ブログトップ

カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

チャイナリスク

尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件に関して、巡視船に衝突してきた漁船の船長を逮捕したことにより、中国各地で大規模な反日デモが繰り広げられました。これらは「官許デモ」でありながら当局が統制しきれない場合もあることが、成都市で10月16日に起きたイトーヨーカドー、伊勢丹襲撃事件で明らかになりました。
 これらの反日デモが中国各地で発生していることから、いくつかの日中交流事業中止に追い込まれたことは皆様ご存知のことと思います。

 経済成長によって中国はもはや無視できない存在となりました。それだけに、中国特有のカントリーリスクについて理解しておくことが必要な局面を迎えていると思います。レアアースを輸出してもらえなくなると大変だから中国ともめ事を起こさない方がいい、などといっていられなくなる時代が来ると思った方がいいということです。

 カントリーリスクといっても、その国固有の文化や風俗・社会慣習によって発生するものもあり、これらは郷にいれば郷に従うというやり方をする以外にありません。たとえば、アジアや中南米諸国にみられる役人や警官の収賄といった「慣習」は経済的合理性に反するものですが、それによって社会がうまくまわっていくようにできているのですから、日本的道徳を持ち込んでもどうにもなりません。
 したがって本稿ではそれらのリスクについては扱わないことにして、将来起こりうる重大なリスクについて考えてみることにします。

 既に申し上げているように、中国という大国を成立させている要因はただ一つ強力な軍事力です。そうでなければ、あれだけ広い地域に多彩な民族が住んでいながら一つの国を維持することは不可能だからです。チベットの問題をみてもわかるように、民族の独立機運というのは自然発生的に起こってくるものですあり、それを抑えつける力がある間は国が分裂する危機を回避することができますが、その力が弱まると国は分裂してしまいます。 最近ではソ連の崩壊と東欧諸国がそれに該当します。中国の政治家たちもそれを目の当たりにしているわけであり、同じことが中国でも起こらないようにしようと考えるのは当然であるといえます。なぜなら、国の分裂は自分たちの失脚(最悪の場合は財産と生命を失うこともある)を意味するのですから。
 ソ連や東欧諸国の失敗は、経済の行き詰まりによって軍事力を維持することができなくなったのが原因です。そこで中国では、共産党による一党独裁を続けながら資本主義体制を導入するという前代未聞の政策を導入しました。(社会主義を放棄した共産党を引き続き共産党と呼んでいいものか疑問に思うのですが・・・)
 
 ここで抑えておかなければならないポイントは、今の中国の建国は対日戦争勝利という動機によってもたらされたということです。(このことは韓国と北朝鮮でも同様です)。興味深いことに、建国の動機(中国の場合「対日勝利」)は国が続く限りDNAのように受け継がれていきます。

 このことを説明するために、なじみ深い日本の例をあげます。

 江戸時代の徳川幕府というのは日本における代表政府のようなものであり、その点日本は統一国家であるとはいえない状態でした。明治維新というのは、欧米列強による日本侵略を食い止め独立国家であることを保つ、という崇高な動機に基づくものでしたから、これが近代日本の建国であるといってよいと思います。
 この独立国家であることを保つという動機はその後も受け継がれ、輸出できる製品といえば生糸くらいしかない貧乏国でありながら世界有数の大艦隊を持つという離れ業をやってのけました。その間、日清戦争と日露戦争を経験しましたが、それもこれも「独立国家であることを保つ」というDNAによるものです。
 その後、このDNAは大東亜共栄圏という奇妙な形に日本を「進化」させていきましたが、先の大戦で敗北したことによって日本はすべてを失い、同時にこのDNAも途絶えてしまいました。
 これは余談ですが、先の大戦は日本による侵略戦争であるという指摘があります。中国朝鮮の人がそういうのはもっともであり、彼らの目から見ればそれ以外の何者でもないことは明かです。しかし、日本人が同じ指摘をするのを聞くと違和感を覚えます。その人たちは、19世紀から20世紀の前半にかけて世界は侵略する側と侵略される側の2種類しかなかったという事実を無視していると思うからです。
 歴史にifを持ち込んでもしかたないのは承知の上で申し上げるのですが、日露戦争で日本が負けていれば北海道と対馬はロシアの領土となっていただろうと思います。ということは朝鮮半島と少なくとも満州はロシアの領土となっていたということです。当然それらはソ連が引き継いだはずですが、ソ連崩壊後分割されたのかそれともロシア領のままなのかはわかりませんが、すくなくとも北海道と対馬をロシアが手放すことはあり得ないので、もしかしたらメドベージェフ大統領の視察地の中に北海道と対馬も入っていたかもしれないのです。
 スイスのように永世中立を宣言した国もありますが、それは地理上スイスが通過点に過ぎないという事情もあると思います。北海道や対馬、沖縄といった戦略上重要な地域を抱える日本にとって、当時永世中立を宣言するという選択肢は存在しなかったのです。
 したがって、あの時代に侵略されないということは自分が侵略する側になるということを意味していました。(そうでなければいずれ侵略されることになると、当時の政治家たちは本気で思っていました)
 そのような事情があったことを無視して、あれは日本の侵略戦争だったと決めつけるのはおかしいのではないかと思うのです。当時同じことはイギリスもフランスもロシアもアメリカも行っており、その中で日本だけが責められるのは、要するに日本が戦争で負けたからに他なりません。その日本人の中で、あたかも自分だけは関係なかったかのように、勝った側に与してかつての同胞を詰るというのはちょっと卑怯なのではないかと思うのです。
 それというのも、「独立国家であることを保つ」という建国の動機(DNA)が失われてしまったからだといえます。だから、現在の日本を独立国家たらしめているのは何か? という設問をこの人たちに投げかけてみると、たぶんまともな答えは返って来ないだろうと思います。その証拠に、自国の安全保障をどうするかという議論が日本の中でまともに行われたことはありません。その結果が普天間飛行場の移設問題となってあらわれているのです。

