人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

カクレ理系のやぶにらみ

tamm.exblog.jp

時間のある方はお読みください。軽い気持ちで読み始めると頭が痛くなります。

窮屈な社会

 草彅剛くん(この人は「くん」づけが似合う)が公然猥褻罪で逮捕されましたが、翌日に処分保留で釈放されました。家宅捜索まで入ったということですから、薬物使用の疑いをかけられたのだと思います。その結果、薬物に関する疑惑は晴れたので無罪放免ということになったわけで、結果的には酔っぱらいが裸になって騒いだという、いささか近所迷惑な事件として決着しました。
 問題を大きくしているのは、草彅くんがいろんなコマーシャルにも出演している超一流の芸能人であったことです。出演しているコマーシャルは軒並み放映中止となり、中には契約の打ち切りという措置をとった企業もあることは皆様既にご存じのことと思います。
 注意をひいたのは、地デジ推進の所轄官庁のトップである鳩山法務大臣が草彅くんを「最低の人間」と批判したのに対して、抗議の電話やメールが殺到したということです。草薙くんのファンがそれほど多いということなのでしょう。赤坂署に対しても爆破予告がなされたとのことです。もしかすると、コマーシャルを打ち切った企業にも抗議が届いているかもしれません。

 イメージを売り物にする芸能人が、自らのイメージを失墜させるような行動をとることは自殺行為であるといえます。それはあくまでもその芸能人がファンから見放されるというだけのことです。このように、本来は単純な構図なのですが、その芸能人をコマーシャルに起用している企業の場合はそうもいかないようです。
 草薙くんをコマーシャルに起用している企業は、彼のイメージが決して華やかではないが真面目で誠実というところを見込んで契約したのだと思います。契約に基づいてお金を支払っている以上、草薙くんはそのイメージを維持するという義務を負うことになります。
 現に、所属するアイドルタレントに対し、男女交際禁止を言い渡している芸能事務所もあるくらいですから、芸能人にとっていかにイメージが大切であるかがわかります。
 したがって、草薙くんが自分からそのイメージを壊すようなことをすれば、それは契約違反となってコマーシャル契約を打ち切られても仕方のないことであると言わざるを得ません。そのことでダメージを負うのは草薙くん本人と彼が所属する芸能事務所です。
 このようなときは、とにかく謝罪して神妙にしているというのがこの国における危機管理マニュアルのイロハです。謝罪が遅れれば、謝罪がないといってケチをつけられる世相ですから、釈放された日の夜に草薙くんが謝罪の記者会見を開いたのはこのマニュアル通りの賢明な行動であったといえます。

 このような危機管理マニュアルは、本来は、社会に与える影響が大きい事件や事故に関するものです。航空機や鉄道などの大量輸送機関の事故、あるいはデパートやショッピングセンターなど大勢の人が集まる場所での火災、原子力発電所の事故などがそれにあたります。そのような事故は社会に不安を与えるので、責任者はまずそのことに対して謝罪し、事故が起きた経緯を調査し明らかにしていくことで同種の事故の再発を防止するという手順を踏みます。その一連の手続きを第三者を交えて公明正大に行うことで、社会の信頼を取り戻すというのが危機管理マニュアルの本来の目的です。
 しかし、現実はどうかというと、偉い人が頭を下げて謝るという姿に溜飲を下げる人が多いせいか、事件や事故が起きたときにはとにかく責任者が謝罪したかどうかを問題にする風潮が強くなっているように感じます。
 ですから、草薙くんの謝罪記者会見は、いってみれば火消しのための記者会見であるということになります。付近の住民は迷惑したことと思いますが、もともとたいした事件ではないので、素直に謝って神妙にする(しばらく芸能活動を自粛する)ことでそれ以上追求されることはないという計算が事務所側にあったと思うのです。幸いなことに草薙くんの熱烈なファンが、かれを誹謗中傷する大人に対し抗議してくれるという予想外の出来事もありました。さぞ心強い思いをしたことと思います。

 ところで、草薙くんはあの謝罪会見で誰に対して謝ったのでしょうか?
 夜中に騒いで迷惑をかけた近所の住民とコマーシャル契約を結んでいた企業が草薙くんと利害関係にある立場ですから、これらに対して謝るのは理屈が通っています。しかし、このような記者会見を見ていていつも思うのは、会場に来ているマスコミ関係者に対して謝っているのではないか? その彼らを通じて直接利害関係のない赤の他人に対して謝っているのではないか? という気がしてなりません。
 このたびはお騒がせして誠に申し訳ございませんでした、といって頭を下げておくというのは、そうしておけばそれ以上おおごとにはならないということがわかっているからです。それを見ている方も、なかなか感心な謝り方をしているようだからこれ以上責めるのは勘弁してやろう、以後気をつけるように、という気持ちでいます。

 いったい人を責めて何になるというのかといえば、単なるストレス発散に過ぎないと私は思うのですが、それだけにもう少し理性的に行動してはいかがなものかと思います。特に、謝罪のあるなしをことさら取り上げるマスコミの姿勢は実に見苦しいといえます。しかし、それに対して誰も異を唱えない社会の方も窮屈であると思います。桑原桑原。
by T_am | 2009-04-27 23:14 | あいまいな国のあいまいな人々

by T_am