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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

財政再建のための私案(2)

 財政再建という問題を考えていくと、マスコミが伝える情報はだいぶ不備があることに気づきます。たとえば、今年度の予算案は95兆円にもなり、そのうちの国債発行額は44兆円となっている、という指摘がそうです。これは事実であり、いささかも間違いはないのですが、情報の開示が中途半端であるといえます。
 新規国債発行額である44兆円の内訳は赤字国債が29兆円、建設国債が14兆9千億円となっています。さらに予算案の中で国債費がおよそ21兆円あり、その内訳は債務償還費(借金の返済に相当する)がおよそ10兆円、利息の支払いが11兆円あります。
 赤字国債というのは民間企業でいえば、運転資金を確保するために起こす借入金のことですから、決して健全であるとはいえません。借金の返済のために新たな借金をするという状況に陥っているのは確かですが、いわゆる「多重債務状態」(個人が借金を返済するために新たな借金をしなければならないにもかかわらず、それまで取引のあったサラ金が貸してくれないので、別なサラ金から借りること)とは異なります。金融機関は国債を買い続けているからです。
 ついでに建設国債について申し上げておくと、これは民間企業でいうところの設備投資にあたるものですから、財政法では国会の議決を得れば発行できることになっています(赤字国債は発行禁止。禁止されているはずの赤字国債がなぜ発行できるのかについては後で述べます)。
 にもかかわらず、赤字国債と建設国債を一緒にして国債発行額は44兆円というのは事実を正確に伝える報道ではありません。国債の中には建設国債のように前向きの資金調達という側面もあるにもかかわらず、それを無視してすべてが赤字国債であるかのような報道がされているのです。

 そこでクイズをひとつ。戦後もっとも新規国債の発行額の多いのは次のどれでしょう?

 1.2008年度
 2.2009年度
 3.2010年度

 2010年度であるというのは誤りで、実は2009年度というのが正解です。今年度の政府予算案が発表されたときに新規国債の発行額が戦後最大と報道されたのですが、事実は異なります。2010年度の新規国債の発行額は44兆円ですが、2009年度のそれは53兆円となっています。麻生政権の末期に、高速道路料金の上限制、エコポイント制度、エコカー買い替えの補助金支給など補正予算を組んで大盤振る舞いをしたのでこういう結果になりました。けれども、なぜかマスコミの報道は2010年度の発行額が戦後最大であると伝え、政府もそれを訂正しようとはしません。

 マスコミというのはセンセーショナルな報道を行う傾向があり、これは今に始まったことではありません。それよりも、こういう事実を正確に伝えていない報道がなされているにもかかわらず、政治家や官僚がそれを糺そうとしないことの方が問題は大きいといえます。

 ここで、次の表をご覧ください。これは財務省が公表している「戦後の国際管理政策の推移」http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/siryou/hakkou01.pdf から引用したものです。


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 2008年までは実績値であり、2009年の数値は2次補正の見込額、また2010年は当初見込額となっていますが、この表を見る限り赤字国債の発行額は2010年よりも2009年の方が大きいことがわかります。また赤字国債の発行額でも2010年の方が2009年よりもわずかに減っています。
 にもかかわらず、昨年よりも今年の方が国債発行額が減っているという報道がまったくなされないのは、民主党のばらまき政策のおかげで財政危機に陥りかねないと誰もが思っており、財政再建(=増税)の必要性を国民に認識してもらうためには絶好のチャンスだからでしょう。民主党のばらまき政策は事実であり、財政赤字が拡大しつつあることは嘘ではありません。政府発表資料を読みもしないで2010年度の新規国債発行額が戦後最大であると伝えるマスコミもマスコミですが、それをみて黙っている政府も罪が大きいといえます。