 脱線が長くなりました。すいません。

 中国における建国の動機である「対日勝利」というDNAが受け継がれているという話でした。気をつけなければならないのは、それが政治家によって意図的に引き起こされる場合があるということです。
 今日の中国における反日感情は江沢民による反日教育の産物です。1989年6月天安門事件が起こり、またポーランドでは非共産党国家が成立しました。その後8月にはハンガリーでも同様のことが起こり、11月にはベルリンの壁が崩壊しました。社会主義が失敗であったことはもはや誰の目にも明らかになったのであり、当時共産党の指導者になったばかりの江沢民は、その波が中国にも押し寄せるのを食い止めることに追われたはずです。 天安門事件の後、日本政府は中国に対し円借款の見合わせを通告し、フランスなども追随しました。民主化弾圧を非難する声が高まる中で世界銀行による中国に対する新規融資の延期が決定され、中国は世界の中で孤立することになりました。
 そのような状況下で、中国共産党による支配のたがを緩めず、同時に政府に対する不満の矛先をそらすという目的で反日教育が開始されました。それは期待通りの成果をあげることができ、これに味を占めたのか、以来中国では反日感情を煽るということが国民の不満をそらすための政治手法として定着することになりました。(その一方で、1979年に中国がベトナムに侵攻した中越戦争については知らん顔をしているのですから、いい気なものだと思います。)

 今回の反日デモが「官許」によるものであることは、チベットをみればわかります。すなわち、中国では当局が認めないデモは直ちに鎮圧されるのであって、鎮圧されないデモは当局が認めているということを意味するからです。
 実際にデモが行われたのは中国の主要都市ではなく、いずれも地方都市だったことからも、これらのデモは当局のコントロールの下に行われたとみることができます。
 ところが誤算だったのは、そのデモに不満分子が入り込み、日本企業襲撃事件にまで暴走してしまったということです。このことは中国の国民の中で政府に対する不満が根強くくすぶっているのであり、しかもそれがしだいに大きくなってきていると見ることができると思います。
 それでも政府に対する不満が相変わらず少数派にとどまっているのは、中国が経済成長を続けているからにほかなりません。その恩恵を受けている人が圧倒的に多いからです。いくら中国といえども、未来永劫経済成長を続けていくことができるものではありません。経済成長の最大の牽引力であった安い人件費もじりじりと上がってきており、従来の生産のやり方がいつまで続くのか疑問に思われます。
 おそらく経済成長が止まったときが、中国政府は危機を迎えることになると思います。それでもそれまでの蓄えによって当分の間軍事力を維持していくことは可能でしょうが、12億人もの人間を飢えさせずにちゃんと食わせるというのは並大抵のことでできるものではありません。
 そうなったときに、民衆の不満をそらし、国家としての求心力を保つために、反日という感情を刺激する政策がとられることは十中八九間違いないと思ってよいでしょう。民衆の不満が強ければ強いほど、反日感情の対象とされる日本企業に対する憎悪は激しいものになります。
 19世紀であれば、そのような騒乱が起こったときには「自国民を保護するため」という名目で軍隊を進めることができたのですが、今日ではそういうわけにはいきません。人民軍と戦闘状態になることは確実であり、逆に日本に対して侵攻する口実を与えてしまうことになってしまいます。

 中国の政治家は、日本人に比べ、冷静かつ現実的な計算能力を持っていますから、常にこういうことをすればどのような反応が返ってくるかということを計算しています。その結果、たいしたことは起きないと思えば思い切ったことをやってくるというのが過去の事例を見ていればわかります。
 まして、中国は朝令暮改の国ですから、事前の相談もなく突然方針が大転換することがあります。最悪の場合、日本企業は中国に投資した事業のすべてを奪われてしまうかもしれない、そのようなリスクが中国という国にはあるのであって、政府もそういうことを視野に入れて外交戦略を練っていかないと、手遅れになってしまうでしょう。
 レアアースの対日輸出を禁止したところ、日本政府は船長を釈放して、中国の圧力に屈したと彼らは思っていることでしょう。それでなくとも、日本人の中には日本よりも中国を応援するという人たちもいるので、日本というのは実に与しやすい相手だと思われているのではないかと思います。

 反日感情というのは、今後最大のチャイナリスクに育っていく可能性があると思います。同時に、チャイナリスクは日本の国内にも存在することを忘れてはなりません。そういうことを考えると教育というのはおろそかにしてはならないということがわかるのです。
by T_am | 2010-11-14 23:52 | その他