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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

一人歩きする言葉

 福島原発1号機から3号機の事故に関する政府発表とマスコミの報道をみていると、言葉が一人歩きしているとつくづく感じます。緊急停止、マイクロシーベルト、炉心溶融。専門用語を使わないわけにはいかないのは理解しますが、それが何を意味するのかをきちんと伝えないといたずらに不安を煽ることになります。基準値以下の数値に下がっているから安心してくださいというのは、何も考えていないといわれてもしかたないでしょう。レジュメを読み上げるだけなら指導者とはいえません。これでは現場で命を賭して作業に従事している人たちは浮かばれないと思います。

 国民が知りたがっているのは、(1)今どういう状態なのか? (2)今後事態はどう変わっていくのか? (3)それによってどのような影響があるのか? という3点です。人間はあらかじめわかっているであれば、いざそれが起こっても案外冷静に行動するものです。しかし、わからないことについては不安があるわけですから、ちょっとしたきっかけで群集心理が働き、パニックを起こしやすくなります。
 そういうことを考えると、政府や東京電力の発表というのは適切さを欠いていると指摘せざるを得ません。計画停電の発表を受けて、14日は鉄道各社は運行本数を大幅に削減しましたが、知らずに駅へ来た通勤通学客などが溢れるという事態が発生しました。実際に計画停電が実施されたのは夕方になってからですから、起こらなくてもいい大混雑が起きてしまったということになります。
 そうはいっても人間の想像力には限界がありますから、何が起こるか事前に見通すことができるかというそうでもありません。(何が起こるか完全に予測できるのであれば、そもそも福島原発の事故はおこらないはずです。)自分にできないことを、他人ができないからといって責めるのはフェアではないでしょう。ですから、今日の混乱はしかたないと思いますが、一度犯した失敗を繰り返したら今度こそ責任が問われることになります。もっとも今回の計画停電の決定にあたり、政府・東京電力が鉄道各社とそのような事前協議をしたのか疑問も残るのですが・・・・・・

 ウランは普段でも核分裂を起こしています。ウランを1カ所に集めると核分裂が連鎖的に起こり(これを「臨界」といいます)、極めて大量の核分裂が同時に起こればそれは核爆発となります。逆に、少しずつゆっくりと核分裂の連鎖を起こすことができれば原子力エネルギーとして利用することができるようになります。このために用いられるのが燃料棒(原爆にくらべるとウラン濃度は低くなっています)と制御棒です。燃料棒の中には核分裂の元となるウラン(235と238)が詰まっており、制御棒は核分裂によって発生した中性子(次の核分裂の引き金となります)を吸収する働きがあります。原子炉の中では燃料棒の間に制御棒が挿入されるように設計されており、制御棒が完全に挿入された状態ではウランの核分裂によって飛び出した中性子が制御棒によって吸収されるので、それ以上核分裂が連鎖的に進行することはありません。制御棒を徐々に引き抜いていくと燃料棒の間を飛び交う中性子が増えていくので、核分裂の連鎖が始まります。(原子力発電は核分裂の祭に発生する熱によってタービンをまわすという仕組みです。)
 原子炉の緊急停止とは制御棒を完全に挿入して核分裂の連鎖を断ち斬ることをいいます。したがって、原子炉が緊急停止することによって核分裂の連鎖が切断されれば、それ以上熱は発生しないことになります。「原子炉が緊急停止しました」というのはこのことを指しており、したがって緊急停止というのは事故をあらわす用語ではなく、重大事故を回避するために用意されている手段のひとつであると理解すべきです。

