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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

ため息が出るような・・・・・・

 セイヤさんが怒ってメールを送ってきました。何に怒っているかというと、独立行政法人放射線医学総合研究所による呼びかけに怒っているのです。昨日(3月15日)のニュースで扱っていましたから、ご覧になった方も多いことと思いますが、念のため要約しておきます。

(放射線医学総合研究所が発表した文書)
http://www.nirs.go.jp/data/youso-2.pdf


1)インターネットなどで、福島原発の事故をめぐって、ヨウ素を含んだ一般市販薬のうがい薬を飲むとよいなどとする誤った情報が出回っている。
2)これに対し、独立行政法人放射線医学総合研究所では「有害で効果がない」ので「安定ヨウ素剤の代わりに飲む」のは絶対にやめてほしい。
3)市販のうがい薬は内服薬(飲むための薬)ではないうえに、ヨウ素以外の成分が多く含まれており、体に有害な作用を及ぼす可能性のある物質も含まれている。
4)たとえ飲んだとしてもヨウ素の含有量が少なく、放射性ヨウ素が集まるのを抑制する効果はない。
5)ワカメ等の海藻にもヨウ素が含まれるが、充分な効果がない。
6)その理由は、安定ヨウ素が一定でないこと、および消化しなければ吸収されないために時間がかかる。

 結局、原発事故や核攻撃を受けるなどの緊急時に国民に対して配布することになっている安定ヨウ素剤に比べると、それ以外のものは効果があるかどうか疑わしいうえに、かえって有害である可能性もあるといいたいわけです。

 では、セイヤさんが何を怒っているのかというと、ヨウ素剤配布について何の説明もしないまま、こういう文書だけをつくって公表する根性が嫌いだというのです。
 以下はセイヤさんのメールの引用です。

効果ないから、うがい薬を飲むな。昆布は無駄だ。という役人文章。
(中略)
ヨウ素剤配賦について説明しないまま、こういう文章だけは作って公表する役人。い
やだねぇ。
この根性が大嫌いだ。


 私もまったく同感です。

 そもそもインターネットで、うがい薬を飲むとよいという情報が飛び交うというのは、福島原発の事故が今後どのようになっていくのだろうと不安があり、今までの政府の対応をみていると心配でしょうがないという心理が働いているからです。危機を迎えたときこそ充分な情報の開示をしなければならないのに、知りたい情報がいっこうに伝えられないもどかしさがこのような動きになって現れるのです。
 うがい薬を大量に飲んで具合が悪くなった人が続出すると、政府は何をしていたのだと責められることになりますから、おそらく厚生労働省のエライ人が放射線医学総合研究所を使って注意を呼びかけることにしたのだと思われます。こうしておけば、本当にうがい薬を飲んで具合が悪くなった人が出たとしても、私どもはちゃんと注意を呼びかけていましたから責任はございません、ということができるわけです。
 自分の責任を全うすることよりも、自分が責任をとらなくてもいいようにするにはどうしたらいいかを優先して考える。そういう人がこの文書(原文はPDFファイルを参照してください)を書かせたのでしょう。セイヤさんはそのことを怒っているのです。
 そして、実際にこの文書をつくった人は、緊急時には安定ヨウ素剤を服用するのが一番と堅く信じているのでしょうね。悠長に昆布なんか食べたって間に合わないよ、と思っていることがよくわかります。たしかにその指摘は事実の一端を突いていると思います。しかし、専門家でもないごく普通の人たちの思いは、放射線は避けられないものであり、万一被曝したときにはどうすれば被害を最小限に抑えることができるのか知りたいということなのです。
 その疑問と放射線は避けられないという誤解に対し、この文書はまったく答えていません。この文書の作成・公表に関わった人たちに想像力(他人の気持ちや他人の痛みを察することのできる能力のこと)が欠落していることの証左であるといってよいでしょう。こういう人たちが医薬行政を牛耳っている限り薬害はこれからも起こるでしょうし、裁判で被告席に座ったとしても自分の責任は絶対に認めないのだろうなと考えてしまいます。
 市販のうがい薬を飲むなというならば、原子炉が爆発して放射性物質がまき散らされて危険な状態になったときに、どのような対策をとることが決められているのかをきちんと説明すべきでしょう。そういうことは何もいわないで、避難地域を徐々に広げていったあげく、今日は新たに、20km以上30kmまでの範囲に住んでいる人は外出せずに家の中にとどまってほしいとよびかけています。これを聞けば誰だって、危険性は高まる一方ではないかと不安に思うのは当たり前です。

