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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

放射線による健康被害をどのように予測するか

 福島原発の事故において、当初観測された放射線の値が発表されていましたが、いつの間にかそれが発表されなくなってしまいました。しかし、20kmの避難地域の指定は解除されていません。何がどうなっているのか、さっぱりわからないという状態に陥っており、そのことが東京は危ないから西日本に移動しようという動きを招いている原因になっているように思います。
 私は専門家ではありません。しかし、放射線による危険性をどのように理解したらいいのか専門家が解説してくれないので、自分なりに考えをまとめることにしました。ですから、以下にまとめることは素人考えと批判されてもしかたないのであり、間違っているところがありましたら指摘していただけると助かります。

1.人間の体には自己修復機能が備わっています(許容限界)
 高校の生物の授業でDNAの二重らせん構造を目にしたことがあると思います。なぜこうなっているかというと、いざというときのためのバックアップを可能にするためです。つまり、放射線などにより片方の一部が損傷しても、もう片方によって自動的に修復されるようになっているのです。
 放射線を大量に被曝して染色体(DNAの容器)が破壊されてしまえばダメですが、そうでない限り、放射線を浴びても時間の経過とともに修復されるという機能が人間の体には備わっているので、放射線による健康被害を考えるときに「許容限界」という点を考慮する必要があります。
 テレビで大学教授などが胃のレントゲン検査では600マイクロシーベルトの放射線を浴びているからこれくらいの放射線が測定されたからといって健康に影響が出ることはないといういい方をしています。これも、もう少し正確にいうと一度に600マイクロシーベルトという放射線を浴びても人間の自己修復機能の許容範囲内であり、放射線を浴びることによってたしかにダメージは受けるものの時間の経過とともに損傷した箇所が修復されていくということになります。だから一度に数十枚もレントゲン写真を撮るということはしませんし、毎日レントゲンを撮り続けるということもしていません。そんなことをすれば修復機能の限界をたちまち超えてしまうからです。
 人間は人によって体力が異なれば体質も異なるので、自分の体の修復機能の限界を数値で示すことはできません。そこで、大まかですが「目安」を設けて、それを超えなければいいと考えた方が現実的となります。

2.既に知られている「目安」をどのように理解するか
 Wikipediaで「シーベルト」を検索してみると、どれくらいの放射線を一度に受けると健康被害が発生するかが載っています。それによると(単位はミリシーベルト、またカッコ内は筆者)、

・250mSv             白血球減少(免疫機能の低下、造血幹細胞にダメージ)
・500 mSv             リンパ球減少(同上)
・1000 mSv             急性放射線障害の発症
・2000 mSv             出血・脱毛、致死率5%
・3000~5000 mSv        致死率50% 
・7000 mSv以上          致死率99%以上(東海村の臨界事故の犠牲者が浴びたと推定される放射線の量です)

 これは健康被害ではありませんが、次の基準も定められています。
・100mSv            放射線業務従事者が法定の5年間にさらされてよい放射線の限度(単純平均すると1年間で25mSvとなります)

 Wikipediaで紹介されている目安は一度に浴びる放射線の量ですから、一般市民がこれに該当するということはまず考えられません(核爆発でも起これば別ですが)。むしろ、今考えなければならないのは、一度に浴びる放射線の量ではなく、1時間あたりの放射線量は少ないけれども、それを継続して浴びた場合どうなるかということです。この疑問に政府は答えてくれていませんし、マスコミも質問してはいません。また、テレビ登場する学者たちも1回の被曝量と比較して、それよりもはるかに少ないのだから何も問題はないなどと見当違いの発言をしています。
 放射線による健康被害を考える場合、継続して放射線を浴びた場合どれくらいで人体に影響が現れるかということを抜きにして考えるわけにはいきません。しかしながら、そのような記録はないというのが実情です。というのは誰も測定した人がいないからです。
 チェルノブイリの事故によって大勢の被害者が発生しました。しかし、彼らがどれくらいの量の被曝をしたか(被曝した総量と1時間あたりの被曝量)は、推定でしかわからないのです。

