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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

朝日新聞の調査に異議あり

 1月10日の朝日新聞のニュースサイトに、「先生休むと代わりがいない 不足、昨年度は800件以上」という記事が掲載されました。これは、教師が産休や育休あるいは病気や介護休暇に入っても代わりの教師の手配が間に合わないというケースが実際にどれだけあったかを調査した結果について書かれたものです。
 産休や育休の場合は事前にわかっているので、その当日に代わりの教員が着任できなかった事例の件数。また、病気や介護休暇の場合は突発的なものですから、代わりの教員が1ヶ月以上来なかったケースがどれだけあったかを調査したとのことです。
 こういう調査は過去に例がなく文科省も実態を把握していないということですから、意義のある調査であることに異論はないのですが、このような調査は単発で行うのではなく、継続して長期に渡って行うことが望ましいといえます。

 見出しにあるように、欠員が発生した件数は、産休や育休の場合で304件、病気や介護休暇の場合で486件(いずれも大阪府除く)とのことで、800件以上というのはこのことを指しているようです。大阪府を除いているのは、大阪府の回答が毎月1日現在の件数を回答してきたために、たとえば欠員が2ヶ月以上続けばその件数が重複してしまうためでしょう。
 「全国で800件以上」とあるように、記事の論調はこれが看過しうる問題ではないという立場で書かれています。事実、同じ日に掲載された記事「先生不在で自習 時間割り組み直し…混乱する教育現場 」では、各地の事例を紹介し、いずれも授業が充分にできなくなったということが書かれています。
 たしかに先生が欠員となり授業が行えないという状況が異常であるという指摘に対し異論の挟みようもありません。
 わが身を振り返ってみれば、小学校から大学を卒業するまでそもそも先生が病気や産休などでいなくなるということがなかったのであり、欠員によって授業が行われなくなったという経験は皆無でした。たぶん、大部分の人が同じような経験をしているのではないかと思います。(産休の場合は学期や年度の変わり目で代理教師が着任していたように記憶しています。)

 この調査を行い記事を書いた朝日新聞の記者たちも、おそらく同じような経験の持ち主であると想像することができます。そのような経験を持ち合わせている者からすれば、現在の教育現場の実情は「異常極まりない」というものであり、その思いがこのような調査を行わせたのだろうと思うのです。
 実は、教師がいかにストレスの溜まる職業であるかという指摘はかなり以前から行われているのであって、そこには括弧書きの(昔と比べて)というフレーズがあることを忘れてはなりません。
 校長や教師の自殺。鬱病となって休職したり退職する教師・・・。不幸にしてこのような状況に追い込まれた教師はいくらでもいるというのは現代ではもはや常識であるといってよいでしょう。そのような時代の生徒たちにとって、教師の欠員が生じるというのはもしかすると「わりと普通にあるできごと」なのかもしれないのです。
 そのように考えると、全国で800人以上という数字の意味が変わってきます。自分が子どもの頃の記憶と照らし合わせて、このようなことがあってはならないという先入主を持って眺めれば800人以上という数字は由々しきものとなります。一方「わりと普通にあるできごと」であると思っている人にすれば、「へえ、けっこういるもんだね。」くらいの感想に終わるでしょう。

 このような調査を行いその結果を分析するのであれば、少なくとも次の数字は抑えておくべきです。

1.教員の総数
2.産休や育休を取得した教員の数と全体に対する割合
3.病気休職や介護休暇を取得した教員の数と全体に対する割合
4.定年退職者数とそれ以外の退職者数(事情別年齢別)と全体に対する割合

 数字というのは、それ単独では評価することができません。たとえば、テストの結果が100点だったとします。これは満足できる成績でしょうか? 100点満点のテストであれば申し分のない成績であるといえますが、TOEICのように990点満点のテストで100点であれば話しはまるで違ってきます。このように、数字は必ず何かと比較しないことにはその意味を理解することが人間にはできないのです。

 そのうえで、欠員が生じた件数について、その元となっている休暇求職者数に対する割合も検討すべきでしょう。さらにいえば、このような調査は単発で終わらせるのではなく、何年にもわたって継続して行い、年ごとにどのように推移しているのかも探る必要があります。
 そこまでやったうえで、どのように解釈するのが実態に沿っているのか、それによって仮説が導かれるというのが科学的姿勢というものです。その点、今回の朝日新聞の調査は結論ありきで取り組んだのではないかと疑いたくなるくらい、調査項目が不十分であるといえます。

 統計というのは、とり方によってどのような結論でも導くことができます。その気になれば、「日教組幹部における鬱病経験者の割合は一般教員のそれよりもはるかに低い」だとか「親が教師であるという教員の方がそうでない教員よりも鬱病に罹った人が多い」という結論でさえも容易に導くことができるのです。
 統計というのはそれくらい恣意的な道具として用いられる可能性が高い、ということは知っておいて損はないと思います。特に加工前のデータを公開していない統計は要注意です。マスコミが報道する統計調査の結果はほとんどが加工前のデータを公開していません。ということは第三者がその内容を検証することができないということを意味します。
 この点は政府広報も同様です。
 大学生がそのような第三者が検証することのできない統計に基づいてレポートや論文を書いても点数をもらうことはできません。そのことはよくわかっているはずなのに、平気でそれを行う。それがマスコミであり、官僚たちなのです。


付記
 教員の欠員があってはならないことであると断罪するのは簡単ですが、現実を見つめたうえでどうすべきなのかを考えるべきであるということで本稿を書きました。ここでいう現実とは、今の学校は教師にとって働きにくい環境となっているのではないかというものです。そのことを統計調査によって証明できると思うのですが、そのようなアプローチを経なければ、いくら代用教員を採用しても定着しないのではないかとも思います。
いったい、真面目に勤務している者が鬱病や胃潰瘍に罹ったりする職場は正常であるといえるのでしょうか。
 解決すべき問題点はどこにあるのか、そのような発想をしない限り教育の現場はかえって振り回されることになるのだろうと思わないではいられません。
by T_am | 2011-01-12 00:03

by T_am