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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

理論的には制御可能、技術的には制御困難

 私は今まで、基本的に原発に賛成の立場でいました。それは、原子力発電には色々と問題はあるけれども、人間が制御することが可能だと考えていたからです。
 今回の福島原発の事故をきっかけにもう一度情報を集め整理し直したところ、標題にあるように、原子力発電という御題技術は理論通りいかないと思うようになりました。

 そのきっかけとなったのが、次のサイトです。(これはセイヤさんが教えてくれました)

「原発がどんなものか知ってほしい(全)」
http://www.iam-t.jp/HIRAI/pageall.html#page2

 この平井憲夫さんという方は、原発の技術者として働くうちに何度も被曝した結果癌を発症し、1997年1月に亡くなりました。理論を通して現実を見るのが学者であるならば、この方は理論を実現するためには相応の技術が必要だという立場で現実を見て来られた方でした。その方が原発の現実を知ってほしいと、命を削るようにして訴え続けたことがこのサイトには掲載されています。
 平井さんの発言の記録を読んで様々なことを考えさせられました。それらはいずれ順を追って書いていきますが、今回はその第1回目となります。


 福島原発には、現在のところ抱えている課題が1つ、そして問題が2つあります。
 まず、課題というのは原子炉内部に残っている核燃料が再臨界(連鎖的な核分裂の進行)に陥るのを何としても避けねばならないことです。そのために、燃料棒の温度を下げるという目的で注水を行ったり、冷却装置を動かすための電源確保にやっきとなっているわけです。
 福島第一原発の事故により、これまで明らかになっている問題点が2つあります。最初の問題点は、原子炉から漏れた放射性物質が空気中に飛散しており、周辺に広がっているということです。ここで周辺という控えめないい方をしましたが、茨城県や栃木県などの隣の県もこの「周辺」の中に含まれます。政府は20km圏内を退避勧告、30km圏内を屋内待機として指定しましたが、放射線の放出はいっこうに収まる気配がないために、退避勧告という生やさしいものではなく、立入り禁止にしなければならないのではないかともいわれるようになりました。
 問題点の2番目は、原子炉から漏れた冷却水(これは高濃度で放射能に汚染されています)が原子炉建屋以外に漏れ出していることです。このことは復旧作業を遅らせる要因となっているだけはありません。高濃度の放射性物質を含んだ水が海に流れ出していることも事実であり、海の汚染が現実のものとなっています。

 それではなぜこのような問題が起こり、それを食い止めることができないのかというと、原子炉冷却水の循環装置が動かない以上、水を注水して燃料棒の熱を奪わない限り、核燃料の温度上昇を食い止める術はありません。ところが、注水した水の一部は高温により水蒸気となって発電所の施設外に広まっていき、その際に放射性物質を空気中に拡散するという事態を引き起こしています。また、注水する水の量が増えれば、それはいつか溢れ出すのは当たり前のことであり(溢れないとすれば、その分水蒸気となって空気中に拡散することになります)、溢れ出した水は原子炉建屋以外の施設を伝わって海や敷地内に広がっていくことになります。つまり、燃料棒を冷まそうと水を注水すればそれだけ汚染物質が広まっていくことがわかっていながら、やめることができないという状態に陥っているのです。
 それを解決するには、冷却水を循環させるための装置を再稼働させる以外に方法はありません。ところが、冷却水循環システムの故障は、電源やポンプの損傷だけでなく装置の配管そのものが破損している可能性が否定できないのです。
 新聞やテレビで原子炉の冷却システムのイメージ図をご覧になった方もいらっしゃることと思います。原子炉圧力隔壁の中を1次冷却水がとおり、それが集めて来た熱は熱交換機(これは今回放射性物質を含んだ漏水が発見されたタービン建屋内にあります)を通じて2次冷却水に伝わり、最終的には海に排熱が捨てられるという構造になっています。冷却システムが正常に稼働するためには、冷却水を送り出すためのポンプとそれを動かす電源が必要です。福島原発の事故の発端は、このポンプの損傷と電源供給が途絶えたところにあります。ところが、津波発生後、損傷している箇所はどうやら電源とポンプだけはなく、冷却水を循環させる配管にも破損が起きているのではないかと推測される事実が発覚してるのです。
 原子炉内の冷却システムの配管は、新聞に掲載されているイメージ図のような単純なものではありません。もっとずっと多くの配管(その中には微細なものもあります)が複雑な形で設置されているのです。
 