 原子炉の燃料であるウランが核分裂することによってヨウ素131という放射性同位元素が生成されます。この物質の半減期(放射線を出しながら崩壊を続けることによって量が半分になるまでに要する時間のこと)は8.1日となっています。放射性同位元素としては寿命が短い方かもしれません。
 ヨウ素は甲状腺ホルモンをつくるのに必須の元素ですから、人間が吸収したヨウ素は喉のところにある甲状腺に集められます。このときに放射線を出すヨウ素131が甲状腺に集まると甲状腺ガンの原因になります。それを防ぐためには、放射線を出さない普通のヨウ素を甲状腺に集めておけばいいという発想で安定ヨウ素剤という薬剤が用いられるのです。
 放射線医学総合研究所が文書を発表したのと同じ3月15日に、福島県の三春町が町民に対し安定ヨウ素剤の配布を伝える文書を発表しました。これを読むと、安定ヨウ素剤がどのような時に配られるのか、どのようなタイミングで服用すればいいのかがわかります。

(三春町が発表した文書)
http://www.town.miharu.fukushima.jp/06etc/06saigai/pdf/yousozai_oshirase.pdf

 この二つの文書を比較すると、上から目線で物事を発想する国と住民に近い立場で物事を発想する地方自治体の違いがよくわかります。興味のある方はぜひ比較してみてください。
 
 放射線の被曝を防ぐには、汚染源からできるだけ離れること(被曝量は距離の二乗に反比例します。すなわち、汚染源からの距離が2倍になれば被曝量は4分の1になります)。および、建物などの遮蔽物の中に入ることです。屋外にいるのは危険です。特に雨に濡れるのは、雨といっしょに落ちてくる放射性物質を浴びることになるので絶対に避けなければなりません。
 また、遮蔽という点では皮膚を露出しない服装をすることも有効です。また、放射性物質は微粒子となって拡散するので、吸い込んだり飲み込んだりしないようにマスクを着用することも重要です。いったん身体の中に入った放射性物質は体の外に排出されるまで体内で放射線を出し続けるからです。
 さらに現実的な予防策としては、政府による避難勧告が出された時点で海藻などのヨウ素を多く含む食品を食べ始めることも検討に値すると考えられます。そうしておけば、ヨウ素が消化吸収されるまでに時間がかかったとしても、ヨウ素131が来たときには危険性のない普通のヨウ素が甲状腺に集まっているわけですから、それ以上取り込まれるおそれは低くなります。(こういうことを書くと、海藻の買いだめが起こるかもしれませんが、私がブログに書いたくらいで消費者がいっせいに買いだめに走るとは思えないので、まあよしとしましょう。)
 そういうことも考えていくと、放射線医学総合研究所の文書がいかに現実をみていないで書かれたものであるかがおわかりいただけると思います。そういうことだから、いざ事故が起こったときに「想定外でした」と涼しい顔をしていられるのです。
 最近、「想定外」という言葉を平気で口にする輩は、自分が洞察力の欠落した無能な人間であることを世間に向かって告白しているようなものだと思うようになりました。また、そういう厚かましい人間に限って出世していくのも随所にみられることです。まさに、ため息が出る思いを禁じ得ません。
  
付記
 緊急時の対策について説明しようとしないのは、それをすると原子力発電は絶対安全だといってきたこととの矛盾を露呈するからです。安全だといっておきながら、そのような対策マニュアルが用意されているというのは、実は安全ではないからだろうといわれるのが嫌だからです。
 しかし、ちょっと冷静に考えればこの世の中に絶対安全ということなどあり得ないことがわかります。たとえほんのわずかでも危険性があるのならば、そしてそれがもたらす影響が大きいのであれば、そのわずかな可能性に対する対策を講じておくのは決して無駄なことではありません。にもかかわず、それをしようとしないのは当事者の責任放棄です。また、相手が絶対安全であるといわない限り認めようとしないマスコミや国民の側にも反省すべき点があるといってよいと思います。
by T_am | 2011-03-16 00:50 | その他