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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

高速道路の無料化がなぜ実験になるのか

 6月28日から高速道路の一部で「無料化社会実験」がスタートしました。国交省では、無料化された区間の交通量がどう変化したかを9時間、12時間、24時間の3つのパターン(いずれも午前0時を起点とする)に分けて調査した結果を公表しています。

(9時間)
http://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_000115.html

(12時間)
http://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_000116.html

(24時間)
http://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_000117.html


 それによると、無料化によって平均交通量が、9時間の場合は155%、12時間の場合は163%、24時間の場合は179%となったとのことです。といっても、この数字は計測地点での交通量にすぎません。本来であれば、すべてのインターチェンジ間の交通量を調査するか、すべてのインターチェンジでの入出数をカウントするかしなければ実態はわからないのですが、経費の問題もあってそこまではできなかったのでしょう。
 今回公表された数値は速報値とのことですから、いずれ改めて正式なものが公表されるのかもしれません。

 でも、こんな調査をして何になるというのでしょうか?

 今まで有料だった通行料金を無料化すれば通行量が増えるのは当たり前のことであり、これは小学生でもわかる理屈です。
 一般に、実験を行うのは仮説を検証するためです。Aという現象が発生しているのはBという原因によるものである、これを仮説といい、それが正しいかどうかを検証する手段として実験が行われるのです。
 これに対して、シミュレートというのは、ある特定に現象や状況を模倣的に再現するという場合をいい、それによって仮説の検証も行われますが、新たな仮説を導き出すことにも使われます。

 今回国交省が行った調査は「高速道路無料化社会実験の効果検証」というものです。この場合の「検証」には仮説を実証するという意味はなく、むしろ実際に調べてデータを拾うというくらいの意味です。つまり、高速道路の無料化がいつのまにかデータを拾うための実験になってしまったわけです。
 単なる実験(調査)を目的とするならば、平日と土日祝日の2回に分けて調査をすれば済むことです。何も1千億円という巨額の補助金を出してまで行わなくても十分可能です。

 たぶん、無料化した効果はどれほどあったのか、ということを訊かれたときのために調査したというのが本音でしょう。それはいいとしても、道路をつくる効果の測定手法が交通量の調査しかないというのは情けないと思います。

 こういう複雑な問題を考えるときには、一歩退いて、そもそも何を目的としてそれを行うのか、ということに立ち返ると問題を整理することができます。

 高速道路をつくる目的は、一般道路を利用するよりも短い時間で移動と輸送ができるようになる、ということです(首都高があれだけ渋滞しているのは、それでも一般道を利用するよりはましだと考えている人が多いからです)。したがって高速道路がもたらす効果というのは、輸送・通勤・観光・救急医療などの幅広い分野に渡り、じわーっと効いてくるという性質のものです。
 次に高速道路の料金を割引したり無料化するのは、そうすることで利用者を増やすことが目的です。その意味では、無料化された結果交通量がどれだけ増えたかを調査するというのは理にかなっているかのようにみえます。
 しかし、よく考えていただきたいのですが、高速道路を無料化すれば交通量が増えるというのは当たり前の話です。今まで有料だった橋の通行料金が無料になったとたんに交通量が一気に増えたという事例はいくらでもあり、既にわかっていることなのです。
 このように考えると、道路の交通量を調査するのは、その道路の状況が妥当であるかどうか、あるいは、その道路の存在が妥当であるかどうかを判断するための材料集めであると考えたほうがよいのです。
 今回公表された調査結果では、路線によって交通量は極端に異なっていることが明らかになりました。交通量が最も多い(24時間)のは、長崎バイパスの38,600台です。この値はかなり高いといえるので、事故や渋滞の発生状況も調べる必要があるといえます。これらの件数(事故の場合は交通量÷事故の発生件数、渋滞の場合は発生件数と発生原因)が多い場合、道路に改良を加える必要があると判断すべきです。一方、交通量の少ない路線についてはそもそもその道路が必要だったのかどうかが疑われることになります。もっとも釜石自動車道の場合1,400台と最も少ない交通量しかないのですが、開通している区間が細切れになっているために、利便性が高いとはいえないことが影響している可能性も考慮しなければならないでしょう。と思われます。その次に少ないのが、安房峠道路の2,200台です。無料化開始前が1,900台でしたからもともと交通量の少ない道路であることがわかります。
 
 道路が新たにできて、時間あたりの移動距離が伸びることによって、人間の活動範囲は広がっていきます。たとえば、通勤圏が広がれば、さらに地価の安いところが分譲され、住宅地として開発されていくこともあるでしょう。また、今まで疎遠だった地域がひとつの経済圏・行政圏としてまとまることもあるかもしれません。
 そういう効果が現れるには時間がかかるのですが、なんといっても道路が無料で開放されることが大前提となります。私たちは高速道路が有料なのが当たり前だと思っていますが、それは思い込みに過ぎません。亀山(三重県)と天理(奈良県)を結ぶ名阪国道は自動車専用の一般国道ですし、それ以外にも地方へ行けば盛り土をした高規格道路が次々とつくられています。また、真直轄方式でつくられている高速道路は無料で供用されています。
 何がいいたいかというと、高速道路の料金を徴収する仕組みはなくすことができるということなのです。そんなことをすれば高速道路の維持費が捻出できなくなるのではないかと心配されるかもしれませんが、高速道路よりもはるかに延長距離が長い一般道路の維持費は税金から支出されているではありませんか。
 それでは財源が不足することになり、増税が避けられないと思われるかもしれません。けれども今だって高速料金の割引のために数千億円という補助金(税金)が支出されています。
 高速道路料金の割引や無料化は、料金を徴収するシステムを温存させたままユーザーの負担をゼロにするというものですから、私たちが納めている税金がこれらのシステムに注ぎ込まれているということになります。
 
 民主党も自民党も経済成長を堅持するということを述べていますが、高速料金を徴収するシステムをなくし、完全に無料化すれば経済成長を促す大きな要因となります。
 にもかかわらず、日本の社会はあらゆる分野でコストがかかる仕組みになっており、これが製造業の国際的な価格競争力を失わせるという要因になっています。だから製造業が海外に生産拠点を移そうとするのです。その結果、雇用が失われ、それだけ国内消費が冷え込むことになります。

 高速道路を無料化するということは、その利用を促すということだけでなく、日本の社会が抱えている「余分なコストを負担しなければならない」という構造をなくしていくことにつながります。ゆえに、高速道路無料化の目的とは低コスト社会を実現させるというものであると、政治家たちは認識すべきでしょう。国交省がこれを「社会実験」などと勝手に言い換えるのは言語道断です。そもそも、そういうことを許さないのが「政治主導」ではないのですか?
by T_am | 2010-07-01 00:09 | その他