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カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

政治家になった猪瀬直樹

 文藝春秋4月号に掲載された猪瀬直樹氏の論考「わが城を240万円でソーラー化したら」を、同氏のメールマガジンで読みました。その感想は、「この人はもはやジャーナリストではなく、すっかり政治家になってしまった」というものです。


(猪瀬直木氏のHP)メールマガジンのバックナンバーの閲覧ができます。
http://www.inose.gr.jp/mailmaga.html


 猪瀬氏の論考は、自分の事務所に太陽光発電装置を設置した経験に基づいて書かれています。経験者でないとわからないことも書かれているので、これから太陽光発電装置を設置しようかと考えている人には大いに参考になることは間違いありません。

 それは素直に認めるとして、この論考に掲載されている数字について、ジャーナリストであればもう少し踏み込んだ調査をしていたはずだと思うと残念でなりません。

 たとえば、氏と東京都の職員との会話が次のように書かれています。

「通常の電力料金は1キロワット時で24円、その2倍の48円で電力会社が買い取ります。経済産業省が試算した一般家庭のモデルですと、売電収入は10年間で100万円近い(*発電容量3.5kw、売電比率・平均6割)」
「そうか。港区ならば国と都と区で補助金は81万円。そこに10年で約100万円が加われば……」

 ちなみに、この職員が述べている経済産業省の試算とは、次のURLで参照することができます。(PDFファイルの14ページ目にモデルケースが掲載されています。)

(太陽光発電の新たな買取制度について)


政治家になった猪瀬直樹_c0136904_21452072.jpg




 このモデルケースは図表化されており、支出と新制度下(余剰電力を48円/kWhで買い取るというもの)におけるコスト回収とがわかりやすく記されています。それによると、

(支出計)
     太陽光発電システム(新築の場合)   185万円

(コスト回収)
     国の支援(補助金・減税)      約43万円
    +グリーン電力価値、自治体補助    約20万円
    +電気料金節約額(10年間の合計)   約35万円
    +余剰電力の売電収入(10年間)   約100万円
     合計                約198万円
  
 10年でちゃんと元が取れるようになっていることがわかります。念のため、補足しておくと、太陽光発電システムの185万円という金額は平成21年1月から3月に受理した補助金申請実績に基づいて試算したものであり、余剰電力の売電収入は、発電容量3.5kW、売電比率平均6割、発電効率約12%、売電単価48円/kWhと仮定して計算したものだそうです。

 ん? ちょっと待てよ。

 太陽発電システムの金額185万円という数値は発電容量3.5kWのものであるとは書いてありません。念のためWikipediaで調べてみると、発電システムの価格は1Wあたり700円ということですから、3.5kWの発電容量を持つシステムの価格は、700円×3500=245万円となります。モデルケースよりも60万円も高いではありませんか。

 もっとも自治体によって補助金の額は異なります。東京都の場合はもっと高額の補助金が支給されるそうですから、これくらいの誤差は気にならないのかも知れません。
 また、誤差があったとしても、回収機関が伸びるだけのことであり、いつかは回収できると考えて差し支えないのかも知れません。

 ところが、そう思っていたら、このPDFファイルの13ページ目には次のように書かれています。



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○現状の太陽光発電の発電コストを踏まえ、太陽光発電の設置者のコスト負担の水準や投資回収年数、国及び自治体における導入補助金などの財政支援の水準、一般家庭を含めた電力需要家の負担等に照らし、モデルケースによる試算を行い(次ページ参照)、これに基づけば、本買取制度の当初の買取価格として、48円/kWhを基本として考えることができる。
○ また、この結果として、モデルケースにおいて、10年~15年程度で投資回収が可能となると考えられる。    
○ なお、買取価格については、「とりまとめ」において、「設置する年度毎に低減されていくもの」とされており、今後、本小委員会において審議の上、大臣告示において定めていくこととする(5.参照)。


 つまり、最初は48円でスタートするけれども後になれば少しずつ安くしていきますよ、と明記してあるわけです。
 うーん、なんだか雲行きが怪しくなってきました。

 さらに、18ページ目には次のように書かれています。



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○ 本買取制度とともに、投資回収を円滑化するための支援措置(補助金)等を踏まえ、かつ、本買取制度による負担の総額、電力の需要家全ての負担を可能な限り抑制するとの観点に照らしてかんがみれば、買取期間については、過度に長くする必要はないのではないかと考えられる。
○ 「住宅用」のモデルケースにおいて、10年~15年程度で投資回収が可能となるという効果をもたらしていることも踏まえれば、買取期間は10年とすることが適切ではないかと考えられる。



 太陽光発電を設置した人は、ずっと余剰電力を買い取ってもらえるものと思っていますが、実際にはそうではないということです。猪瀬直木氏の「論考」を読むと、確かに、未来永劫買取制度が続くとは書いてありませんし、システムの設置費用を回収できるとも名言されているわけでもありません。そう思うのは読者の早とちりということなのでしょう。


 買取価格については、20ページ目に次のように書かれています。


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○今後3~5年以内にシステム価格を半額程度にすることを目指すという観点から、例えば、制度導入後2年目の買取価格について、今後必要に応じて本小委員会で再度検討を行うべきと考えられる。


 これは、太陽光発電装置の設置件数が増えれば、量産効果によってシステム価格が下がるはずなので、今後3~5年以内に半額にすることを目指す。だから、買取価格は現在の水準を維持する必要はない。と断言しているようなものです。現に、このページには「買取価格低減のイメージ」というグラフが掲載されており、それをみると5年後には買取価格が半分になっています。

 たしか14ページのモデルケースには、買取価格を48円/kWhとして仮定すると、10年間で約100万円の売電収入があると試算されていたはずです。けれども、5年後には買取価格を半分にすることも考えているというのですから、モデルケースの前提条件を否定しているわけです。

 それでは、これはいったい何が言いたくて試算したモデルケースなのか? 
これまで引用してきたことを、簡単にまとめると次のようになります。

 太陽光発電を設置すれば余剰電力を48円/kWhで買取りますよ。
 国からも自治体からも補助金がつくし、住宅減税もあります。
 ご自分の電気料金の節約努力も計算に入れると、概ね10年~15年で回収ができますよ。
 (でも修繕費や保守費用は計算には入ってませんからね。)
 それから、買取期間は10年くらいしかみてませんよ。(いつまでもあるとはいってませんよ。)
 買取価格だって5年くらいのうちに半分くらいまで下げていきますからね。


 よく読んでみれば、ずいぶんと人を馬鹿にした資料だと思います。モデルケースの試算では、支出と収入とでは、前提となる太陽光発電の規模が同じではありません。
 ニュースで伝えられているのは、最初の3つまでであり、後半の部分(修繕費や保守費用が計算には含まれてないこと、買取期間が10年程度になること、買取価格も年々下げていき5年後には半額程度まで下げるつもりであること)はまったく報道されていません。
 普通に読むと、急いで太陽光発電を設置すると馬鹿を見るということがわかる資料です。

 だって、僕らはきちんと書いたんだもーん。それをきちん報道しないのはマスコミが悪いのであって僕らのせいじゃないもんね。
 
 経済産業省という役所は、モデルケースを自ら否定するような論理を平然と展開できる厚かましさがないと出世できない組織なのでしょう。

 同様に、マスコミ人も、いわない方がいい情報はあえて伏せるということをしないと偉くなれないのかも知れませんね。そうですよね、猪瀬さん?
by T_am | 2010-04-10 22:06 | その他

by T_am