 地震で被害が発生するのは、経験知として震度6を超えたときであることがわかっています。震度5程度の揺れでは、かなり揺れることは揺れますが、被害はほとんど発生しません。なぜならば、物体が持つ慣性(止まっている物体はいつまでも止まった状態のままでいようとする性質、あるいは動いている物体であればいつまでも動き続けようとする性質のこと)と地震の揺れの激しさを示す加速度との乖離が、震度6を超えると無視できなくなるほど大きくなるからです。
 
 地震が起こっても、建物と建物内部の施設や設備が完全にいっしょに揺れるのであれば、地震による被害は発生しません。しかし、物体には慣性がありますから、建物が揺れ動くのに対し、設備や備品、什器は(それに人間も)わずかに遅れて動き出します。これは、建物が逆方向に揺れるときも同様です。また同じ建物であっても、壁と天井では力の伝わり方が異なりますし、柱(鉄骨)と天井材(石膏ボード)では強度が異なるので、地震による建物被害の多くはこれらの接合部で発生します。
 建物被害の原因は、動き方のわずかなずれと材質の強度の違いによるものです。震度が小さいうちはこれらが目立つことはありませんが、震度が6を超えるとその矛盾を支えることができなくなるのです。
 原子炉施設内の複雑で細かい配管群は、よほどしっかりした取り付けられ方をしていない限り、地震が来たときに建物本体の揺れ動き方との間に時間的なずれが生じることになります。まして、これらの配管は、原子炉の運転中非常な高圧と高温に晒されているのですから、金属疲労や摩耗が進行しています。さらに、たえず振動にも晒されているので、配管を固定しているネジやアンカーもゆるんでいきますし、溶接部にも絶えず負荷がかかっています。
 余談ですが、原子炉を定期点検するのはこれらの不具合を発見して痛んだ部品を交換しなければならないためです。原子炉というと1年中半永久的に稼働していると思われがちですが、実際はそうではありません。福島第一原発でも6つある原子炉のうち、5号機と6号機が定期点検のため運転を休止していました。原子炉がちゃんと稼働するのは1年のうちおよそ半分程度であり、後の半分は定期点検に費やされるそうですから、運転効率という点では非常に効率の悪い施設であるといってよいでしょう。
 
 このように「繊細』な施設である原子炉を震度6以上の巨大地震が襲ったらどうなるのか? 設計段階で巨大地震にも耐えうる強度を確保していたとしても、建築施工の段階でそれを実現するだけの技術が伴なっていなければ絵に描いた餅となってしまいます。亡くなった平井憲夫さんが、それこそ命を削りながら指摘されていたのはそのことです。
 今回震度6強という地震が福島原発を襲い、原子炉は緊急停止しました。たとえていえば、高速道路を時速150kmで走っているときに急ブレーキを踏むのが原子炉の緊急停止です(通常は1日くらいの時間をかけてゆっくり停止させます)。冷却水の循環システムが作動しないというのは、シートベルトが壊れている(もしくはABSが壊れていてスリップするのを食い止めることができない)ようなものです。
 実際に、福島第一原発では高濃度の放射性廃棄物が原子炉の外に漏れるという事態が起こっています。今回の事故は「想定を超えた」津波に襲われたせいだということになりつつありますが、高濃度に汚染された冷却水が漏れだしたのは津波のせいではありません。震度6強の地震に原子炉の設備が耐えられなかったというだけのことです。
 さらにいえば、地震によって損傷したのは冷却系統だけではありません。中央制御室やタービン建屋の中も瓦礫が散乱していたはずでし、原子炉の内部をモニターするための各種センサーおよび計器が壊れてしまって動かないというものも多いはずです。
 東京電力の発表が歯切れが悪く、何か隠しているのではないかと勘ぐってしまうのは、当事者である東京電力が現場で何が起こっているか把握できていないからだろうと思います。隠すというよりも、そもそも何が起きているのかわからないというのが実情に近いのではないかと思います。それではセンサーが損傷したのは津波のせいなのかといえば、そうではなく、むしろ地震によって壊れたと考えるべきでしょう。

