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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

まやかしの日本語   「活性化の起爆剤」

 言葉には力があって、それなりの雰囲気を持った人が発言すると、たとえ空虚な言葉であってもそれらしく聞こえることがあります。そこには聞き手の勝手な思い込みにつけ込むあくどさが込められている場合があり、広い意味での詐欺のようなものです。そういう言葉に騙されないようにしたいという思いから、今後不定期ですがこのような誰もが一度は耳にしたことがある「まやかしの言葉」について考えてみることにしたいと思います。

 その第1回にあたる今回は、「活性化の起爆剤」という言葉を取り上げることにします。この言葉はバブル崩壊後日本の至る所で聞こえてきました。衰退しつつある経済に対して再生のきっかけにしようという意図で大がかりな投資が行われてきました。各地にある工業団地、流通団地、企業団地がそうですし、中心市街地の活性化ということも行われてきました。しかし、それが成功を収めたという事例を私は寡聞にして知りません。流通団地や工業団地をつくっても企業が進出してくれないために空き地になっているという事例も多いですし、運良く企業が進出しても雇傭されるのはパートや派遣労働者という非正規雇用の労働者ばかりで、利益は本社に吸い上げられてしまうというのも多いと思います。

 そもそも起爆剤というのは単なるきっかけに過ぎません。起爆剤が功を奏するのは、次の条件を満たしたときです。

1)既に可燃性の物質が充満している。
2)燃焼を促す酸素が充分にある。

 これは燃焼という物理現象における必要条件ですが、社会現象においてもまったく同じであると考えて差し支えありません。

 観光における起爆剤といえば、NHKの大河ドラマや映画などがあげられます。コレラの舞台となった地域は大勢の観光客が押し寄せ、大いに潤うことが期待されます。今年の例でいえば、「龍馬伝」の舞台となった高知県や「ゲゲゲの女房」にゆかりのある鳥取県境港市がそうです。
 しかし、ドラマや映画を観た人たちがやってきても、地元に観るべきものがなければ、失望を招きブームはすぐに下火になってしまいます。つまり、観光においては次のように考えることができるのです。

起爆剤   NHKのドラマや映画
燃焼剤   地元にある観光資源
酸素    観光客
触媒    交通アクセスのよさ

 観光客が酸素であるというのは不思議に思われるかもしれませんが、外部から次々に補給されること、化学反応の一端を担って燃焼する(お金を落とす)という点で酸素と観光客は同じ振る舞いをしていると考えられるからです。
 それでは地域経済再生の期待を背負って行われた工業団地・流通団地はどうかといえば、次の通りであるといえます。

起爆剤   税金を使った用地買収と造成、電気・上下水道というインフラ整備
燃焼剤   求人に応じられるだけの人材の厚さ。大都市に比べ人件費が安いこと。すわちワーカーのことである。
酸素    進出した企業に対する注文
触媒    高速道路のインターチェンジや港、空港といった交通拠点

 地方へ行けば行くほど最低賃金は安くなりますが、そういう地域では遊んでいる大人はまずいません。主婦であってもたいていは既にどこかに勤めに出ているので人の確保が難しいのです。それでも大企業の工場が撤退するとなれば求職者は溢れますが、そのような経済情勢の下では新たに進出してくる企業がそうおいそれと見つかるはずもありません。そのような事情があって、地方につくられた工業団地や流通団地は空き地が残っているのです。それでも企業誘致をせざるを得ない地方自治体の担当者諸氏には、まことにお気の毒だと申し上げる以外にありません。悪いのはあなたたちではなくて、口車に乗せられた首長や議員たちなのですから。

 同じことを地方の中心商店街に対しても行ってみましょう。

起爆剤   自治体が設ける施設、あるいは地元の有志が行うイベント
燃焼剤   商店街の店舗
酸素    商店街へ訪れる顧客
触媒    商店街の交通アクセスのよさ

 こうしてみると燃焼剤である肝心の商店街の店舗そのものが爆発力を失っていることに気づきます。そのような店舗には速やかに閉店していただき、家賃を安くするなどしてやる気のある人が出店できるようにしない限り中心商店街の活性化は達成できないということがわかります。そういう状況を放置しておいて、いくらイベントを行っても活性化するはずがありません。

