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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

新型インフルエンザの流行が教えてくれたもの

 昨夜のNHKニュースによれば、「国立感染症研究所が新型インフルエンザによる国内の死者の数を推計したところ、およそ200人となり、多い年には1万人以上が死亡する季節性インフルエンザの数十分の1以下だった」とのことです。あれだけ大騒ぎしたのですから、まずはよかったと申し上げるべきでしょう。
 以下にニュースの続きを引用します。


 インフルエンザの流行では、患者が検査を受けないまま死亡したり、感染と死亡との因果関係が明らかでなかったりして、正確に死者の数を把握することが難しいため、国立感染症研究所が毎年、人口動態統計を基に死者の数を推計しています。この方法で推計すると、季節性インフルエンザの死者の数は、多い年には1万人を超えますが、ことし2月までの新型インフルエンザでは、死者はおよそ200人となり、季節性インフルエンザの数十分の1以下だったことが初めてわかりました。専門家は、医療機関でタミフルなどの治療が迅速に行われたことや学級閉鎖などで重症化のリスクの高い中高年に感染が広がるのを防いだことが、死者の数を減らすことにつながったとみています。国立感染症研究所の安井良則主任研究官は「日本の死者数は欧米に比べ非常に少ない。医療機関で対策を取り、迅速な治療をできたことが死亡者を少なくできた大きな要因だろう。患者の多くが、重症化のリスクの高い高齢者でなく比較的体力のある若い世代だったことも影響していると考えられる」と話しています。


 今朝のNHKニュースでは、さらに人口10万人あたりの死亡者数を国別に紹介しており、最悪だったのはアメリカの3.3人、フランスが0.5人、日本は0.1人ともっとも少なかったことを伝えています(アメリカの数字は記憶違いがあるかもしれません。)
 アメリカの死亡率が高いのは医療費が高いために貧困層が医者にかかれないという実態を反映しているように思えます(推測ですが)。日本の死亡率が低いのは、あれだけ大騒ぎしたので、インフルエンザに罹ったかもしれないと思った人が速やかに医療機関へ行って、きちんと治療をしてもらったことが大きいと思います。その点日本の医療というのは信頼がおけますし、健康保険制度によって誰でも気軽に診察を受けることができるというのも大切なポイントであるといえます。

 2008年までは季節性インフルエンザによる死亡者数は推計値しかないことがNHKのニュースでも伝えられています。昨年の場合はきちんと検査して新型インフルエンザに感染している人の動向が把握できていたわけですから、死亡者数把握の精度は高いといえます。推計値(2008年まで)と実数値(2009年の新型インフルエンザ)を単純に比較することにどれだけ意義があるのか疑問ですが、少なくとも新型インフルエンザは発症してもきちんと対応すればそれほど怖い病気ではないということは印象づけられると思います。
 今後も同様の手法を季節性インフルエンザにも適用すれば、季節性と新型の毒性の比較が可能になるはずです。そのうえで、インフルエンザにどのように対処したらいいのかが定まっていくことになるでしょう。実をいうと、例年のインフルエンザによる死者が1万人以上いるということが、本当にそうなのか疑わしいと思っています。ニュースにもあったように、そもそもインフルエンザの場合感染と死亡との間に因果関係が明らかでないわけです。そのあたりの定義を整理してきちんと統計をとらないと、今後同じようなことがあったときに、また混乱することになるといえます。

 昨年から今年にかけてのインフルエンザ騒動でわかったことがいくつかあります。

1.インフルエンザではその年に流行する型は1種類である。
 インフルエンザには今回流行したもののほかにAソ連型、A香港型、B型などがありますが、同時に2種類のインフルエンザに感染することはほとんどないようです。毎年どれか一つの型が優勢になると他の型のウィルスは勢力を広げることはなぜかできないようです。
2.インフルエンザに罹った人が二千万人程度になると流行は衰える。
 これも不思議なことですが、毎年インフルエンザが流行していますが、日本人のすべてがかかるということはありません。発症して苦しんでいる人がいる一方で、発症しない人もおり、むしろそちらの方が多いといえます。これは他の感染症でもいえることですが、病原体が際限なく感染を広げていくということはないようです。
3.インフルエンザは夏でも発生している。
 昨年の騒動により、医療機関では疑わしい患者に対してインフルエンザの簡易検査を行うようになりました。その結果、夏でもB型インフルエンザに罹っている人が見つかったりしたそうです。従来であれば夏風邪で片付けられていたのでしょうが、実際には夏でもインフルエンザの患者は発生していることがわかりました。ただしその数は冬に比べるとやはり少ないようです。
 新型インフルエンザが夏でも流行したのは、ウィルスの型が新しかったことが原因です。ただ、新しいといっても従来のウィルス(H1N1型)の亜種でしたので、H1N1の免疫を持っている大人はかかりにくかったようです。こどもや乳幼児の間で流行したのは、彼らが免疫を持たなかったからです。
 このように、条件さえ整えばインフルエンザは夏でも猛威をふるうと考えた方がよいので、今後再び新型インフルエンザ・ウイルスが登場したときは注意が必要でしょう。流行の最初の頃は、夏になれば流行は下火になると考えられていたのであり、その常識が通用しなかったわけですから。

 諸外国に比べ日本での死亡率が低かったのは、日本の医療制度と体制が優れていたと誇ってもよいと思います。また、例年発生している季節性インフルエンザに比べ、死亡者数が少なかったというのは、比較する数字が違う(推定値と報告に基づく実数値)ために本当にそうなのか疑問が残ります。昨年秋以降にワクチンの投与が開始されましたが、その効果がどうだったのかという検証も必要でしょう。
 さらに、マスコミが大騒ぎしたことで、インフルエンザに罹ったのではないかという心配から医療機関で診てもらう人が大幅に増えたことは事実です。内科医と小児科医の待合室が大勢の患者であふれかえっていました。結果的にそのことがよい方向に作用したといえるかもしれませんが、サーズのときにあったようにマスクがたちまち売り切れるとか消毒用アルコールが建物の入り口に設置されるという異様な光景が出現したのも事実です。
 このたびの新型インフルエンザ騒動は、わが国の医療制度と体制が優れていること、その割に行政とマスコミの対応に問題が多いこと、またそれによって右往左往する国民性が明らかになりました。これらは、科学を軽視するというわが国の教育のあり方に原因があるように思います。
by T_am | 2010-04-25 16:29 | 科学もどき

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