災害支援協定に関する提案
今回のように複数の県にまたがって大きな被害が起きた地震では、そこに隣接する県にも流通面で大きな影響を及ぼすということがわかりました。その最大の理由は各地の精油所が被害に遭って生産が一時的にストップしたことによると思います。
そのため、地震の翌日には、ガソリンの供給がされなくなったスタンドもありました。売り切れのため閉店したガソリンスタンドがある一方で、ガソリンが入って来たスタンドには給油を求める車が長蛇の列をつくり、交通渋滞の原因となっていました。これは山形県や秋田県での事例ですが、関東でも同じような光景がみられています。
直接の被害があったわけではないこれらの地域でもこのような状況になったのですから、福島県・宮城県・岩手県ではもっと悲惨な状況に陥りました。住民はもとより復旧支援物資を運搬するはずの車両の経由が入手できず、道路の寸断もあって避難所に物資を満足に届けることができないという事例はテレビでさんざん紹介されています。
被害がここまで拡大すると従来の災害支援協定の枠組みには限界があり、どうにも対応ができなくなるという局面が生じてしまいます。それというのも、今の災害支援協定の枠組みは官民や官官という一対一の関係だからです。
たとえば、ある企業が宮城県の気仙沼市と災害支援協定を結んでいて、そこに物資を輸送しようとしても、その企業の地元でも軽油の入手が困難になれば、運びたくても運べないということになります。
また、高速道路の通行できる区間は緊急支援車両専用となるので、許可証を持たないトラックは通行することができません。許可証を発行してもらうにも時間がかかるのですから、全体でみると大きな時間のロスが発生していることになります。
今後も都道府県の境界を越えた大規模な災害が発生する可能性は誰にも否定できません。今回の地震の教訓として、災害支援協定を広域連合協定にアップスケールしていくことが必要ではないかと考えます。
広域連合協定というのは、主に受け皿となる自治体間の結びつきを組織化するというものです。
それには二種類あって、一つは各自治体が個別に遠隔地にある自治体と支援協定を締結するというものです。これは既に実施されているところもあり、災害が発生すると、協定を結んでいる自治体が被災した自治体に支援物資を送ったり、避難者を疎開させるという仕組みを普段からつくっておくものです。
避難所の生活は食糧や医療が十分でなく、しかもトイレや風呂にも不自由するというものですから、避難者のストレスは相当なものとなります(プライバシーもありませんし)。各地の温泉旅館などの施設で避難者の受け入れを行ったところ、個室があるのが嬉しいと喜ばれているそうですから、十分なケアをするためには遠隔地の自治体と協定を結び、いざというときの受け皿となってもらうという仕組みが普段から整えられておいた方がいいのです。
その際のポイントは、一時的な避難なのかそれとも疎開なのかを被災者が選択できるような柔軟性を持たせておくことになるでしょう。疎開ということになれば、疎開値での就業や教育にも配慮がされなければなりません。そうなると自治体間の一対一の協定では受け入れ能力に限界がありますから、複数の自治体が協定を結んでおくほうが実現性は高くなると思います。
二番目の取り組みは、その地域の自治体の連合と他の地域の自治体の連合が支援協定を結んでおくというものです。
今回の地震によってガソリンや軽油の不足が問題となりました。それは被災地だけはなく隣接する県においてもみられた現象です。食糧と燃料、および医薬品は被災者の支援と復旧のために不可欠の資材ですから、これらを円滑に行き渡らせる仕組みをつくっておくというのが、その目的となります。
たとえば、広域災害が発生したら、そこに隣接する自治体連合は支援協定を締結している企業に対し物資の供給を要請します。その中には、石油の元売りも含まれ、広域災害が発生したらガソリンや軽油、灯油といった石油製品の生産量のたとえば1割を優先的に提供してもらうという協定を結んでおくのです。同時に自衛隊や電力会社・電話会社とも連携して、寸断された道路や通信網・電気の供給ルートの復旧訓練(被災箇所の通報と復旧作業の実施)を普段から実施しておくことも、いざというときに大きな効果を発揮するはずです。