 人間がつくったものであれば、いつかは必ず壊れますし、ときには故障することだってあります。これを防ぐことはできません。原子炉の場合、破損や故障は重大事故(放射性物質がまき散らされること)のきっかけになりかねませんから、破損や故障が起きても重大事故に結びつかないように何重もの安全策が講じられなければなりません。
 今回の福島原発の事故は、地震によって緊急停止した原子炉を冷やすためのディーゼルポンプ(停電になるのでモーターで動くポンプは使えません)が、津波によって動かなくなったという事故が始まりでした。
 冷却水が足りなくなると燃料棒が露出してしまうので放熱が充分行われず、高温となり、最悪の場合燃料棒を覆っている被覆菅が溶けてしまいます(炉心溶融)。
 炉心溶融という現象は重大事故と同義語ではありません。ただし、それが重大事故の引き金になりかねないだけに、あってはならない現象であることに間違いはありません。燃料棒を覆っている被覆菅が溶けてしまい、万一高温の燃料棒が冷却水の中に落ちると大量の水蒸気を発生させ、原子炉圧力容器内の蒸気圧が急激に高まるので、水蒸気爆発が起こる可能性があります。 
 もしくは高温の水と被覆菅の素材であるジルコニウム合金が反応し水素が発生して水素爆発が起こることがあります。原子炉建屋が爆発した原因は水素爆発と考えられるとのことですから、その原因となった水素は原子炉の中で高温の水とジルコニウム合金(燃料棒の被覆菅の材料)が反応してできたと推測することできます。すなわち、炉心溶融が起きていたという証拠であるということになります。
 ベントという用語が今回の説明や報道の中で用いられていました。これは原子炉格納容器の中の圧力を下げるために、中の空気を抜いてやることを指すのですが、それによって原子炉の内部で高温反応によって発生した水素が建屋の中に放出されたと考えることができます。
 しかしながら、爆発したのが原子炉格納容器ではなく建屋の方でまだよかったと考えることもできます。とりあえず格納容器が無事である限り、放射性物質がまき散らされるという最悪の事態は避けられるのですから。
 おそらく、冷却が完了するまで、今後もベントは何度も繰り返されることでしょう。それによって、放射性物質がある程度格納容器から放出されることになるので、一時的に観測される放射線量は増えることになります。そのときには風向きを考慮し、放出された放射性物質が海の方に飛んでいくようにしなければなりません。
 こうして考えてくると、現在福島原発ではまさに綱渡りのような作業をくりかえしているといってよいと思います。しかし、それは最悪の事態(原子炉格納容器の爆発)を防ぐために絶対に手を抜くことができない作業です。そのような状況下で、現場で作業にあたっている人たちの責任感、使命感には敬意を表したいと思いますし、その行為の意味をきちんと理解してあげることが彼らの命がけ(20km以内立ち入り禁止というのは、万一爆発事故が起こった場合の被害の範囲がそれだけ広いということ、すなわちそれだけ大規模な事故になりかねないということを意味しています(の作業に報いることだと思います。
 そのためには、政府も東京電力も、今現場で何が起きているのか、それが何を意味しているのか、最悪の事態を回避するためにどのようなことをしているのかをきちんと説明すべきです。事実だけを淡々と述べて肝心なことには口をつぐむというのは現場の作業員と避難を迫られた住民を冒涜するものであるといえます。

 今回東京電力では原子炉格納容器の中に海水を注入し、ホウ素(中性子を吸収する効果がある。また、水にも中性子を吸収する性質があります。)も入れるという決断をしました。
 ややこしいのですが、原子炉格納容器の内側に原子炉圧力容器というのがあった内部は高い圧力をかけた冷却水で満たされており、燃料棒はこの中に入っています。この冷却水の水位が下がったのが炉心溶融の原因なのですが、冷却水を送り込むためのポンプが動かない以上圧力容器の内部に冷却水を送り込んで冷やすことはできません。そこで、圧力容器の外側である格納容器との間に海水を注入することにして間接的に冷やすことにしたというものです。
 既に伝えられているように、これはその原子炉がもう使い物にならなくなるということを意味します。無事に終わったとしても、使い物にならない原子炉を撤去し、新たに作り直すには莫大な費用と時間がかかります。経営者であれば、何としても避けたいことであったと思いますが、逆にいえば、それ以外に方法がないという状況にまで追い詰められていると考えることもできます。
 ここで疑問に思うことがあります(なぜなら説明がないから)。原子炉圧力容器の中に入れる冷却水は高い圧力がかけられています。そうしないと高温に晒された水は簡単に沸騰し水蒸気となるからです。高い圧力をかけることによって水の沸点が高くなり、それだけ水蒸気が発生しにくくなるのです。その冷却水の水位が下がり、燃料集合体が露出した結果炉心融合が起こったのですが、では、冷却水はどこへ行ったのかというのが私が感じている疑問です。
 ポンプが動かなくなったために、冷却機能が働かずに水蒸気となり、パイプを破って格納容器の内側に充満してってしまった(それならばベントを行った理由となります)のか、それとも冷却水を循環させるパイプが格納容器の外側で破損して水漏れが発生しているのか。どちらの場合でも、汚染された水(あるいは水蒸気)が放出されていることになります。原子炉圧力容器の中の水位が下がっているという発表が時折行われますが、なぜ水位が下がったのかについて発表されることはありません。聴いている方もなんとなくわかったつもりになって、それ以上踏み込んで考えようとはしないというのが今の私たちの姿であるといえます。
 つまり、言葉が一人歩きしているのです。
 実際に水素爆発が起こり建屋が損壊したということは、圧力容器の中で発生した水素が格納容器に漏れているということになると思います。では、なぜ水素が漏れているのか?非常に気になるところです。
 政府や東京電力はそんなことまで国民に知らせなくてもいいと思っているのかもしれませんし、あるいは、知られたくないことが起きているのかもしれません。けれども、何が重要で何が重要でないかを判断するのは本来国民であって政府ではないというのが民主主義の出発点のはずです。
 政治家というのは国民が選ぶ自分たちの代理人でもあります。肝心なことは何もいわずに「大丈夫です。私に任せておいてください。」としかいわない代理人と、都合の悪いことでもきちんと報告し、それでもなんとか最善の結果に導いていこうとする代理人とではどちらが信頼されるか、ちょっと考えてみれば誰でもわかりそうなものです。
 したがって、国民に対し誠実で正直な政府であれば、支持率が下がることはまずありません。誠実でもなければ正直でもないからこそ支持率低下に歯止めがかからないことに気づいてもよさそうなものですが、きっとそれどころではないのでしょうね。
by T_am | 2011-03-15 01:10 | その他