 ここで気になるのは、震度6強の地震で壊れる原発は福島原発だけなのかという疑問です。2007年に新潟県を襲った中越沖地震では柏崎原発の運転中の原子炉すべてが緊急停止し、さらに変圧器で火災が発生したほか、放射線が漏れるという事故が起こりました。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%8F%E5%B4%8E%E5%88%88%E7%BE%BD%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80#.E6.96.B0.E6.BD.9F.E7.9C.8C.E4.B8.AD.E8.B6.8A.E6.B2.96.E5.9C.B0.E9.9C.87.E3.81.AE.E5.BD.B1.E9.9F.BF

 今まで、原発は絶対安全だと説明されてきたのは、万一事故が起こっても「原子炉を止める」、「核燃料を冷やす」、「放射線を閉じ込める」というシステムが完璧に作動すると思われていたからです。
 今回の事故によって、「原子炉を止める」ということに成功しましたが、「核燃料を冷やす」ということと「放射線を閉じ込める」ということに失敗したことが明らかになりました。これに対するメディアの論調は、予見が甘かったというものになりつつあるようですが。それは違います。もともと震度6程度の阪神大震災以来割と頻繁に発生している地震で壊れるような設備でしかなかったという点を見逃すわけにはいかないのです。
 福島第一原発はおよそ40年前に建設された「古い」原子力発電所です。設計も古ければ、建築施工技術も古いことが想像されます。メディアの論調は、施設が古いことが今回の事故の要因であるとなっており、それによって他の原発は比較的新しいのだから大丈夫ではないか、と思い込んでしまいそうになります。しかし、世界最大の原発である柏崎原子力発電所の1号機の着工は1978年であり、およそ33年前のことです。他の原子力発電所はどうかというと、次のとおりとなります。(施設内で最初に運転を開始した原子炉の運転開始年数または着工年数)

・泊原子力発電所    運転開始1989年
・東通原子力発電所   運転開始2005年(1998年着工)
・女川原子力発電所  運転開始1984年
・福島第一原発     運転開始1971年(1967年着工)
・福島第二原発     運転開始1982年(1975年着工)
・志賀原子力発電所   運転開始1993年(1988年着工)
・敦賀原子力発電所   運転開始1970年(1966年着工)
・大飯原子力発電所   運転開始1979年
・高浜原子力発電所   運転開始1974年
・浜岡原子力発電所   運転開始1976年(1号機は2002年に運転停止)
・美浜発電所      運転開始1970年
・島根原子力発電所   運転開始1974年
・伊方原子力発電所   運転開始1977年
・玄海原子力発電所   運転開始1975年
・川内原子力発電所   運転開始1984年
・東海第二発電所    運転開始1978年
・東海原発       運転開始1966年(運転終了1998年)

 このほかに現在建設中の大間原子力発電所(2008年着工)がありますが、大部分の原子力発電所が1970年代までに着工されたものであることがわかります。また、既に運転を停止している浜岡原発1号機・2号機および島海原子力発電所をみるとその寿命は30年前後であることがわかります。

浜岡原発1号機  運転開始1976年3月、運転停止2002年4月
浜岡原発2号機  運転開始1978年11月、運転停止2004年2月
東海原発     運転開始1966年、運転停止1998年

 なぜ運転を停止したかといえば、それ以上使うことができなくなっていることがわかったからです。既に廃止が決まった(廃炉のための処理はまだ完了していません)これらの原発の寿命が30年前後であることを考えると、福島第一原発というのはよほど保守管理がよいのかもしれません。およそ40年間動いてきたのですから。

 こうしてみると日本の原子力発電所の大部分は運転を開始してから30年以上経過していることがわかります。そうすると、今回福島第一原発で起きたような重大事故がこれらの施設でも起こる可能性を否定することは誰にもできないといえるのではないでしょうか?
 千年に一度と思われていた地震と津波が今回起こったわけです。他の地域でも、同じように千年に一度の地震が起こるかどうかはわかりませんが、そんなものはまず起こらないと誰もが考えていたからこそ今回の重大事故につながったのではないでしょうか?
by T_am | 2011-04-01 06:50 | その他