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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

京大入試カンニング事件について思うこと

 京都大学区の入学試験の受験生が、試験中携帯電話を使ってインターネットの質問サイトに問題を投稿した。その結果、もっとも早いもので3分後、遅いもので4時間17分後に回答が寄せられた。
 京都大学は警察に被害届を出し、警察は偽計業務妨害の疑いで捜査した結果、犯人と見られる予備校生を逮捕した。
 なお、事件の調査の過程で、この予備校生は他の大学の入試でも同様に質問サイトを利用していたことが判明した。

 今回の京大入試カンニング事件で起こった出来事を要約するとこういうことになります。疑問に思うのは、カンニングは現行犯ではなかったのか? ということです。カンニングをしたという事実はその現場を押さえなければ証明できません。これが今までの常識でした。
 ところが今回の事件では、京大の入試問題にそっくりな質問が試験の最中にインターネットの質問サイトに投稿されたということでテレビ・新聞が大きく取り上げました。マスコミがこれほど大きく取り上げなければ、おそらく京大も被害届を出すというところまではしなかったのではないかと思います。今まではカンニングが発覚すれば大学の内規に沿って処分が下されていたはずですから。そういう意味で、今回の事件は騒ぎすぎという意見と私も同じ考えになります。
 この予備校生は、行方がわからなくなり自殺の怖れもあったということから偽計業務妨害の疑いで逮捕されたのだそうですが、今後起訴されることになるのでしょうか? 判例では偽計業務妨害罪は危険犯(法益の侵害が実際に発生していなくてもそのおそれがあれば実現する犯罪のこと)とのことです。ということは、今回の事件によって京大が被る侵害がどういうものであるかが明確にならなければならない、ということになります。それが曖昧であれば(被害なんかないじゃないかと判断されれば)検察官による起訴猶予という処分もありうるということです。
 ここで2つの懸念が生じてきます。
 第一に、今回の事件によって京大が試験の監督体制の見直しを迫られ、それが侵害にあたると判断された場合(あるいは他の受験生とその親たちから苦情を寄せられ、その対応に追われたとかいう場合)、マスコミも結果として共犯になるのではないか? という疑問があります。予備校生がインターネットの質問サイトの質問サイトを使ってカンニングをしたらしいという疑い(カンニングをしたと立証するには、投稿サイトに寄せられた回答とこの予備校生が書いた答案とがどの程度一致しているのかを検証する必要があります)があって、マスコミが騒ぐことによって大きな事件に発展したのですから、マスコミも京大に対する業務妨害に結果として荷担したことになると思うのです。
 二番目の懸念は、検察官が起訴相当かどうかを判断する際に、世論の動向を気にするのではないかということです。わが国の検察官の中には、自己の信念よりも上司の圧力を優先させる人がいるということは尖閣諸島沖の中国漁船による衝突事件の際に明らかになったことです。日本は法治国家といいながら時として超法規的判断によって法が曲げられることがあります。今回の事件がその事例になるのではないかと懸念されるのです。
 こういうことを申し上げるのは、今回の事件が偽計業務妨害といういかめしい犯罪に該当するとはとても思えないからです。社会からみれば、一大学の入試で起こった不正に過ぎません。それゆえに、自分のところで処分すればそれで充分であるというのがごく常識的な判断であると思います。
 けれども、マスコミの動きを見ていると、この社会を成り立たせている一つに、東大や京大を頂点とする大学のヒエラルキーがあって、この事件はそれに対する冒涜だという意識があるように思います。(これが地方の「偏差値の低い大学」で起こった事件であれば、ここまで騒いだかどうか疑問です。)同じ時代の日本人としてその気持ちは理解できるのですが、そういう権威ある大学の卒業生たちがキャリア官僚としてこの国を導いて来た結果が今日の日本の姿であることを考えると、それほど大層なものかねとも思ってしまうのです。

 ついでに申し上げておくと、京大が被害届を出したのは今後の類似犯の発生を予防する効果が期待できるという意見もあるかもしれませんが、それについては大学の自治というのはいったいどこへ行ったのだと言いたくなります。学問の自由は政治からの独立によって担保されます。現実には予算配分を文部科学省に牛耳られているとはいえ、あまりにも情けないと思います。凶悪犯罪が学内で起こればともかく、学内で起こった問題は学内で解決するという気概を失い、警察権力の力を借りないと秩序の維持ができないというのでは、大学は政府御用達の学歴授与機関に成り下がるといってよいでしょう。「これからはカンニングをした学生を見つけたら、すべて警察に引き渡すのか?あんたたちにはプライドってものがないのか?」 いや、そうではない。と京大関係者がいうのであれば、今回のカンニングと従来のカンニングとでは処分方法を異にする根拠を明示していただきたいものです。
 
 こういう挑発的なことを書いておいて申し上げるのも変ですが、もうすこし冷静になりましょうよ。
 そんなことを考えさせられたのが今回の事件です。
by T_am | 2011-03-06 19:58 | その他