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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

まやかしの日本語(2)   「情報発信の場とします」

 いわゆる「箱もの」といわれる施設を設けようとするときに、その理由づけのひとつに使われるのが「情報発信の場とします」というものです。すっかり定着したと思われるこの言葉を読者も一度は耳にしたことがあると思います。試みに「情報発信の場」というキーワードで検索してみると、Googleで180万件、Bingでは609万件がヒットしました。誰が言い出したのか知りませんが、それだけ頻繁に使われているということです。

 今回取り上げるのは、「情報発信の場」という言葉が金を出させるための口実になっているからです。もちろん中には真面目な意図でこの言葉を使っておられる方もいらっしゃるのであって、本稿はそのような人たちを貶めるものではないことをお断りしておきます。


 個人や組織、団体が外部に向かって情報を発信しようとするのは大いに推奨されることです。そのための拠点を「情報発信の場」というのでしょう。たとえば図書館は膨大な量の情報が収められている施設ですが、誰も図書館を「情報発信の場」であるとは思っていません。映画館もそうです。というのは、図書館も映画館も基本的には情報を閲覧する場所であって、外部に発信しているわけではないからです。
 「情報発信の場にしたい」といって設けられた施設のほとんどは、外部に対して情報を発信しているわけではありません。むしろそこで提供されている情報を得るためにはわざわざそこまで出向かなければならないのです。それのどこが情報発信だというのでしょうか?
 インターネットと情報端末機器であるパソコンとケータイがこれだけ普及している今日では、いつでもどこでも情報にアクセスできるようになっています。したがって現代における情報発信というのは、それを望む消費者がいつでもどこでも情報を入手できるようにすることをいうのです。
 そのように考えると企業や個人がホームページやブログを開設するのは、文字通り、「情報発信の場」を設けるものであるといえます。ただし、そこで提供する情報の質を維持するには手間暇とお金がかかるのであり、それはサイトの規模と正比例します。こぢんまりとしたブログであればほとんどお金がかかりませんが、派手なサイトになればなるほど、次々と新しいコンテンツを提供するために結構なお金がかかることになります。

 建物や器に投資して割が合うのは、そこに行かなければ決して手に入れることができない特別貴重なモノやサービスがあるからです。小売業や飲食業、サービス業には「商圏」という考え方があります。商圏というのは、その店や施設に来る客が住んでいる地域をいいます。
 具体例をあげましょう。日本で最も広い商圏を持っているのはどこだと思いますか?
はい、それは東京ディズニーランドです。日本中からお客が来ており、中には韓国や台湾からやってくる人もいるからです。ほかにも石川県の和倉温泉にある老舗旅館の「加賀屋」には台湾からお客が大勢来ています。
 ディズニーランドや加賀屋が提供しているのは、「そこにしかないサービス」です。決して情報ではありません。その昔、玄奘三蔵はお経を得るためにはるばる天竺まで旅をしましたが、この場合は情報というよりも知識や知恵を求めたといった方がいいように思います。以来、知識や知恵を希求してはるばる海を渡る留学生というのはいつの時代でも後を絶ちませんでした。けれども単なる情報を求めて、人はわざわざ旅に出るということはしないものです。

 立派な建物や施設をつくって「情報発信の場」にしようというのは大きな勘違いです。情報の発信がしたいのであれば、別に建物は必要ありません。建物が必要なのは、そこで特別なモノやサービスを提供するためです。そういう希少価値があるわけでもないありきたりの情報を集めてきて、さあ来てください、では失敗するのは当然でしょう。

 他人に対して、これを情報発信の場にしましょうと持ちかける人間はどこにでもいます。しかし、それは別段深い考察によって生まれたものではなく、言葉の持つ雰囲気やその場の勢いで口にすることがほとんどです。したがって、そういう人をまわりで見かけても、あまり耳を貸さない方がいいと思います。
by T_am | 2010-09-07 06:44 | その他