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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

確率になじまない問題(放射線による健康被害)

 少年漫画を読んでいると、たまに「生存確率10%」とか「戦って勝利する確率5%」という表現に出合うことがあります。これらは、それがいかに困難なことであるかを強調するための修辞法に過ぎません。確率はこのような場面で用いる道具ではないのですが、中には真に受ける人もいるようです。そのうち「この男が犯人である確率は40%」などという推理小説が登場するかもしれません。

 福島原発の事故によって放射性物質がまき散らされている問題で、今までは原発から同心円状に避難区域を定めていたのを改めて、新たに被曝線量の積算値(年間)が20ミリシーベルトに達する可能性がある場合、避難区域に含めるという考え方が示されました。これは、わずかな放射線量であっても、継続して被曝していると健康被害をもたらす可能性が高まっていくことに由来しています。政府の「ただちに健康に影響が出るものではない」という説明を事実上撤回するものと評価してよいと思います。

 年間の被曝量が100ミリシーベルトを超えると、1,000人に5人が癌になるといわれています。原子力発電所に勤務する人の基準値が100ミリシーベルト/年間であるのは、これが根拠となっているわけですが、彼らは1回の作業あたりどれだけ被曝したかが厳密に測定され、そのうえで健康診断が行われている(このことは、万一異常があってもすみやかに発見することができ、治療することができるということを意味しています)のですから、この数値を一般人の基準に用いることはできません。原発の周辺に住む人のすべてに被曝量の測定をリアルタイムで実施することはできませんし、健康診断を実施するというのも困難だからです。そこで、国際放射線防護委員会(ICRP)による勧告の下限値である年間20ミリシーベルトが採用されたのだと考えられます。

 1,000人に5人が癌になるということを確率で表せば0.5%となります(年間20ミリシーベルトを被曝する場合、癌になる確率はおよそ0.1%になります。)この数字が何を意味しているかというと、「あなたが1,000人の中に含まれている場合、癌になる確率は0.5%(もしくは0.1%)である」ということです。0.5%というとずいぶん低い数値ですから、あまり気にする必要はないのではないかと思うかもしれません。それはたしかにそのとおりなのですが、この数字には次の2つの性格があることはあまり知られていないように思います。

第一に、あなたがそのリスクを十分承知していて、自分の意思で1,000人の中に加わっているということ。
第二に、癌になるかどうかはあくまでもあなた個人の問題であって、集団の場合事情は替わってくること。

 福島原発の周辺に住む人たちは、第一の前提条件を満たしているとはいえません。リスクについて何も知らされないまま、何となくそこにいるのですから。
 二番目については、少し説明が必要でしょう。癌になる確率が0.1~0.5%というのは、個人の場合についていえることであって、組織や集団の責任者にとってこの数字はまったく違う意味を持ちます。すなわち「1,000人の児童が通う小学校であれば、そのうちの5人(あるいは1人)はまず間違いなく癌になる」ということを意味しているのです。ご自分がこの小学校の校長であったらどうしますか? あるいは、「1,000人の従業員が働く工場があって、このまま工場を稼働させていると、そのうちの5人(あるいは1人)はまず間違いなく癌になる」とわかったとき、あなたがこの工場の経営者であったなら、どうしますか?

 原子力安全委員会が、今回、避難区域に含めるかどうかの基準を年間20ミリシーベルトの被曝量を超えることが予測される場合としたのは、一歩前進と理解してよいと思います。個人として考えれば確率の低いリスクであっても、集団となれば確実に発生することがわかっているリスクなのですから、事前に手を打っておくことは当然です。
 ただし、放射線の被曝量を累積するといっても、空間放射線だけを測定していてもダメなので、その地域の土壌や水(食べ物を通じて体内に入ってくる)の測定も欠かせません。
また、空中に漂う放射性物質が体内に入ってくること(体内被曝)も計算に入れなければなりません。
 せっかく20ミリシーベルト/年間という基準が設けられるにもかかわらず、運用方法が間違っている(空間放射線量だけで決める)と何にもならないのですから注意が必要です。
by T_am | 2011-04-14 07:00 | その他