付記
 このような目安が書かれたものは何種類もありますが、各目安に時間が書いていないものは一度に浴びるこれだけの放射線を浴びるとこうなりますという意味です。これらの目安は、1回あたりの被曝量と年間の被曝量をいっしょに記載しているので、結局何が何だかわからないというものになっているのです。次にご紹介するのはその一例です。

(「日常生活と放射線」p3 文部科学省作成)


 また、文部科学省作成の資料には次のような記載があります。

・100mSv/年       放射線業務従事者及び防災に係る警察・消防業務従事者に認められている上限(これは1年間の累計ですから、たとえば毎時50mSvの放射線が観測されている地点では、2時間を超えて作業することはできないということ意味しています。)


3.累計被曝量をどのように考えるか
 一般市民の場合、核爆発でも起こらない限り、一度に大量の放射線を浴びるというのはまず考えられないのですから、1時間あたりの放射線量はわずかでもそれが累積されていった場合どうなるかということを考えなければなりません。
 既に申しあげたように、急性放射線障害の発症事例では一度に浴びた放射線の量が問題とされており、少しずつじわじわと放射線を浴びた場合、これ以上の放射線を浴びたら健康障害が起こるという記録はありません。
 そこで、先ほどの100mSv/年という基準と25mSv/年(5年間の単純平均)を元に考えることにします。ただし、これらの数値は放射線業務従事者に対するものですから一般市民の場合はこれよりも厳しく考える必要があると思います。特に乳幼児と妊婦の場合はもと厳しく考える必要があります。

 25mSv/年を1時間あたりに換算すると、2.8539マイクロシーベルト/hとなります。この数値が何を意味するかというと、その地域に住めるかどうかは、測定される放射線の量がこれを超えるかどうかによって左右されるということです。ただし、これは警察官や消防士のように健康で体力旺盛な成人男子を想定した数値ですから、乳幼児は妊婦に対して適用できるものではありません。
 地球上で比較的放射線の多いところとしてブラジルのガラバリというところが引き合いに出されています。ここでの放射線量は10mSV/年ですが、健康被害の報告はありません。そこで、10mSv/年を1時間に換算すると1,1416マイクロシーベルト/hとなります。つまり、これくらいであれば人間は何とか暮らしていくことができると考えて差し支えないと思います。
 逆に言えば、これを超える数値がいつまでも観測されるようであれば、その地域に住み続けることは危険であると考えてもやむを得ないということになります。
 先ほどご紹介した文部科学省作成の資料には、福島と宮城を除く県庁所在地で観測された放射線の量が掲載されています。これをみると最も観測値が高い水戸市でも3/20時点では0.176マイクロシーベルト/hが観測されていることがわかります。次に高い宇都宮を除けば、全国ではこの4分の1程度の数値しかありませんから、今のところ安心していられると考えて差し支えないと思います。
 なお、これらの観測値は3/20時点のものであり、今後状況の変化によっては危険レベルになることもあるかもしれませんし、そうならないかもしれません。また、観測データが公表されているのは各県の県庁所在だけです。けれども、福島原発の事故の影響が懸念される関東地域ではもっと観測地点を増やすべきだと思います。たとえば栃木県でも福島県に近い地域と千葉県・埼玉県に近い地域とでは、放射性物質の到来のしかたが異なるわけですから、もっときめの細かい観測網を構築してもよいはずです。

