる必要はないといえます。
 
 以上のことから、その人の被曝量は外部被曝と体内被曝の合計となることがわかります。

3.被曝量と健康被害の関係
 放射線を浴びると細胞の中の遺伝子が損傷します。しかし、遺伝子には自己修復機能が備わっていますから、損傷を受けても修復されるように私たちの身体はできあがっています。万一遺伝子の修復に失敗して細胞がガン化したとしても、人間の身体に備わっている免疫機能によってガン化した細胞は攻撃されるので増殖していくということはありません。
 しかし、これらの防衛機能にも限界があるので、強い放射線を連続して浴びるとガンの発生リスクは高くなっていきます。
 年間で20ミリシーベルトの放射線を浴びると、1,000人に対し5人のガン患者が発生するといわれています。これは、個人にとっては自分がガンになる確率(0.5%)の問題にすぎませんが、集団にとっては1,000人あたり5人のガン患者がまず間違いなく発生するということを意味しています。
 意外と忘れられているのが、私たちは普段でも年間1ミリシーベルトの放射線を被曝しているということです(外国ではもっと高い放射線を被曝しているところもあります)。現在福島県以外(会津地方も含む)に住んでいる人であれば、放射性物資に汚染された食物を食べたり、放射性物質の濃度の高い地域に行って放射性物資を吸い込むということがなければ気にする必要はありません。
 なお、体内被曝で気をつけなければならないことは、放射性物質に汚染された食物を食べるたびに被曝する放射線量は増えて行くということです。また、身体の中に入った放射性物質は体外に排出されるまで放射線を浴びることになるので、体内被曝の可能性は極力排除した方がよいと言えます。
 
(現状の問題点)
 現状では、基準を超えた放射性物質が検出された農産物はその県で生産されているものすべてが出荷停止となります。放射性物質の量は地域によって異なるのですから、このようなやり方は合理性を欠くだけでなく風評被害を生む原因となっています。このような理不尽なやり方を続ける理由は、放射線量の測定器が十分配備されていないというところにあります。
 本来であれば、放射性物質による汚染が疑われる地域で生産れた農作物と畜産物は生産者ごとに検査を行い、基準値以内であれば出荷を認めるけれども、基準値を超えたものは出荷を認めないというやり方をとるべきです。そういう消費者サイドに立ったやり方が行われていない以上、消費者が自分と家族を守るために行動するというのはやむを得ないと思います。
 東京では被災地野菜産直キャンペーンが行われていますが、それらの野菜がきちんと検査されていることを確認したうえで、購入した方がよいと思います。
 なお、3月11日以前に収穫された農作物や畜産物、たとえば福島県の米は昨年とれたものですから、何の心配もいりません。


4.放射性物質はいたるところに存在している
 自然界には、原子炉の中でつくられた放射性物質以外に放射線を発する物質が存在しています。それらは広く薄く分布しており、放射線を出しています。福島原発の事故とは関係のない県でも放射線量の測定値がゼロにならないのは、これらの放射性物質が影響を与えているからです。
 したがって、放射線というのは地面や建物からも出ていることになりますから、食品や商品の放射線量を測定すれば、安全な地域で生産されたものであってもゼロになるということはまずありません。ごくわずかですが、放射線が検出されることもあると思っておいた方がいざというときに冷静に行動することができます。私たちは、もともとそういう環境の中で暮らしているのですから、放射線量が突出して高くならない限り気にする必要はないということです。

5.放射線量は測定する場所によって異なる
 ここでは、主に福島県を想定して考えることにします。すなわち、原発のある地域で重大事故が起こったときにどのように理解すればいいかを述べるのであって、他の都道府県ではこの項に書いてあることは気にする必要がないということです。
 原発の事故が起こって最初の頃は、空中に漂う放射性物質が多く、地面に落下している放射性物質は比較的少ない状態といえます。また、風向きによって放射性物質が運ばれていく地域も決まっていくので、原発の風下となっている地域ではそれだけ多くの放射性物質が運ばれていくので空間線量もそれだけ高くなります。
 次の段階になると、空中を漂っていた放射性物質が地面に降下していきます。そうなると地面に近いほど放射線量は高くなります。こどもは大人に比べると身長が低いので、高い放射線を全身で浴びることになるうえに、地面に付着している放射性物資を吸い込んだりする可能性も高くなります。
 また、吹きだまりでは放射性物資が溜まりやすくなることを覚えておくとよいでしょう。

6.都道府県別の「環境放射能水準調査結果」をどう理解したらいいか
 文部科学省が毎日発表している都道府県別の「環境放射能水準調査結果」は、たとえていえば、気象庁が発表している各地の気温のようなものだと思っていればよいと思います。
 天気予報で、「東京の今日の最高気温は20度なり、暖かい1日となることが予想されます。」と述べることがありますが、実際には同じ東京都でも場所によって22度となる場所もあれば18度にしかならない場所もあります。場所によって気温は異なりますが、東京全体では概ね暖かい日になるという傾向に変わりはありません。
 東京都の測定地点は新宿区百人町にある「東京都健康安全研究センター」の屋上です。(猪瀬副知事のブログより。http://www.inosenaoki.com/)厳密に言えば、ここで測定された放射線量というのはあくまでも新宿区百人町のものであり、墨田区や港区で測定すれば異なる値となるはずですし、八王子などの23区外で測定しても同様となります。それでも、東京全体の傾向はこうだという目安にはなりますから、この値が極端な数値にならない限り心配する必要はないと思います。
 猪瀬副知事はご自分のブログの中で次のように述べています。