避難訓練だけが災害対策ではありません。3月11日を防災訓練の日ということにして、この日は全国各地でこれら一連の訓練を実施する日というふうに定めることも必要でしょう。そうすれば、今回の災害によって命を失った人の供養にもなると思います。自然災害の発生を防ぐことはできませんが、その被害者を減らすことは普段の努力と知恵を集めることによって可能になるからです。
提携先の企業から物資の提供を受けた広域自治体連合は、被災地が属する広域自治体連合の対策本部の指示に基づいて、その物資を輸送します。そのための輸送車両を提供してもらうという協定も必要でしょうし、それらの車両が高速道路をただちに通行できるように警察に届け出をしておく(通行許可証を発行してもらうため)ということも必要でしょう。
被災地側の広域自治体連合対策本部では、各県の対策本部からの情報に基づいて物資の輸送割り当てを行います。現在は、全国から届けられる救援物資の仕分けは被災地の自治体職員とボランティアが行っていますが、仕分け機能を被災地からはずし、広域自治体連合本部(ここは被災していません)で行うようにすれば、仕分けに必要な人員と場所の確保がしやすくなるというメリットがあり、被災地の自治体職員の負担をそれだけ軽減することができ、その分被災者のケアに専念してもらうことも可能になります。
現在の地方行政のありかたでは、このような大規模な災害が起こったら、何から何まで自治体の職員が対応しなければならないというところに問題点があります。自衛隊などの支援も行われますが、それらはあくまでも現場での作業に限られます。自治体の職員には、どこで何がどれだけ必要かという方法を集め、次に何をしなければならないかという行動を起こすことがことが求められています。しかもそれらの作業をほとんど不眠不休で行わなければならないのですから、どうしても無理がありますし、十分な成果を期待するのも難しいと思います。
大きな仕事に取り組まなければならないときは、少数の人が何から何までやるという体制よりも大勢の人があらかじめ決められた役割分担に基づいて作業を行った方が効率がよくなります。広域自治体連合という考え方は、今まで被災地の自治体が全部やっていたことの一部を分担することによって地元の負担を軽減するという側面もあるのです。
このような取り組みが成功するかどうかは、いざというときに情報網と物量網をどれだけ確保できるかにかかっています。大規模災害が起これば当然これらのインフラは破壊されるのですから、いかに早く復旧させるかが鍵を握ることになります。そのためには、警察・消防・自衛隊・電力会社・電話会社などとの連携が普段から整えられている必要があります。中には法律の改正が必要な場合もあるかもしれません。そのためには、今回被災地となった県出身の国会議員の尽力が不可欠です。自分の選挙区の復興も大事ですが、自分の選挙区の住民がなぜこれほどの苦しみを経験させられたのかを考えれば、自分が何に取り組まなければならないかが明らかになると思います。
広域自治体連合と政府との関わりについては、私自身まだ整理がついていないのでここでは触れないでおきます。しかし、福島原発に派遣された東京都の消防隊員に政府高官が圧力をかけたという事件が報道されたのを聞いて、政府の介入は限定的にしなければならならないと思いました。
阪神大震災以降も日本は幾多の災害に見舞われ復興を遂げてきました。そこでは、どの時点で何が必要とされたかについて、当該自治体に記録が残されているはずです。それらを吸い上げて整理したうえで、災害対策マニュアルを策定するのは政府が行った方がm各自治体が個別に実施するよりもスムーズにいくはずです。
このように考えると、政府や政治家の役割というのは、いざというときの実行部隊となる地方自治体が仕事をやりやすくなるような環境を整えることが主眼になるといえます。現場に派遣された消防隊員を脅すなど、現場に口出しすることはかえって被災者の支援の妨げとなります。スタンドプレーはやめて黒子に徹する。こういう覚悟をもっていただきたいものです。
以上、今回の地震で被災した地域を見てきた者として、思ったことをまとめてみました。まだ十分に整理できていないので、おかしなところもあるかもしれません。しかし、これほど大きな災害だからこそ、この教訓を次に活かすという取り組みが必要であると思うので、今回はこのような提案を申し上げることにしました。