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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

有害無益な報道

 新潟県では福島原発の事故を受けて県内の6つの地点で放射線測定のモニタリングポストを臨時に設置し、柏崎原発周辺にある2つの既存モニタリングポストのデータと合わせてプレス発表しています。

http://www.pref.niigata.lg.jp/genshiryoku/1299874309481.html

 観測値の発表は1時間おき(観測の30分後)に行われており、そのうち午前0時の測定値が翌朝の新潟日報の朝刊に掲載されるようになりました。
 これを見た主婦たちは口々に「怖くて布団や洗濯物を外に干せない。」ということをいっています。そりゃそうでしょう。健康に害はありませんとどれだけ説明されても、今まで意識していなかったものを突然目に見える形で見せつけられたのですから。たとえていえば、自分の皮膚に生息している細菌を顕微鏡で拡大して見せつけられるようなものです
 このように、主婦たちの反応は理屈ではなく感情によるものですから、新潟日報も何もわざわざ社会不安を煽るようなことをしなくてもいいのに、と思ってしまいます。まだ確認したわけではありませんが、スーパーの店頭から室内物干しが消えるかもしれませんね。そうなると、これはガソリンや食料品の買い占めと同じことになってしまいます。もっとも、いっとき除菌グッズが売れまくったけれどもその後下火になったように、いずれ薄れていくはずですなのですが・・・。それにしても県も新聞も発表するなら、もう少しやり方を考えたらどうかと思います。

 そもそもこういう刻々と変化するものを伝えるのに新聞という媒体は適切ではありません。午前0時の測定値(発表は0時30分ですから、朝刊に載せるために新聞社が相当苦労しているだろうということは推測できます)を朝の6時頃に知らされてもねえ。新聞が伝えるのは毎日午前0時の測定値ですから、たとえば、午前1時に突然危険値が観測されたとすると、新聞がそれを伝えられるのはまる1日経ってからということになるのです。
 だからこの発表は健康診断のγ-GTPのようなものだと思えばよいのです。つまり、測定した時点では異常は発見されなかった、という意味に過ぎません。そのことを6時間後に知らされても、あまり意味があるとは思えません。それよりも、万一危険値が測定された場合、どういう行動をしたらいいかも含めて直ちに住民に周知させることの体制づくりを進めてくれた方が社会にとっては有益でしょう。もっとも、新潟県が1時間おきの測定値をプレス発表し、新聞がそのうち午前0時の測定値を翌朝の紙面に載せるという悠長なやりかたは、「どーせ危険値なんか出るわけがないんだから、とりあえずこういうことをやっておけばいいんだ。」という官とマスコミの「暗黙の合意」があるのかもしれません(徹夜でデータの集計と発表資料の作成をしている防災担当者には申し訳ないのですが)。
 
 わたしたちは常にごく微量の放射線を浴びています。わずかですが宇宙から放射線が降り注いでいますし、自然界にも放射性同位元素がわずかですが存在しています。炭素14という放射性同位元素は、大気上層で宇宙線によって生成され大気中に拡散していきます。それが二酸化炭素とという形で植物によって取り込まれ、その植物を動物が食べることによって、動物の体内にも炭素14は取り込まれていきます。
 炭素14の割合は普通の炭素のおよそ1兆分の1程度ですから、私たちが意識していないだけで、どこにでも存在しているといえます。どこにでも存在しているということは、時間とともに変化するということはあまりないということでもあります(ただし、雨や雪が降ると大気中の放射性同位元素が降下してくるので、放射線の測定値は一時的に10倍くらいになります)。ですから、モニタリングデータの値が突然跳ね上がったという場合は、もともと自然界に存在していた以外の放射性同位元素がそこに現れたという証になります。突然現れた放射性同位元素といえば、核爆発か原子炉で生成されたものに決まっていますから、これは警戒を要するということになります。逆にいえば、そういうことが起こらない限り気にする必要はないといえるのです。
 県も新聞もそういうことをきちんと説明したうえでデータの発表をすればいいのに、そういうことにまで気は回らないようです。これでは社会不安を煽るだけですし、真面目に徹夜してデータの集計をしている職員の苦労も報われません。
 現場の努力を無駄にするのは安全なところにいて、ああでもないこうでもないといっている人たちであることは、今回の福島原発の事故をめぐる政府と東京電力の対応をみていてよくわかりました。それと同じことが新潟県でも起きているわけです。事実の発表のしかたについて、この機会に整理しておいた方がいいように思います。


付記
 原子力資料情報室(CNC)   によれば、原子炉で生成される放射性同位元素の主なものにヨウ素131(半減期8.4日)、ヨウ素133(半減期20,8時間)、セシウム134(半減期2.06年、核爆発では生成されず原子炉内で生成される)、セシシウム137(半減期30.1年)があります。ヨウ素に比べセシウムの方が半減期がはるかに長いため、人体に与える影響もそれだけ長期間にわたるといえます。厚労省が決めた食品の暫定基準値で、セシウムの方が厳しいのはそのためかと思われます。
 なお、ベクレルという単位は、1秒間に1個の原子核が崩壊するときを1ベクレルとしており、この値が大きくなればそれだけ多くの原子核が崩壊していることになるので、発生する放射線の量もそれだけ大きくなることを意味します。

(参考)厚労省が決めた暫定基準
ヨウ素の場合
飲料水や牛乳、乳製品     300ベクレル(1kgあたり)
乳児用調製粉乳        100ベクレル(同上)
根菜や芋類を除く野菜類    2000ベクレル(同上)

セシウムの場合
牛乳など           200ベクレル(同上)
野菜類や穀類、肉、卵、魚など 500ベクレル(同上)

※原子力安全委員会が定めた「安全審査指針類における放射線防護の関連既定-基礎調査」p68に基づいています。

※原子力資料情報室によれば、ヨウ素の場合で10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は220マイクロシーベルト、セシウムの場合で10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は190マイクロシーベルトとのことです。野菜を1kg食べる人はそう多くはないでしょうが、飲料水や牛乳などであれば1kgの摂取というのはありそうです。これらの比較的大量に摂取しやすい食品における暫定基準を被曝線量に直すと次のとおりとなります。

ヨウ素   0.0000733マイクロシーベルト
セシウム  0.000038マイクロシーベルト

 実際にはこの数値に半減期の時間数(セシウムの場合は半減期が長い。しかし体外に排出されるまでのおよその日数が100日以上なので、それまでの時間数)をかけると、通常観測される放射線測定値とそれほど変わらないという結果になります。
by T_am | 2011-03-20 08:53 | その他