 「地上20メートルの計測はおかしい。計測値の低いところだけで計っている」とか「地面近くの子供の背丈ぐらいのところでなぜ計測しないのか」など俗説がツイッター上で流されている。生半可な知識で専門性を否定する風評は許されない。

 これは東京都の測定の仕方に対する疑問があって、猪瀬副知事がこれに反論するために東京都健康安全研究センターでの測定の様子をブログで紹介したということなのですが(詳細はブログをご覧ください)、残念ながら副知事の反論は的外れであるといえます。というのも、平常時の対応としては東京都健康安全研究センターで行っているやり方で十分なのですが、非常時には各地区にモニタリングポストを設置して地域ごとの実情にあった情報を提供する体制が整えられているかどうかが大事なところです。そのことを示さない限り東京都に対する疑念は払拭できないと思うのですが、副知事の対応はそこのところを見落としています。何度もいうように、放射線量の測定値は場所によって異なるのですから、普段は全体の傾向を把握するようにしておき、異常値が発見されたときはただちに測定地点を増やして、地域ごとにきめの細かい対策をとるという体制を整えておくことが必要なのです。(今回はそれを誤ったために政府に対する不信感が広まりました。)

6.半減期について
 放射性物質には半減期があります。放射性物質には放射線を出すことによって他の元素に変化していくという性質があり、半減期が経過するということはその半分が他の元素に替わったということを意味しています。ちなみに半減期の10倍の期間が経過すると放射性物質の量は当初の1,000分の1になります。(半減期の3倍の期間が経過するたびにおよそ10分の1になります)
 半減期がおよそ8日と短いヨウ素131の場合、1ヶ月で放射線量は10分の1になり、80日後には当初の1,000分の1になります。したがって原発事故によって放射線量が一時的に高くなりますが、放射性ヨウ素が減っていくにつれて放射線量もさがっていきます。ただし、半減期がおよそ30年のセシウム137や28,9年のストロンチウム90の影響力はそのままですので、それ以降はあまり変わらないということになります。
 しかしながら、事故発生後数十日が経過した時点では空気中の放射性物質のほとんどは地表に落下したと考えることができるので、表土をすくい取るなどして放射性物質を除去してやれば放射線による被害を免れることができます。

7.除染について
 付着した放射性物質を取り除くことを除染といいます。除染作業といっても特別なことをするわけではなく水で洗い流したり、濡れティッシュで拭き取るというだけのことです。だからといって放射性物質が消滅してしまうわけではありませんから、1カ所に集めて処分するということが必要になります。
 原子力発電所の施設内で除染された放射性物質は集められて低レベル放射性廃棄物としてドラム缶に詰められて300年間管理されることが定められていますが、施設外の放射性物質に関する処分方法の取り決めは今のところありません。だからといって学校の校庭からすくった表土を一般の廃棄物と同じように処分場に持ち込むというのは乱暴な話しであり、処分場の住民が抗議するのも当然であるといえます。そうかといって、文部科学省がいうように表土をすくい取ることは必ずしも必要ではないというのは間違いであり、本当にそう考えているのであれば文部科学省や官邸が引き取ればいいのです。
 また、郡山市の下水道処分場の汚泥から高濃度に濃縮された放射性物質が検出されたという福島県の発表がありました。雨などによって流された放射性物質が下水道に流れ込み、処分場で蓄積された結果高濃度に濃縮されたと考えられます。この汚泥も安易に処分するわけにはいきません。原発事故というのはこのように厄介な問題を引き起こすのです。
 一方、家の中を除染する場合濡れティッシュが便利ですが、燃えるゴミに出すわけにはいきません。焼却場から空気中に再度放出されるからです。家の外のあまり人が行かない場所に置いておき、自治体が回収することが決まったら出すということが必要でしょう。この段階の放射性物質が出す放射線はベータ線なので、数ミリ程度のアルミ箔で遮蔽することができます。心配な人はアルミ箔を何重かにかぶせて覆っておくとよいと思います。
 それでも人間が生活する場所のすぐ近くにこのような放射性物質がいつまでもあるというのはよくないので、政府は早く処分の取り決めをつくり、回収を行うべきだと思います。

付記
 放射性物質に汚染された表土の送り先として、武田邦彦先生は福島原発に送ればいいとおっしゃっています。「決まっています。汚染土の捨て場」

http://takedanet.com/2011/05/post_1962.html

 原発をつくるということは、そういうリスクも負うことなのだと政府にもわからせるためにはこれくらいの荒療治は必要だということだと思います。そうでなくても他人事のようにしか思っていないのですから。


8.どれくらいの放射線量ならば安全と考えられるのか
 日本人はすでに自然放射線量として年平均1ミリシーベルトの放射線を浴びています。政府や文部科学省がいう年間20ミリシーベルトという基準値は論外ですが、年間1ミリシーベルト(自然放射線と合わせると年間2ミリシーベルト)であれば、まず安全と考えてよいと思います。(自然放射線の世界の平均値は2.4ミリシーベルトです。)年間2ミリシーベルトを1時間あたりに直すと、0.228マイクロシーベルトとなります。ご自分が住む地域の空間放射線量がこの半分を超えたら要注意と考えた方がよいと思います。なぜ半分なのかというと、降下した放射性物質が体内に取り込まれる可能性があるからであり、その場合、外部被曝+体内被曝で被曝量を考えなければならないからです。実際の計算はもっと複雑になりますが、目安としてこれくらいと覚えておけばよいと思います。
 
by T_am | 2011-05-01 21:33 | その他