4.時間という要素を考慮する
 仮に、あなたがお住まいの地域で1.1416マイクロシーベルト/hを超える放射線量が観測されたとします。だからといって直ちに避難しなければならないというわけではありません。
 というのは、観測値というのは絶えず変化しているものなので、たまたま超えたからといってそれが永久に続くというわけではありません。むしろ、継続して観測値を見守り、それが上昇傾向にあるのか、それとも一時的なものなのかなどのトレンドを見極める必要があります。
 また、仮に上昇傾向にあったとしても、すぐに避難しなければ命に関わるというものでもありません。皆が一斉に避難を始めたら新幹線を始めとする輸送機関は大混乱するはずです。そのような混乱は道路にも及びますから、物流も大きな影響をうけることになり、商品の流れが滞るようになることも予想されます。そうなると、その地域に残るという人たちが迷惑することになるので、避難するにしても冷静かつ計画的に避難するべきです。(たとえば、新幹線で避難者専用列車を1時間に数本という割合で設けるということをすれば、それだけ混乱を回避することができます。)
 計画的避難に1ヶ月を要したとしても、その間に浴びる放射線の総量は約833マイクロシーベルト/月を超える程度ですから、問題になりません。

5.政府とマスコミに期待したいこと
 今どういう状況にあるのかを伝えてほしいと思います。福島原発では放水作業が始まっていますが、保安院が提供する情報をみてもそれ以上のことは書かれていません。知りたいことは、原子炉格納容器の中がどのような状態なのか、および原子炉周辺の放射線量がどれだけ観測されているかということです。格納容器の中がどうなっているのかわからないならわからないでもいいので、わかっているデータから推測できることだけでも発表すべきです。できれば、その状況によっては新たにこのようなリスクの発生が予想され、それに対してはこのような対応策が考えられるというところまで説明してほしいと思います。また、原発周辺の放射線の観測値の変化もきちんと発表してほしいと思います。事故発生からしばらくの間は散発的に発表されていましたが、いつの間にかなくなってしまいました。仮に、測定すること自体が危険であるというのならそれも発表すべきです。また、原子炉から放射性物質が漏れていることは確実なので、どのような放射性物質が大気中に放出されたのか、浮遊塵を採取して分析した結果も公表してほしいと思います。

付記
 3/20 文部科学省は1都8県で空気中から放射絵聖物質が検出されたと発表しました。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110320-OYT1T00544.htm


 また、その日の風向きによっては、原子炉から漏れ出した放射性物質がどのように流されていくのかというコンピュータ・シミュレーションの結果も公表してほしいと思います。もちろん、何の対策も講じないままシミュレーションの結果だけを公表すれば大混乱するのは目に見えています。だからといってシミュレーションをしなくていいというのでは危機管理能力が疑われます。どのような危機が起こるかあらかじめ想定するから、ではどのような対策を講じなければならないかという発想につながるのです。
 最後にお願いしたいことは、関東の観測地点を大幅に増やしてほしいということです。風向きと場所によって放射性物質が飛来する状況はまるで異なるのですから、国民がそれを知るためにも観測地点網をきめ細かく設けることは必要です。

 菅総理も枝野官房長官も記者会見の時にまっさらの作業服を着ています。別に現場へ行くわけでもないのになんで作業服を着ているのだろうと不思議でなりません。善意に解釈すれば、必要なときはいつでも現場に飛び出していけるように作業服を着ているのだと理解することもできるのですが、国民に対して必要にして充分な情報の公開ができない人が現場に行ってもかえって迷惑をかけるだと思います。
 関東で起きているガソリンや食料品の買いだめは、軽率に行動する人の責任が大きいのですが、情報をきちんと公表しない政府と不安を煽るだけのマスコミにも責任があります(冷静に行動してくださいと呼びかけるだけで事態が沈静化したという事例は過去にありません)。大切なのは、どのような対策をとったかということであり、今までの状況を見る限り甚だ心許ないと申し上げざるを得ないのです。

 政府が便りにならない(あるいは信用できない)のであれば、自分の身は自分で守らなければなりません(そのためには他人はどうなってもいいという意味ではありません)。そのための判断材料が乏しい中で、どのように考えたらいいのかということを今回は整理してみました。誤りがありましたらご指摘いただけると幸いです。
by T_am | 2011-03-20 22:22 | その他