 この国では肝心な情報がいっこうに伝わって来ないというのはどういうことなのでしょうか。このたびの財政再建論議もそうですが、いったい「財政再建」とはどのようなことをいうのか誰も説明していません。財政再建という言葉を使っている菅総理でさえ、これが何を意味するのか説明したことは一度もないのです。
 普通に考えれば、財政再建とは赤字国債に依存しない体質に持っていくことを指すのだろうと思います。先ほどの表でも1990年から93年までは赤字国債に依存しなくてもいいようになっていたことがわかります。その後バブルの崩壊と阪神大震災によって1994年には赤字国債の発行が復活し、今日まで赤字国債に依存するという体質から抜け出ることはできていません。というよりも、年々深みにはまっていっているといえるのです。
 1997年橋本内閣は、財政再建という名目で消費税率を5%に引き上げました。その年の特例国債(赤字国債)の発行額は確かに減っていますが、翌年の98年には赤字国債の発行額は倍近い水準にまで引き上げられています。このことはせっかく増税しても歳出が増えれば財政再建には結びつかないということを意味しています。

 これについては、経済が失速したので赤字覚悟で財政出動に踏み切らなければならなかったのだという反論があるかもしれません。しかし、98年99年と2年連続で赤字国債の発行額を増やしてもなかなか景気は回復しませんでした(その心労のためか当時の小渕総理は2000年に急逝してしまいました)。その後、2003年(小泉内閣)をピークに赤字国債の発行額は減少傾向に転じたのですが、2008年のリーマン・ショックもあって赤字国債の発行額は再び増加に転じました。

 このことから、経済危機が起これば財政出動が不可避であり、それが財政を悪化させることがわかります。将来も経済危機は起こるでしょう。それによって財政が悪化するというのも避けられないことであると覚悟しなければならないというのもわかります。しかし、悪化した財政を立て直す手段が増税であるというならば、将来にわたって国民の税負担は増す一方であるということになります。

 自民党は消費税率を10%に引き上げることを主張しています。菅総理もそれをベースに積極的に議論しようと呼びかけました。消費税率を1%上げるとおよそ2兆円の税収が増えるとされていますから、税率を5%から10%にするとおよそ10兆円の税収増となります。ところがそれではおよそ30兆円ある赤字国債の毎年の発行額には及びません。そのことについての説明もありませんし、不足分をどうするのかという説明もありません。また、財務省が増税によってどのように財政再建を実現していくのかというプランを公表したという話も聞きません。
 聞こえてくるのは、次のようなロジックばかりです。

・増税をしなければどうにもならないところにまで来ています。
・同時に歳出のムダをなくします。
・福祉の水準は今以上に高め、安心して暮らせる社会の実現を目指します。
・法人税率を他の先進国並みに引き下げ、企業活動を活発にすることで景気回復をはかります。

 概ねこんなところですが、増税によって新たに確保された財源とムダを切り詰めることによって生まれた財源は別な歳出に割り当てられるわけですから、歳出がどれだけ減るのかは疑問です。

 いっそのこと、官僚のうちトップクラスについては、何年かに一度国民投票によって罷免することができるという制度を設けたらどうでしょうか。最高裁判所裁判官については国民審査が10年に1度、総選挙に合わせて行われるようになっていますが、それと同じことを官僚のトップクラスについては行うというものです。
 政治家の場合は選挙があるので、国民を無視した政策や行動には抑制がかかるようになっています。ところが、公務員の場合は責任が追及されることがない(早期退職制度はあっても救済策として天下り先が確保されるようになっている)ために、国民の方を向いた仕事をしていないというのがその理由です。

 大阪地裁で、国が定める水俣病の認定基準には医学的正当性がないという判決が出されました。これに対し、国と熊本県は大阪高裁に控訴するという発表が行われました。水俣病の被害者を救済する目的で制度が設けられても、認定基準が厳しいために、水俣病と認定されなかった人たちが不服として各地で訴訟を起こしています。せっかく救済制度があるにもかかわらず、現実の運用は被害者を救済するという目的に反しているのですから訴訟を起こされるのは当然であるといえます。にもかかわらず今回の控訴決定は官僚たちの単なるメンツのためであるように思えてなりません。

 公務員が国民の方を向いた仕事をしていないというのはこういうことです。官僚はさまざまな許認可権限を持っているにもかからず、国民の方を向いた仕事をしないのであれば、辞めていただくことができる制度が必要だと思うのです。
by T_am | 2010-07-23 01:26 | その他