 「活性化のための起爆剤」という言葉は、これらの諸条件が整わない限り空手形となります。この言葉を使う人間は企画屋と呼ばれる人たちであり、成功するための条件が整っているかどうかには関心がありません。この人たちにとっては自分の企画が採用されることがすべてであり、その結果について責任をとるということはないのです。
 「起爆剤」という言葉の口車に乗って、地方自治体や国が行った投資で無駄になったものがどれだけあるのか、統計がないのできちんと把握することはできませんが、このような施設は日本中にあり、それらが財政を圧迫していることは間違いありません。にもかかわらず、そのツケを増税によって国民に払わせようとしている官僚と政治家の無自覚。無反省にはほとほと呆れてしまいます。

 増税を説くならば、自分たちの給料の一部を国庫に返納してから言え。退職金や年金の一部を返納してから言え。誰も責任をとろうとしないのに国民にツケを回すとはどういうことなのだ。

 したがって、私は「活性化のための起爆剤という言葉を使う人間を信用していないのですが、このたびの民主党代表選挙で小沢一郎がこう述べていました。

「緊急経済対策と補助金の一括交付金化、地方自治体による高速道路の建設などにより、地方の雇用を安定的に増やし、地方経済を活性化させることで、日本経済再生の起爆剤とする。」

 この言葉がどれだけ空虚なものであるかをお目にかけましょう。

起爆剤  緊急経済対策と補助金の一括交付金化、地方自治体による高速道路の建設などの公共投資
燃焼材  産業界
酸素   国民の消費(国内の需要)
触媒   老後や病気になったときのことを心配せずに安心してお金を使える社会環境

 バブル崩壊後、企業がリストラに走って雇傭をないがしろにしているにもかかわらず、社会保険料と医療費の負担増という政策がとられてきました。その結果消費が落ち込みデフレを招いているのが今日の日本経済の姿です。
 このような状況下でいくらマッチを擦っても空しく消えてしまうだけであり、小沢一郎候補がいうように地方経済の活性化にはつながりません。まして日本経済の再生など望むべくもありません。そういうことは自公政権下でさんざん行われてきたのです。

 これは蛇足ですが、小沢候補は、「円高対策として市場介入は単独でも行うがそれでは不十分である。むしろ円高のメリットを利用して資源のない日本が海外の資源に投資するチャンスであり、十兆円二十兆円単位の金を政府が主導して投資すべきだ」とも述べています。これだけ聞くと至極もっともなようですが、小沢候補は肝心なことを言っていません。それは、過去において海外の資源に投資してきた国はいずれも自国の強大の軍事力を背景にしてきたということです。
 歴史はそれを帝国主義と呼び、植民地経営を維持するために軍隊を派遣していることが特徴でした。かつて日本も同じことをやろうとして失敗しました(というよりも帝国主義の仲間に入れてもらえませんでした)。
 日本のこれらの地域からの撤退は植民地の独立という動きをもたらし、やがて他の帝国主義国家であるイギリス、フランス、アメリカなども植民地経営から撤退するという事態をもたらしました。という現象を世界にもたらしました。しかし、先進国の資本による資源の支配は依然として続いており、そこに先進国と後進国との間で対立が生じる原因となっています。そこにうまくつけ込んで立ち回っているのが中国ですが、資源を確保するためにはなりふり構わないというのはアメリカと変わりません。チベットを手放そうとしないのはそのあらわれです。
 海外の資源に投資しても、その国の政情によってはすべてが無に帰すということもあり得るのが現在の世界情勢です。十兆円二十兆円という単位の巨額の資金を投資するからにはこのようなリスクをいかにして回避するかを考えなければならないのですが、小沢候補はそこまで述べていません。

 「活性化のための起爆剤」という聞こえの言い言葉を使う輩に共通する点は、肝心なことは黙っているということです。そして、自分に都合のいいように思い込んで大損するというのが詐欺の被害に遭う人間の共通パターンです。
 だから、こういうことを言う人間の口車に乗ってはいけませんよ、ということを申し上げるのです。
by T_am | 2010-09-06 06:45 | その他