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カクレ理系のやぶにらみ

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時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

セイヤさんへの手紙    経済成長は本当によいことなのだろうか?

セイヤさんへの手紙    経済成長は本当によいことなのだろうか?

 セイヤさん こんにちは。

 時々新聞やテレビでGDPの伸び率について報道されることがあります。GDPの伸び率=経済成長率であり、過去の推移をみると、西暦2000年から2007年まではGDPは少しずつですが伸びて来ていました。その割に景気がよかったという印象がないのは不思議です。
 単純かつ素朴に考えれば、経済が成長すればそれだけ国内で回るお金が増えるわけですから、それまで貧しかった人もその恩恵の一部を蒙ることができるはずです。かつての高度成長時代がそうでした。
 GDPというのは、一言でいえば、消費と企業による投資と政府による支出の総和です。したがって、消費が前年よりも下回っても、投資や政府による支出の伸びがそれを上回れば、総和であるGDPは伸びることになります。
 緩やかではあるが景気は回復しているといわれても実感がともなわなかったのは、ここに由来します。そういう意味で、経済成長と景気とは必ずしも一致しなくなったといえるでしょう。
 その理由の最大のものは、グローバリズムというアメリカ式会計基準の導入でしょう。企業が財務体質を強化するために内部留保の拡大に励んだ結果、利益を計上していながら給料が上がらないという状態が何年も続きました。消費者にすれば、支出にまわすことのできるお金が増えない(ということは、企業にとっては売上げが上がらないということになります)ので、景気がよくならないという思いがつきまとうことになるわけです。

 それでは、給料を増やしてやれば支出が増えるのだから、景気は自然と回復するのではないか、という考えが出てくるのは当然です。
 しかし、日本の社会においては、企業は人件費を増やさないという選択肢をとらざるをえないようになっています。というのは、これからまだ何年もの間、社会保険料が段階的に上がっていくことが決まっているからです。
 ご存知のように、社会保険料は本人が負担するほか企業も負担することになっています。このため、今後数年間企業の人件費はイヤでも増大することが決まっているのです。そこで、企業は正社員の人数を減らし、その分を非正規雇用の労働者を増やすことで人件費の軽減を図っています。非正規雇用の労働者は正社員に比べれば給料も安く抑えられていますから、非正規雇用が増えれば、日本全体では消費支出に回せるお金が減ることになります。まして、一昨年の金融危機のように、業績が悪化すれば非正規雇用の労働者は簡単に解雇することができるわけで、それが如実に表れたのが一昨年末の「年越し派遣村」という現象でした。

 先に、GDP=消費支出+企業による投資+政府による支出 であると申しました。見方を変えれば、企業が投資するお金はエンドユーザーに対する売上げがその原資であることがわかります。また、政府による支出は税金が原資ですから、これも一般の市民が負担していることになります。法人税や事業所税は違うとおっしゃるかもしれませんが、それらの企業が支払う税金も、元を辿れば、エンドユーザーに対する売上げなのです。
 ところが雇傭が先細りになって、所得が増えない、あるいは所得が減るというのが今の時代であり、ここに少子化という現象(昨年1年間で日本の人口はおよそ18万人減ったというニュースがありました)が加わるのですから、国民の購買力は衰える一方です。
 そこで、経済成長はよいことだと考える人たちは、なんとかして消費支出を増やそうということを考えるわけです。
 その結果打ち出されたのが、エコカー減税やマイカー買い換えの補助金支給策であり、エコポイント制度です。高速道路が土日千円で乗り放題というのもこの方針に沿ったものであると考えられます。太陽光発電装置に対して自治体や国が補助金を出すのもそうです。今年から始まるこども手当や高校の授業料無償化もそうです。
 けれども、ちょっと考えてみると、それらの原資はすべて税金(もしくは赤字国債)であって、結局、補助金や手当とは関係のない人たちが広く薄く負担するということになるのです。
 エコポイント制度によって昨年家電業界の売上げは伸びたようですが、財政赤字の立て直しのために、消費税率を上げるべきだという声も次第に大きくなってきています。消費を刺激するために財政赤字が拡大するというのは、極めて危険なことではないのでしょうか。
 たとえていえば、こどもの生活を応援するために親が借金を繰り返すようなものです。その借金は親が返しきれなければ結局こどもが返していかなければなりません。となれば、こどもに金を与え続けるよりも、自立できるように支援する方がよほど健全といえるのではないでしょうか?

 消費支出を増やすといっても、生活者の実感は、こどもの養育費や教育費、ガソリン代などどうしても必要な支出がどんどん高くなっていっているというものであり、それらを払いきれないのではないかという不安がつきまとっています(現実に払いきれないという人たちも大勢出ています)。
 それは収入が増えていないということに由来しています。
 収入が増えないので結婚できないという人たちもいる一方で、すでに結婚していても、二人目三人目のこどもをつくりたいと思っても現実がそれを許さないという夫婦もいます。このような状況下では少子化とそれに伴う需要の減少が進むのも当然といえます。
 
 こうしてみると、日本の社会は悪い方へと転がっていくようなしくみになってしまったというふうに思えてなりません。
 それを解決するためには経済成長率が大事なのだと政治家や経済の専門家はいうのですが、GDPが伸びてもそれは企業の内部留保と国の借金が増えるだけであり、いったい何のための経済成長なのかと疑問に思ってしまいます。

 経済成長は本当によいことなのでしょうか?
by T_am | 2010-04-17 08:06 | セイヤさんへの手紙

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